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連載小説 砂上の楼閣4

『計画4』

会食を終え、逃げるように店を後にした清香は、何となくその足を “すすきの” 方面へ向けた。

金と地位と名誉。ほぼそれだけに終始する会話は、聞いているだけで虫酸が走る。

父も連れてきた男も同じ匂いがした。決して自分とは交わる事はないと確信した。

河村謙次。あの男は必ず父を利用してのし上がる。野心の塊のような男だ。しかし私とて、黙って言いなりにはならない。

そんな事を考えながら、気付くと行き付けの店があるビルの前まで来ていた。

“ もう少し呑み直しましょうよ。” 

ビルの前には、その河村謙次がいた。

『どうしてここが?』

怒りを抑え、努めて冷静に尋ねたつもりだが、声は震えていた。

“ いづれ妻になる人ですから。”

薄ら笑いを浮かべ、河村は何でもない事のように答えた。

『勝手に決めないで!』

その場を立ち去ろうとして、その手を強く掴まれた。

“ 俺をあんまり舐めない方がいい。”

そのまま引っ張られ、近くに停まっていたタクシーへと引き込まれる、が……。

引っ張られていた右腕が軽くなり、清香は再び車外へ戻される。反対の左腕を男に引っ張られて。

男は清香を助ける際に、河村をタクシー内に蹴り込み、その隙に連れ去ったのだ。後方で河村の怒鳴り声が聞こえた。


“ すすきの ” の外れから大通公園まで走り続けた二人は、噴水の前で呼吸を整えていた。漸く少し落ち着いてくる。

『有難う御座いました。助かりました。』

清香はそう言ってから、相手の顔をまじまじと見詰めた。

『貴方は。あの時の。』

「トラブルメーカーですか?貴女は?」

男は笑いながら、清香を揶揄する。

「もう偶然とは言えないかな。」

『偶然じゃないんですか?』

清香は混乱する頭で次の言葉を考える。

『貴方は誰なの?』

「山上充。」

男は動じる事なく、そう名乗った。




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