見出し画像

優しい家族に潜む心の傷/瀬尾まいこ『幸福な食卓』

Kindle unlimitedで何を読もうか探していたら、瀬尾まいこさんの『幸福な食卓』が対象になっていることを発見。
瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』が好きなので、同じような穏やかな家族ものかなと思って早速読んでみました。

軽い気持ちで読み始めましたが、これは電車で読む方は注意した方が良いかもしれません。
ちょっと変わった家族の優しい物語かと思いきや、最後涙が止まりません。

「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」という一文から始まる本作。
母はすでに家を出ていっており、状況だけ聞くと、「え?家庭崩壊?」と思ってしまいますが、そんなことはありません。

母は家を出ていったけど料理を届けに来るし、父も「父さん」という役割は辞めたけど、変わらず子供たちと楽しく暮らしています。
兄の直ちゃんもちょっと変わっているけど、家族思い。
家族の形態は普通と少し違うけれど、仲の良い家族です。

常識にとらわれない自由な家族なのかな、と思いながら読み進めていくと、だんだん分かってくるのは、過去の事件と未だに残る心の傷。

家を出たことで心を守る母、父さんという役割から逃げた父、深く真剣に考えないように必死にシンプルに生きようとする直ちゃん。
みんなどこか歪です。

主人公・佐和子の言葉を借りると、「とても優しい家族」です。
ただ、お互いの心の傷をいたわり合い、腫れ物のように扱いながら、努力して平穏が保たれている家族です。

しかし、たとえ歪であっても、この歪さがなければ、この家族はみんな心が壊れていたでしょう。
別に家族だからといって、心の内をすべて晒す必要もなければ、思ったことをすべて伝える必要もありません。
本音でぶつかり合うことだけが、必ずしも正しい家族の在り方ではないような気がします。

傍から見ると歪で不安定な家族ですが、お互いを気にかけ、優しく見守っています。
後半で佐和子に悲しい出来事が降りかかりますが、この家族がいれば大丈夫。時間はかかるかもしれませんが、きっと乗り越えられます。

それに、この家族にはヨシコさんがいる!
ヨシコさんの不思議な強さが、これからもこの家族を救ってくれるでしょう。

さて、本作は何と映画化もされていたらしく、主題歌はMr. Childrenの『くるみ』。もうずっと頭の中を『くるみ』が流れています。

もし本作を読んでみようと思った方は、読後に是非『くるみ』も聴いてみてください。
心にじんわりきます。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?