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アイドルの君よどうか、壊れないで。(Hey!Say!JUMP LIVE TOUR「PULL UP!」を通して)

 1年ぶりのライブだった。東京の公演になかなか当たらず初めての遠征に踏み出した私は、慣れない環境での一泊にかなりの気力を使った。

 ライブ前の、アイドルオタクたちが集まる空間、特に若い女の子がキャッキャとはしゃいだり、大金を片手にチケットを売り捌いてる姿を見ると吐き気がする。開場前はどうしても苦手でホテルに戻りたい気分だった。

 開場し、チケットを発券すると、カウントダウンコンサートに引き続きアリーナを当てた。ライブが始まれば、そんな不快感どうでも良くなった。目の前にきた「アイドル」を見た。キラキラのスパンコールがついた衣装を身に纏い、深い帽子から覗く、いつもテレビで見ているのとは違う、キラリと、ピカリと輝く瞳に吸い込まれるように、私は彼に釘付けになった。目の前に来るたび、カメラで抜かれるたび、白い肌に、細い腕に、ふわりと靡くオレンジ色の髪の毛に目を奪われ、大きな声で彼の名前を呼んでいた。彼が振り向く、その焦茶色の瞳がペンライトを振るファンの群れを捉える。その瞬間、私は稲妻に打たれたように、彼から目が離せなくなった。ふざける姿も、普段は見せない尖ったダンスも、色気のある声も。全部全部、コンサートでしか見せない彼で、この1年見てきた「彼」はなんだったのだろうかと思ったほどだった。

 音楽に乗せて不思議と体は動き、照明に合わせて目線は踊り、アイドル「伊野尾慧」の降臨した京セラドーム大阪のアリーナ席A15ブロックで、私は神様に祈りを捧げるが如く、彼に目線を注いでいた。

 彼は今回私の前であまり振り向かなかったけれど、他のメンバーもたくさん目の前でその表情を見せてくれた。どれも、この世のものとは思えないほど美しくて、本当に、本当に儚くて、綺麗で、触れたらパリンと割れてしまいそうだった。

 セットリストの最後の曲は「キミノミカタ」。メンバーは曲紹介で、「ファンの皆さんが僕らの味方でいてくれるからこうやって僕らが輝ける」と言った。

「そんなの、」と思わず口から溢れる。

「そんなのこっちのセリフじゃんか。」と。

あなたたちの煌めきが、儚さが、私の生きる原動力なのに。そんな汗と涙の煌めく顔で、そんなにまっすぐな瞳でそんなふうに言われたら、私、勘違いしてしまうかもしれない。私が、私なんかの存在が、あなた達を支えていると思ってしまうかもしれない。素直に泣きたい気持ちと、素直になれず私なんかにそんなこと言わないでと跳ね除けたくなる気持ちのせめぎ合いでライブは終わった。

 現実に引き戻される。欲に塗れた人間達が、やれ落下物が欲しい、銀テープが欲しいなどと言いながら、大群を成して駅への道を塞いでいる。自転車を漕いでいる地元の人間らしき少年が、「地獄だ」と呟きながら隣を通り過ぎていった。

 持論、アイドル、ないしは推しに対して、「私がいなければいけない」と言う感情を持ったら、オタクはオタクとしての本来の意味を失う。昨今世間を騒がせている地下アイドルや地下の芸人などは、「チケットを買って欲しい」と言うのに対して、idolとしての地位を全うしている演者は、「遊びに来て欲しい」「絶対に楽しませる」と言う。私は、オタクは一生演者の元に「遊びに行く」人間であるべきなんだと思った。
 今日彼らが私たち観客に言った、「いつも支えてくれてありがとう。僕らは皆さんのおかげで、こうやって自分たちが1番輝けるステージという場にいることができる。」には2通りの解釈があると考える。「私たちも楽しいよありがとう」と思うか、「私たちが支えるからね」と思うか、だ。後者を拗らせてしまえば、散財や精神の疲弊を招くのではないか。
 アイドルを「支える」私たちの自覚は、どうあるべきなのだろうか。そもそも、オタクが楽しむことと、演者を支えることは結びついているのだろうか。私たちが演者を「支える」ことは、意図的なのか、それとも偶然なのか、などと考えながら、東海道新幹線に揺られていた。

 彼に、彼らに会わなかったこの一年、そして、大阪に行ってまで会おうと思ったこの選択。私は決して間違っているとは思えない。パフォーマンスを見て、眩い光を放つ「アイドル」を目の当たりにして、ライブの途中で彼がカメラに抜かれた時、美しい笑顔を見せた時、反射的に思った。

「あなたのおかげで、あなたのせいで、あなたに振り回されて揺れ動く心を深く深く研究したい。もっとあなたに夢中になって、そんな自分をもっと体系化したい。今、あなたの声で歓声をあげた自分は、誰なんだろうか。」

 春から心理学専攻の大学生になる私は、彼のために生きること、彼に揺れ動く自らを研究することを今回のライブで強く確信した。
 私の「これから」は、彼と共に、彼のために、そして、彼のことが大好きな私のために、生きていく。

 これは、ただのアイドルオタクの私が、「推し」心理学を研究する人間になるまでの、ほんの序章の物語。

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