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紙媒体の神様【ピリカグランプリ応募作品】

※こちらの作品は、ピリカグランプリ応募作品です。テーマは「紙」とのことです。

#秋ピリカ応募

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 雑誌、フリーペーパー、書籍のゴーストライター。これまで、私が仕事で携わった紙媒体は数知れない。人々は、私を紙媒体の神様と呼ぶ。

 今から10年前、私は物書きになりたい生徒を集めて、ライター講座を開講した。講座を開いた理由は、プロ意識の高いライターを育てたかったからこそ。

 あの頃、SNSでライターを名乗る者たちは「初心者でも稼げる」を謳い文句として、怪しげなセミナーを開講する者たちで犇き合っていた。この流れを、なんとか食い止めなければ。

「いいか、文字数は絶対に揃えろ」

「300文字と指定があれば、誤差は前後2文字までだ」

 生徒たちにそう伝えると、たちまち顔が青ざめてゆく。どの生徒たちも、私の指示に怯える者ばかり。そんなことでは、売れっ子ライターになれる訳がないだろう。

 そう叱ると、生徒は決まってこう言った。「じゃあ、どうすればいいんですか」と。

「自分で考えろ。フリーランスになったら、信じられるのは自分だけだ」

 私は彼らを突き放した。物書きの仕事は、孤独だ。自分で考えられない人間は、いつか行き詰まり、筆を折ることになるだろう。

 彼らのために、私は必死だった。けれど、その想いは彼らに伝わらなかったらしい。生徒達は、無言で私の元を次々と去っていった。

 それからしばらくしたのち、私の講座は、SNSや口コミサイトで叩かれ始めるようになった。

あの教室は、傲慢な講師のワンマン運営。

通っても時間の無駄。講師が生徒に教える気がない。お金を返して欲しい。

講師に酷いことを言われて、傷つきました。

 講座の口コミは散々なもので、私の評価も地の果てへと落ちていく。

「講座を畳んだら、元の仕事に戻ればいいか」

 その考えも甘かった。時代の流れとともに、私が長年仕事に携わってきた雑誌は、次から次へと休刊を余儀なくされたのである。

 IT化の普及に伴い、ライティングの仕事はWEBの時代へ。紙とWEBでは、ルールも仕事の取り方も違うはず。時代の流れとともに、私も戦い方を変えなければいけないのだろうか。

 ふらふらとした目つきで携帯の画面をスクロールする。インターネットを徘徊していると、私は「WEBライター講座」と書かれた広告バナーを発見した。

 パソコンを開いて佇んでいる女の隣には、小さな子どもが不自然な笑みを浮かべている。女も子どもも、表情にどこか違和感がある。AIで作られたのであろう。

 WEBライター講座は90日で、40万円か。私の貯金は、現在60万円しかない。家賃も生活費も必要だし、大丈夫だろうか。

 いや、私は紙媒体で一時代を築いた男だ。私は鼻息を荒げて、講座の申し込みボタンをポチッとクリックした。

総文字数(1,083文字)



(応募した感想)

 実は応募する前に、他の作品をチラチラと見てしまい、レベルが高すぎて震えてます……!さすが凄腕の創作家が集うnote!!

 ピリカグランプリが、ビビりグランプリになってます!!!!

 イベントが盛り上がることを、密かに応援しております。

 

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