見出し画像

ティッシュみたいな男に振られて

※こちらは、note界に咲くひまわりこと「本田すのうさん」の企画に参加しています。

 企画の主旨と合ってるかわかんないけど、ちょっと思いついたので……。

#ティッシュを否定する


 ボックスから伸びる「あの子」を見るなり、アイツを思い出す。風に揺られて、ゆらゆらと。気分屋で、掴みどころがない。

 「LINEは個人情報がダダ漏れだから、僕は登録しないんだ」

「メールのやり取りは、ショートメールでいいかい?」

「電話をかける時も、必ずショートメールをして欲しい。急に電話がかかってくると、職場の人もびっくりするから」

 注文の多い料理店みたいな男だった。一体アイツは、何から逃げてるのか。指名手配犯のような言い回しを聞くたびに、私は首を捻る。

 それでも、彼を完全に嫌いになれない理由もあった。顔がモロ好みだったのだ。

 彼は色白で、シュッとした坊ちゃんタイプ。清潔感があり、貴族のようなオーラを纏う彼。芸能人だと、東山紀之さん、あとはフェシングの太田選手に似ていたかも。友達に写真を見せれば「かっこいい」と褒められ、私は天狗になった。

 彼はどこか謎めいていて、掴みどころがなくて。まるでティッシュみたいだった。

 そんなアイツとは、出会ってから半年後に別れた。振られたのは私。結婚するのか、しないのか。半年以内に結婚しないなら、私は別れるのだと。そうアイツに詰め寄った。

「どうして、急にそんなことを言うんだよ」

 私とアナタは、すでに35才。子どもだって欲しい。ならば、将来について真剣に考えないといけない。そう詰め寄ると、アイツから思いもよらない言葉が出たのである。

「子どもなんて、40になっても産めるよ」

 じゃあ。お前が産めぇぇぇぇ!!そう叫びたいのをグッと堪えて「私はそれでも、早く子どもが欲しいから結婚したい」と、グイグイおした。みるみる顔が真っ青になるアイツ。

 この人は、私の子どもが欲しくないのだろうか。苦しむ彼の様子を見て、なぜか辛くなった。私はただ、人並みに結婚して子供が欲しいだけ。

 躊躇している暇はない。早く婚姻届に印を押しますと、それだけ誓ってくれればいいのだ。

 でも彼は、首を縦に振ろうとしなかった。翌日「別れよう」と言われ、私たちの関係は終焉を迎える。

 それから何年か過ぎて、私は別の人と結婚した。4年後、子どもも産まれた。すっかりアイツのことを忘れていたある日、見知らぬ人間からLINEが届いたのだ。

 LINEの名前は、アイツの本名だった。あんなに、LINE拒否していたのに。個人情報ダダ漏れだから、俺は絶対やらないって言ってたじゃないか。ついに魂を売ったのか。

 「元気?」

元気に決まってるだろうが。その前に、アンタのことはすっかり忘れていたし。こちらは幸せなので、そっとしといて欲しい。

 でも私も馬鹿だから「何の用事ですか」と丁重に返した。金を貸してくれとか、そういうケースもあるし。(※相手は金持ちそうだったけど)

 すると、まさかの返事が届いたのである。

「やっと、結婚というものを考えられるようになった。久しぶりにまた会いたい」

 一生寝とけ。今更ジロー。されど、ジロー。あのさ、今私。何歳だと思ってるの?

 私、41才だよ。それまで、あなたのこと待ってると思った?子どもが欲しいと言ってる女が、君を待つわけないだろう。

 人生には、チャンスというものがある。それを逃したら、次は来ない。チャンスがきたら、ちゃんと掴まないといけない。

 私は君に、チャンスをあげたのだ。君はそれを断った。今の私が独身ならまだしも。夫も、子どもいる身である。

 無理だ。君の気持ちは、もう受け取れない。

「私は結婚したし、それに子どもが産まれました。ごめんなさい」

 この断り文句は、きついだろうか。ごめんなさい。でも、もう君とは会えないんだ。すると彼から、驚きの回答が届いたのだ。

「そうなんだ。じゃあ、誰か紹介してくれない?」

ぶん殴っていいですかね。

 その瞬間、私は何も言わずにLINEをブロック。その後、彼が婚活しているかどうかは知る由もない。

 今でもあの人が、本当に独身だったのか。何者だったのか。よくわからない点も多い。ただ元サヤに戻りたいとは、一切思わないし。何の未練もなかった。彼は今の夫より、私を幸せにはできないと思ったからだろう。

 今でも、ゆらゆら揺れるティッシュを見るたびに思う。掴みどころがなくて、謎めいていて。ちょっと引っ掻くとすぐ破れてしまうアイツみたいだなぁと。

 今回は、本田すのうさんの企画に参加してみました。ちょっと違うかもしれませんが、もし違ったら突っ込んでください(笑)


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?