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記憶と忘却のあはひ/浮遊する名前

2月の第2週目にあったことー。

記憶と忘却のあわひ

顔は浮かぶのに、その人の名前が出てこない。
年齢を重ねれば、よくあること。
私の場合は、名前が出てこないどころか、
全く違う名前が脳内をゆらゆらと浮かんできて、
主張してしまうクセがあるらしいのだ。

先日も、職場の廊下で
「そんなに親しくない人」とすれ違い、会釈をした。
えっと、名前…アレ?
「オカノ」という名前が、脳内を巡る。
絶対違うのに。

オカノとは誰だったのだろう。
中学の同級生で
日に焼けた、おでこと目の大きな男の子の顔が
記憶のひだから現れた。

もうそうなると、オカノしか出てこない。
オカノ、オカノ…。
本当の名前など全く思い出せなくなる。
「そうだ、あの人はオカノにそっくりだから…」
なんて、言い訳もしてみる。

数日後、シャワーを浴びていて
ふと、「あの人はサイトウだった!」
とひらめいた。

浮遊する名前

サイトウという名前には確信が持てるのに、
またしても、脳内でオカノが幅を利かせてくる。
サイトウを、オカノがぐいぐいと押しのけそうだ。

「オカノ」と「サイトウ」の割合が
7対3ぐらいになる頃には
職場の廊下に、オカノくんが
ひょっこりと現れそうな気さえしてくる。
学ラン、坊主頭のまま。
私に「部活なんて、やめちまえ」と
笑ったあの子が。

職場のトイレの前に、よくおしゃべりする同僚が立っていた。
「おはようございます、オオトモさん…」と声を掛けた。
「ええ、オオトモ?だれ?」と、
その人は、不気味そうに私を見た。

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