連載小説 砂上の楼閣5
『計画5』
諸井春彦は、ビル8階の事務所から窓外を眺めていた。
その視線の先には五友証券、松永清香が働く業界最大手の札幌支店が見える。
清香のデスクは窓側なので、春彦の事務所からはその様子が伺える。
春彦は清香の行動パターンを把握するため最適なこの事務所を借り、この半年ずっと観察していた。
山上充と清香が簡単に接触出来るのも、春彦が情報を与えていたからだ。
しかし今日はいつもと違う。朝から彼女が出社していない。平日の水曜日。今までに無い事だった。
何かあったのか?春彦が推測を始めた時、事務所のドアが開いた。充だった。
『ノックしろと、いつも言ってるだろ。』
「彼女、ヤバいぞ!」
充は春彦の言葉を無視して、開口一番そう叫んだ。
『何かあったのか?』
春彦は先程からの疑問にも促され、前のめりで尋ねた。
「昨夜、拐われそうになった。相手は……あの河村だ。」
『河村……。』
河村謙次。忘れもしない。10年前のあの事は忘れるはずもない。
『河村がどうして……。』
春彦はうわ言のように呟いた。
「彼女から聞いたが、親父さんに結婚を勧められているようだ。あの河村と。」
そんなバカな!なんと言う男。俺はヤツを少し甘く見ていたかもしれない。
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