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夜に遠くの電車音が聞こえるとほっとするという話

夜になると遠くの電車の音が聞こえる。

昼間には聞こえない。もっと近くで沢山の音が溢れているから。
みんながそれぞれに、ごちゃごちゃと活動している昼間。
昼間の空気は暖かい。地面が熱をどんどん溜め込んでいる。
そこで動きまわっている私たちのいろんな感情も、熱として吸収されているかもしれない。

そして夜になると、地面の熱は宇宙へと一気に逃げる。空気はうんと冷たい。これが、放射冷却現象。
空気がうんと冷たくなると、音波はより遠くへ届く。
それに私たちは活動をやめて休息するから、夜はとても静か。
だから遠くの電車の音が夜にだけ聞こえてくる。私の家の、暗い部屋のベッドまで。

この夜の電車の音を聞く時間が好き。

「冷たい」から「ほっとする」?
ちょっと変な感覚。
多分これは、ふわふわした羽毛ぶとんの気持ちよさではなくて、風邪の時に使う氷まくらの気持ちよさ。

電車の音は、規則的な独特の間隔でガタンガタン、ガタンガタン、ガタンガタン…と繰り返している。
今まさに走っている情景が私の頭に伝わる。
遠くの誰もいない暗い線路に思いを馳せる。
音が情景と共に空気中を伝わって私の耳まで届く感覚が分かる。
そして、昼間の喧騒、雑多な感情を溜め込んだ熱が全部逃げていって、冷たく澄んでゆく空気をイメージする。
そうすると、まるで私の心の中も同じように澄んでゆく気がする。

仕事で失敗したり、誰かの言葉に傷ついたり、自分の言動を後悔したり。そんなことは日常茶飯事。
時にはポジティブな出来事が起きても、過剰な驚き、喜び、楽しみの感情はある種の心の負荷になっていることもある。

そんな私が、冷たく澄んだ夜の気配に癒されるのも、当然かもしれない。

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