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蒼色の月 #101 「その日①」

その日はとても風が冷たい朝だった。
夫が家を出て、不倫相手の家に転がり込んでから間もなく一年。
私はいつも通り、子供達を学校に送り出した。
今日この後、自分たちの両親がなにをするかなど、全く知らない子供達は私の作った弁当を手に元気に玄関を後にした。

長男、悠真、高校3年
長女、美織、中学3年。
もうすぐ人生の一大イベント、ダブル受験。
悠真は東京の大学を、美織は地元の高校を受験する。
悠真のセンター試験までは、もう3か月しかない。
だが、大学進学にかかる一切の費用は、まだ確保できていないのだ。
夫が進学費用は出さないと、主張しているからだ。

今思えば、私の貯金は私の名義にするべきだった。
私は20年間、一度も自分の給料を手にしたことがない。
私の給料は、家族の将来のための貯金として、直接夫名義の通帳に振り込まれていた。
それが浅見家のやり方。義母もずっとそうしてきた。義父にそう言われると
嫁として嫌とは言えなかった。

そんな自分の弱さを、私は今さらながら後悔している。

「私たちのお金の管理を、お義父さんに任せるのおかしくない?」という私の問いに。
「親父なんだから、俺たちに悪いようにはしないだろう」と夫はまるで他人事だった。

まさか20年後、夫が不倫をし、その上大事な我が子の進学費用を出さないなどと言い出すとは想像も出来なかった。
私は甘過ぎた。バカだった。危機管理能力のなさに自分のことながら呆れる。だから自業自得なのだ。NOと言えなかった私が悪い。

私のせいだからこそ、長男の大学進学が決まるまで、私はなんとしても夫に進学費用を家族の通帳から出させなければならないのだ。残高はあるのだから。コツコツと2人で貯めてきた家族のお金なのだから。

昨年別居した夫は、ベンツの新車を買った。
夫は高級車をほしがるようなタイプではない。不倫相手へ良いところを見せたかったのか。それとも不倫相手にねだられて買ったのか。今となってはどっちでもいいが。
そんなくだらない理由のために、大事な我が息子の大学進学を断念させることは絶対にできない。
現在夫は、女とその母親と無職の息子を養っている。
そしてうちの息子には大学進学はやめにしろと言っている。そんな理不尽な話はない。

夫にも不倫女にも、罪悪感はないのだろうか。ないから平気でやっているのだろう。

そんな人たちのために、大事な息子の将来を歪められるわけにはいかない。あと3ヶ月しかない。
間に合うのか。
いや、なにがなんでも間に合わせるしかない。
長男は、夫が大学進学の費用を出さないと言っていることを知らない。父親はちゃんと自分のために、お金を出してくれるものだと今も信じている。
そんな子供たちの心をこれ以上、私は傷つけたくない。
傷つけさせない。
傷つけるわけにはいかない。

あの子たちの、あの笑顔を消すことは絶対に私が許さない。

今日、家庭裁判所にて、離婚調停が始まる。
長い長い私の法廷闘争が始まる。




mikotoです。つたない記事を読んでいただきありがとうございます。これからも一生懸命書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!