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2020年ブックレビュー『流浪の月』(凪良ゆう著)

私たちは、人との関係をよくある「カテゴリー」で縛ってしまう。
「家族」「夫婦」「親子」「恋人」「友人」などなど。そのどれにもあてはまらないけど、一緒にいられずにはいられない間柄。

でも、もしそれが世間を敵に回すような関係だったらー。2020年本屋大賞を受賞した凪良ゆうさんの「流浪の月」では、「世間からは許されない関係性」が描かれる。

主人公の少女更紗は、大好きな父親を病で失った後、母親も恋人と失踪してしまうという悲劇に見舞われる。預けられた伯母の家では、従兄に性的なイタズラを受けて心を傷つけられる。
 そんな時、公園で雨に濡れていた更紗に「ウチにくる?」と声を掛けたのが、男子大学生の文。文はいつも公園で遊んでいる少女たちを見詰めていたために、「ロリコン」だと思われていた。文のマンションに居着いてしまった更紗は、文と一緒に過ごすことに開放感と幸福感を味わう。
 けれども、更紗は世間では、誘拐事件に巻き込まれたと認識されていた。2人の幸せな時間は更紗の保護と文の逮捕で、あっけなく終わってしまう。
 それから15年ほどの月日が流れ、大人になった更紗は誘拐事件の被害者として、文は加害者としての過去に苦しめられながら再び出逢い、引き寄せられていくー。

更紗は被害者ではないし、更紗にとって文は加害者ではなく、救ってくれた「恩人」だ。しかし、1度ネットに流出した情報は拡散され、真実は覆い隠される。世間は「事件の被害者と加害者」としてのレッテルを2人に貼り、一緒に過ごすことを許さない。

更紗の恋人だった亮は、更紗を「ストックホルム症候群」(誘拐事件や監禁事件の被害者が犯人との間に心理的なつながりを持とうとする心的外傷後ストレス障害)と決めつけてしまう。

読みどころは、文と更紗の関係が「男と女」ではないことだ。世間は既成概念から外れた、理解しがたい「間柄」「関係」を許さないし、歩み寄ろうとはしない。他人がどう言おうと当人たちが幸せだったらいいじゃない、というのは通用しないのだ。

それは、LGBTの人たちに向ける世間の目にも言えること。理解が深まってきたとはいえ、「生産性がない」と切り捨ててしまう国会議員さえ存在するのだから。

私たちの「想像力」とは何のためにあるのだろう。心の自由を奪われた人たちのために、私の想像力もフル回転させなくてはー。



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