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別居婚にシェアハウス子育て。私らしい選択を重ねてたどり着いた「自分自身が誰かの道標になる」生き方

結婚や出産などのライフイベントと向き合う人に向けて、悩み、迷いながらもさまざまな選択を重ねてきた人の歩みを紹介するこの企画。


どう生きたいか、何を幸せと感じるかは人によって大きく異なるため、決して「こうすべき」という模範解答があるわけではありません。悩みながらご自身で出した答えこそが、あなたにとっての正解です。今日もあなたが選んだ一歩を誇りに思い、大切にしてほしいのです。

答えが出ないぼんやりとした不安の中にいる方にとって、この体験談がご自身の人生のヒントを見つけるきっかけになれば――。そう願いながら、さまざまな方のエピソードをお届けしていきます。

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今回お話を聞いたのは、地元の山梨県都留市で「田舎フリーランス養成講座(通称:いなフリ)」の地域マネージャーとして働く美緒さん。2020年に出産し、育休中の旦那さんと協力しながら仕事と子育てに奮闘しています。

学生時代から教育への関心が高かったという美緒さんですが、「理想の教育のあり方を叶えられている」と感じる現在の仕事に就くまでには、紆余曲折の日々がありました。そんな美緒さんが、自分らしい生き方を実現するまでの道のりを振り返ります。

追い求めたのは「理想の教育のあり方」。教育学を学んだのち、人材教育系企業に

ーーー美緒さんが教育に興味を抱いたきっかけはなんでしょうか?

中高生の頃から、既存の学校教育のあり方に疑問を持っていたんです。勉強はできる方だったし、部活動にも真剣に取り組んでいたけど、「先生が上の立場にいて、生徒が教え込まれる」という構図が嫌で。先生には反抗し続けていました。

その根底には、今も昔も「同じ目線に立って対話してくれる大人の存在で、可能性や能力が引き出されて開花する人もいるはず」という思いがあるからかな。そんな「理想の教育のあり方」を追求するために、教育学を学べる大学に入りました。

大学に進学してからは、必ずしも学校の先生にならなくても、教育には携われると考えるようになって。卒業後は、都内の人材教育コンサルティング会社に就職しました。

昔からわりと物怖じしないタイプで、行動力だけはあったんです。大学生の頃から、面白いと思う大人には自分から会いに行くようにしていて。本を読んで「この人すごいな」と思った人に直接メールを送って、大学に講演に来てもらったこともあります。そんな活動をしていたおかげで、その会社とも縁が繋がりました。

ーーー具体的には、どのような事業を行っている会社だったのでしょうか?

経営者に向けたセミナーや人事制度の設計・コンサルティングを行う会社ですね。「研修を通して目標達成のための技術と、人間関係をより良好にするための心理学を両輪で学ぶ」というのがコンセプトで。

仕事はとても楽しくて、人間関係もよかったんですよ。同僚やお客さんにも恵まれて、成長できました。ゴリゴリの営業会社だったから鍛えられて、自分が本来持っていた力が引き出されたと思います。

ーーーいわゆる体育会系な雰囲気だったのでしょうか。

そうですね。中学校のときは全国大会に出るような部活をやっていたので、そういう雰囲気は苦ではない方かも。上からああしろ、こうしろ、と押し付けられる教育に対しては反発心を覚えるけど、「みんなで一緒に頑張ろう」って組織の空気感にはなじめるタイプだと思います。

学生時代も、学校そのものというよりも、目的のわからないことを押し付けられる教育が嫌だったんです。自分が納得いかないことを、納得できないままやらされるのが嫌いで。

就職先の会社では明確なゴールが設定されていて、そこに向かってみんなで走っていくので楽しかったですね。お互いの関係性をより良くすることにもこだわっていて、働いていて気持ちのいい環境でした。2011年4月から2016年1月まで、5年弱お世話になりました。

子育てと仕事を両立するビジョンが描けず退職。地元・都留で第二の人生を歩む

ーーー「働いていて楽しかった」という会社を辞めたのはなぜでしょうか?

自分のライフプランを見直すうちに、この会社で長期的に働き続けるのは難しいと思うようになったんです。会社や仕事は好きだったけど、あまりにも忙しすぎて。今は楽しいからいいけど、ずっと続けることはできないなと。

中でも、そこで働き続けながら子どもを育てる未来が描けなかったことが一番大きいですね。周りを見渡すと、当時の先輩たちは結婚しても子どもが持てなかったり、昇進している人はみんなシングルだったりして、働きながら子育てをするロールモデルがなくて。今は社内の事情もだいぶ変わってきているみたいですけど。

ーーー働きながら子育てをすることは、当時から描いていた未来だったんですね。

そうですね。昔から「仕事」と「子育て」という両方の形で、人が本来持っている力を解放して伸ばしたり、素質が開花する瞬間に立ち会ったりする経験をしたかったんです。単純に、子どもが大好きというのもあるし。

そんな経緯で、2016年の1月に退職して、山梨県都留市の実家に戻りました。「実家で腰を据えていろいろ考えたら、そのうち何か見えてくるかな」という気持ちで、次の働き口も未定のまま。そのときはとにかく疲れていたし、ゆっくりしたくて。

とは言え貯金が全然なかったので、ひとまず生活費を稼ぐために、母の友達が夫婦でやっている社労士事務所で事務のアルバイトを始めました。その3か月後には、地元のNPOの職員になって。「自然と調和する暮らしを作り出す」といったコンセプトで活動するところでした。

ーーーなぜ、急にNPOに入ろうと思ったのでしょうか?

完全に、都会暮らしに疲れた反動ですね。「ゆっくり休む=自然と触れ合う」という安直な考えもあったし、東京にいた頃は消費しかしてなかったから、何かを生み出す活動がしたいなって。「都会で生きていた私は、仮に大災害があったときに生き抜く力がない。どこでも生きていける力をつけるには自給自足だ!」みたいに振り切れちゃって(笑)。

でも、実際に入ったら私にとっては体力的にハードな仕事で、ついていけなくなっちゃって。2か月で辞めて、また社労士事務所に戻りました。当時の収入は会社員時代の1/3で、完全な財政難でしたね。

「とりあえずやってみる」行動力が、夫との縁を運んできてくれた

ーーーバリバリのキャリアウーマンから、一転して財政難に……。変化の大きい人生ですね。

でも、大変なことばかりではなくて、良い変化もあったんですよ。NPOでの活動をきっかけに、個人でも友達と一緒に畑をやるようになって。平日は社労士事務所で働き、土日は畑や田んぼで農作業をする日々がスタートしました。

ある日、友達やその子どもたちが一緒に畑作業している光景を見ていたら、ふと「私がやりたかったことってこれじゃん!」と気付いたんです。当時は将来のビジョンなんて全然見えていなくて、興味があることに片っ端から手を出す生活をしていたのですが、動きながら模索していくうちに見つかるものもあるな、と感じました。

――持ち前の行動力がいい方向に働いて、だんだん目指したい方向が見えてきたんですね。

そうですね。行動してから「私はこれがやりたかったのか」と気付く、の連続でした。頭の中で考えすぎるのではなく、とりあえずの行動から生まれた結果を見て、自分の本当の気持ちを答え合わせするイメージです

そんな生活を続けるうちに、都会と田舎をつなぐことに興味が湧いて。たまたま市役所で観光アドバイザーを募集していたので、応募してみたんです。選考には漏れてしまったけど、そのときに市役所の方と縁がつながり、観光や農業に関わる産業課でアルバイトすることになりました。

同じ時期に、知人が「移住するから家が空くんだよね。代わりに住まない?」と声をかけてくれて。これも、Facebookに「都会と田舎をつなぎたい」みたいなことをつらつらと書いたのがきっかけだったんですけど。ゲストハウスをやっている家だったので、ゲストハウスの運営も一緒に引き継ぐことになりました。

ーーー「人との縁」も、美緒さんの人生を構成する大きなキーワードになっていそうです。

そう思います。夫と付き合うことになったのも、ゲストハウス運営のおかげなんですよ。初めての経験だったので、やったことがある人に話を聞いてみたくて、古い知人だった夫に連絡したんです。

知人と言っても過去に一度会ったきりで、どんな人か実はよく知らなくて。なので、会う前に彼のFacebookを見てみたんですが、結婚相手に求める条件を挙げた「パートナー検定」というものを自作して公開していて。面白い人だな、と興味を惹かれました。

しかも、試しにやってみたら結構高得点だったんです(笑)。そのことを伝えたらアタックされて、再会から1か月で結婚を前提に付き合うことになりました。

ーーー急展開ですね……!どうして交際しようと思ったのでしょうか?

一見おふざけのようなパートナー検定でしたが、文章の端々から彼の真剣さが垣間見えたんですよね。実際に話を聞いてみると、やっぱり「自分はどういう人生を送りたいのか」「結婚相手はどんな人がいいのか」と真摯に向き合って作ったものだったらしくて。自分の人生に対して妥協しない、誠実なところに魅力を感じました。

それまで自分よりも優秀で忙しい人とばかり付き合ってきたけど、夫は全然違うタイプなんです。おっとりしているけど意志が強くて、私のことをすごく好きでいてくれる。結婚するならこういう人がいいな、という気持ちが自然に湧いてきました。

ーーー再会してすぐに付き合うことには、不安を感じませんでしたか?

確かに、あまりにもスピーディーな告白だったので、勝手に理想化されているんじゃないかと思う部分もありました。なので、ありのままの自分を知ったうえで判断してほしくて、過去の恋愛や人間関係の失敗談を全部話してみたんです。

でも、一通り話した後に「もっと好きになった!」と言われて。敵わないな、この人となら大丈夫かな、と思えました。その後すぐにプロポーズされて、再会から4か月後に入籍しました。

ただ、結婚当初から子どもが産まれるまでの3年ほどは、夫は東京、私は都留で別々に暮らしていたんです。

別居婚にシェアハウス。さまざまな出会いのおかげで生き方の選択肢が拡がった

ーーーどうして入籍後も離れて暮らす選択をしたのでしょうか?

夫は東京に実家と仕事が、私は都留に畑やゲストハウスがあったので。しかも私の仕事や活動は、ちょうど「ようやく芽が出てきて、これから面白いことが起きそう」というところだったし、都留を離れるのがもったいなくて。

そもそも、東京と都留ってそんなに離れているわけではないんですよ。電車で2時間弱くらい。簡単に行き来できる距離だし、週末はだいたい会っていたから、特に寂しい気持ちはなかったですね。

2018年からは、それまで千葉県の金谷で開かれていたwebフリーランス向けの合宿講座「田舎フリーランス養成講座(いなフリ)」を、都留にも誘致することになって。その地域マネージャーに就任したんです。一度は一緒に暮らす話も出たけど、いなフリのスタートでますます都留での暮らしが楽しくなったので、その話もなくなりました。

とはいえ、子どもは欲しかったのでゆるく妊活はしていて。2019年に妊娠して、2020年2月に出産しました。子どもが産まれるタイミングで夫が育休を取り、都留に来て、そこで初めて一緒に暮らすことになったんです。

ーーー家族で暮らし始めて、二人の関係性はどう変化しましたか?

一緒に生活して共同で子育てをするようになってからの夫は、一緒に人生を創造する「チームメイト」になりました。別居婚時代のときめきや新鮮さはないけど、違った形の愛は生まれているかな。夫と子どもが同じ姿勢で寝ているのを見たりすると、尊いな、愛おしいなと感じます(笑)。

すぐそばにいることで、何気ない出来事をタイムリーに共有できるのもいいですね。子どもの成長を一緒に見守れるのも楽しい。ちなみに今は家族だけでなく、シングルの男性ひとり、女性ひとりと自分たち一家で、一軒家でシェアハウス暮らしをしています。

ーーー家族とシングル二人でシェアハウス生活というのは、めずらしい形ですよね。

そうかもしれません。ただ、同居人やいなフリ関係者みたいな第三者の目が家庭内に常にあるのって、実はなかなか悪くないんですよ。夫婦間ですれ違いがあってもあまり感情的にならず、うまくバランスを取りながらやれるというか。

世間的には家族+シングルのシェアハウスは少数派かもしれないけど、自分たちの周りには何組かいるんです。もし周りにいなかったら、想像がつかなくて選択肢にも上らなかったかもしれません。どんなことにおいても、いろんな選択肢があることを知るのは大事だな、と。

ーーー多種多様な生き方をしている人が周りにいるかどうかで、視野の広さはずいぶん変わりそう。

そう思います。別居婚も同じですよね。結局、大多数の人が「結婚って一緒に暮らすもの」と思う理由は、そうではない暮らしをしてる人が身近にいないからなのかなって。

私たちの場合は、二拠点生活をしている夫婦がたまたま近くにいたんですよ。それぞれ別の場所で過ごすことが日常的にあるけど、すごく仲がいいご夫婦で。こんな夫婦関係が理想だなと思えたおかげで、別々に住む選択をすることができました。周りの人たちのおかげで、いろんな夫婦関係、いろんな生き方があるんだと知れたのはとてもよかったですね。

自分自身が「選択肢」になることで、そばにいる人の可能性を解放したい

ーーー現在は、仕事量をセーブしながらいなフリ運営に携わっているとのことですが、いずれはフルで復帰する予定なのでしょうか?

そうですね。年明けからはもう少し仕事に割く時間が増える見込みです。夫は自分の育休が明けたら東京に戻るので、また別居婚になります。コロナの影響等もあって、夫が戻る時期はまだ未定なのですが。仕事復帰後は実家の助けを借りたり、ファミリーサポートを活用したりして、生活を回していくつもりです。

ーーーなるほど。いなフリのコンセプトは「人生の選択肢を拡げる」だと聞いたことがありますが、美緒さんの教育観とも重なる部分がありそうですね。

はい。それを自分自身が体現すること自体が仕事になっている今の環境は、私に合っているなと思います。私の生きる姿を見て「こういう生き方もありなんだ」と思ってくれる人たちがいる。なんだかんだで、学生時代から思い描いていた、理想の教育のあり方を実現できているかもしれません。

ーーー実際、美緒さんの人生は「選択肢を拡げる」の連続で成り立っていますよね。人との関わりの中で選択肢の幅を拡げながら、自分に合うものを選び取ってきたというか。他の人のロールモデルになり得るステップを、自分の生き様で体現している方だなと思いました。

ありがとうございます。本当のキャリア教育って、立派なことを言ったり指導したりするものではなく、自分自身が誰かの選択肢になることだと思うんですよね。会社員時代もそう思っていたし、今も自分の人生を生きながら再確認しているところです。

私自身も、今まで出会ってきた人たちがいてくれたからこそ、今の自分があると思っていて。今後も、自分の生き方を通して、周囲の人や今後について悩んでいる人にとっての選択肢になりたいし、そばにいる人たちの可能性を解放する存在でありたい。そんな気持ちで、引き続きやっていきます。

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インタビューにお答えいただいた美緒さん、こちらでも日々情報発信されています!
Twitter:@naramio0512

「いつか子どもが欲しい…かも?」という人向けに、今から意識しケアしておくと良いことをご紹介しています!
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ライター:小晴
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