Serafina and the Black Cloak

ビルトモア・エステートという屋敷の地下で父と暮らしているセラフィナは、あるとき黒マントの男が少女をさらうのを目撃する。少女はマントに包まれたかと思うと姿を消した。少年少女の失踪は相次ぎ、屋敷は不安に包まれる。セラフィナは黒マントの男の正体をあばき、命をかけて対決する。実在する大豪邸と幻想的な森を舞台にしたホラー・ファンタジー。

作者:Robert Beatty(ロバート・ビーティ)
出版社:Disney-Hyperion(アメリカ)
出版年:2015年
ページ数:296ページ(日本語版は~350ページ程度の見込み)
シリーズ:既刊4巻
ジャンル・キーワード:ホラー、ミステリー、ファンタジー


おもな文学賞

・ミソピーイク賞児童文学部門ノミネート (2016)
・Goodreads賞児童書部門ノミネート (2015)
・Goodreads賞新人作家部門ノミネート (2015)
・パット・コンロイ・サザン・ブック賞児童書部門受賞 (2016)
・レベッカ・コーディル児童文学賞ノミネート (2020)
・ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー

作者について

ノースカロライナ州アッシュビル在住の作家。クラウドコンピューティングのパイオニアでもあり、2007年にはアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー(新たな事業領域に挑戦する起業家の功績をたたえる国際的な表彰制度)の候補者となった。本書はニューヨークタイムズのベストセラーランキング1位に輝き、60週以上ランクイン。20言語以上に翻訳されている。

おもな登場人物

● セラフィナ:12歳の少女。ビルトモア・エステートの地下に父と暮らしている。
● ブレイデン・ヴァンダービルト:12歳。ヴァンダービルト夫妻の甥。2年前の火事で両親を亡くしたため、おじ夫妻に引き取られた。ドーベルマンのギデアンが友達。
● ジョージ・ヴァンダービルト:実業家。アッシュビルに大豪邸ビルトモア・エステートを建てた。30代だが、年齢よりもずっと若々しく見える。
● モンゴメリ・ソーン:ヴァンダービルト氏の招待客のひとり。バイオリンやピアノをたしなみ、ロシア語を話すなど多才。
● クララ・ブラームス:ピアノの才能がある少女。ヴァンダービルト氏の招待客の娘。行方不明になる。
● アナスタシア・ロストノフ:ヴァンダービルト氏の招待客、ロシア大使の娘。2週間前から行方不明。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 セラフィナは父とふたりでビルトモア・エステートの地下工房に住んでいる。母はいない。父は数年前に屋敷の建設にたずさわったあと、行く場所がなかったため地下に残り、現在も技師として働いている。セラフィナは、昼間は寝て、夜になると屋敷を歩き回った。ネズミ捕りがセラフィナの密かな仕事で、ネズミを捕まえては森に放している。セラフィナには人間離れしたところがたくさんあった。夜目が異常に利き、耳も鋭く、足音を立てずに動くこともできる。髪の色は金色と明るい茶色が混ざり、鎖骨まわりの骨格はいびつで、足の指は4本ずつだった。
 12歳になり、母のことが知りたくてたまらなくなったセラフィナは、父に母のことをたずねる。すると衝撃的な話を聞かされた。父は、生涯の伴侶を求めたものの縁がなく、結婚していなかった。森をさまよっていたとき、琥珀色の目をした獣に導かれるようにして出会ったのが赤ん坊のセラフィナだった。父は人目をしのんでヤギの乳を与え、大切に育てた。

 ある晩、セラフィナは黒いマントの男が少女を地下にひきずっていくのを目撃する。助けようとして後を追うが、少女はマントに飲みこまれるようにして消えた。翌朝、父に話したが信じてもらえず、屋敷のだれかに報告することにする。華やかな招待客たちに気後れしていると、ドーベルマンを連れた少年に話しかけられた。屋敷の主ヴァンダービルト氏の甥ブレイデンだ。そのとき、ロビーが騒がしくなった。招待客のひとり、ブラームス夫人の娘クララが見当たらないという。セラフィナは黒マントに襲われた少女がクララだと思ったが、自分のことをきかれるのが怖かったので姿を隠した。ヴァンダービルト夫妻たちは外出を中止し、クララの捜索を始めた。
 セラフィナは、馬車で出かけようとするブレイデンと再会し、ドーベルマンのギデオンとともに一緒に乗った。屋敷の周辺で少年少女の失踪が続いているため、知り合いの家に預けられるところだという。セラフィナは素性を聞かれ、最初ははぐらかしたが、技師の娘で屋敷の地下に住んでいると話した。真っ暗な森のなかで、急に馬車が止まった。前後が倒木でふさがれ、立ち往生したのだ。そのとき、黒マントの男があらわれ、ブレイデンに襲いかかった。御者の少年ノーランがブレイデンをかばったが、黒マントに包まれると姿が消えた。セラフィナとギデアンは必死に黒マントの男に飛びかかり、男は退却した。いつのまにか、付き添いのクランクショッド氏もいない。セラフィナは、屋敷の地下でも黒マントの男を見たこと、クララが消えたことをブレイデンに話した。馬車のなかで夜を明かすと、ヴァンダービルト氏と招待客たちがブレイデンを探しにきた。クランクショッド氏は助けを求めに屋敷にもどっていたようで、一緒に捜索隊に加わっている。セラフィナは森にかくれた。一行は斧で倒木を切ると、ブレイデンを連れて帰った。
 ひとりになったセラフィナは、このあたりにあったという村を探すことにした。だれも住んでおらず、幽霊と悪霊がさまよっていると噂されている。森の奥は危険だから近づかないよう、父からも念を押されていたが、セラフィナは前々から森に惹かれるものを感じていた。草木が生い茂った道を進むと、墓地に行き着いた。見渡すかぎり、崩れかけた墓石が並んでいる。墓石同士が近いことから、噂で聞いたように死体がはいっていないと思われた。行方不明になったまま帰らなかった人のために建てたのだろう。さらに奥に進むと奇妙な空き地があった。中央には翼の生えた天使像がある。右手には剣をたずさえていて、よく見ると本物の剣だ。空き地のはずれの洞穴から、ピューマの子どもが2匹出てきた。セラフィナに気づくと、怖がることもなく寄ってきた。セラフィナは一緒になって遊んだが、母ピューマが戻ってきてセラフィナに襲いかかる。セラフィナは必死に逃げた。母ピューマが追いかけていないところまで逃げ切ったが、もはや森のなかのどこにいるのかわからない。セラフィナは川をたどることにした。そうすれば平野にたどりつくと父に教わったのだ。夜、セラフィナは自分を探しに来た父と会い、無事に屋敷に帰った。

 屋敷では行方不明になった子どもたちの捜索が続いていたが、手がかりはなにも見つからなかった。セラフィナの父は数日前に壊れた発電機の修理をしていたが、こちらも難航していた。招待客にはランプやろうそくが配られていたが足りず、異様な状況にだれもがおびえていた。
 セラフィナは黒マントの男がブレイデンを狙っているに違いないと考え、ブレイデンを守るためにブレイデンの部屋にしのびこむ。ブレイデンはセラフィナが無事だったことを知り安心した。セラフィナにとってはもちろんブレイデンが初めての友達だったが、ブレイデンにとってもセラフィナが初めての友達だった。ブレイデンは友情の証にとドレスをプレゼントした。ブレイデンの母がクララのために用意したものだが、セラフィナは初めてのドレスを喜んだ。そのとき、廊下から足音と衣擦れの音が聞こえた。黒マントの男だ。足音はブレイデンの部屋の前で止まり、ノブに手をかけたが、鍵が閉まっていたのでそのまま歩き去った。ほっとしたものの、翌朝になって司祭の息子が消えたことがわかった。
 3晩続けて、3人の子どもが失踪したことになる。警察に任せようという声もあれば、地元の警察はあてにならないという意見もあった。大人たちは互いを疑いはじめ、険悪な雰囲気になる。ヴァンダービルト氏はあらためて屋敷を慎重に捜索することにした。セラフィナとブレイデンは、排気用の通路をつたい、ゲストの部屋に黒いマントがないか探したが、見つからなかった。

 重苦しい雰囲気を払拭するため、ヴァンダービルト夫人は食事会を開いた。招待客のひとり、ソーン氏がパイプオルガンの演奏を披露し、子どもたちのために物語を語った。セラフィナは排気通路から様子をうかがった。ソーン氏はバイオリンも弾け、ロシア語も話せる。いい人だが、セラフィナはなぜか違和感を覚えた。ピアノはクララの特技だったし、同じく失踪したアナスタシアはロシア大使の娘だ。セラフィナは屋敷の裏でブレイデンと落ち合うと、招待客のことを詳しくきいた。
 ソーン氏は南北戦争の後、家も財産も失い、酒びたりの日々を送っていたが、酔っ払って森の井戸に落ちたのを助け出されてから、心を入れ替えたそうだ。機械工として工場で働き、支配人まで出世したのち、弁護士になった。そしてアッシュビルに土地を買ったという。にわかには信じられない話だった。セラフィナは、機械工の経験があるなら発電機を壊せたかもしれない、と考える。ソーン氏が黒マントの男で、子どもたちの魂を自分の中に取り込んだのかもしれない。しかし、ソーン氏に好感を抱いているブレイデンは信じようとしない。ヴァンダービルト夫人がブレイデンを探しにきたので、セラフィナは隠れる。ヴァンダービルト夫人は、ふたたびブレイデンを避難させると話した。あしたの朝、ソーン氏に付き添ってもらって出発するという。

 黒マントの男をつかまえるのは今夜しかない。セラフィナは自分をおとりにしてソーン氏をおびき出すことにした。ブレイデンからもらったドレスを着て、談話室から出てくるソーン氏に見えるように廊下に姿をあらわす。思惑どおり、ソーン氏はセラフィナのあとを追って外に出た。森へと走り、墓地を通って天使像のある広場へ抜ける。セラフィナはピューマの巣穴へ身をひそめた。2匹の子どもはいたが、母親はいない。ソーン氏が巣穴にはいろうとしたところに、母ピューマがもどってきてソーン氏に襲いかかった。しかしその後、母ピューマはセラフィナにも牙を向けた。巣穴の奥へ追いつめられたセラフィナは母ピューマと見つめ合い、なにか通じあうものがあるのを感じる。自分と同じ、琥珀色の瞳をしているのだ。母ピューマは慎重にセラフィナのにおいをかぐと、子どもたちのとなりに身を横たえた。
 セラフィナは巣穴から這いでた。ソーン氏は横たわっているが、黒マントがセラフィナに呼びかけた。あらがいがたい誘惑を感じ、マントを羽織ると、いままで犠牲になった人たちの姿が見えた。マントのなかに魂がとらわれているのだ。そのとき、意識をとりもどしたソーン氏がセラフィナに襲いかかった。そこへギデアンが飛び込んできて、ソーン氏にかみつく。ブレイデンがよこしたのだ。母ピューマもソーン氏に飛びかかった。セラフィナは天使像の剣で黒マントをずたずたに切り裂いた。ソーン氏は息絶えると黒い煙と化した。煙が晴れると、マントの餌食になっていた子どもやおとなたちが地面に横たわっていた。みな生きている。おとなたちは、死んだとされていた村の住人たちだった。そのなかの一人の女性がセラフィナの目をひいた。自分にそっくりだったのだ。この女性こそ、セラフィナの母レアンドラだった。レアンドラは半人半ピューマで、どちらにも自由に姿を変えることができた。人間の姿で森を歩いていたとき、黒マントの男に襲われ、人間の魂だけが黒マントに奪われていたのだ。身ごもっていたレアンドラはピューマとして生き延び、出産した。セラフィナだけが人間の姿で、自分で育てることはできなかったため、森をさまよっていた人間にセラフィナを託した。それがセラフィナの父だった。

 森を出ると、ちょうど捜索隊が出るところだった。行方不明だった子どもたちと親は奇跡の再会を果たした。セラフィナも愛する父に抱きしめられた。ダイナモの修理も無事に完了したという。レアンドラはピューマ姿のほうが慣れていたので、森の端まで見送ると、巣穴へと帰った。ブレイデンはセラフィナをヴァンダービルト夫妻に紹介した。初めて人前に出たセラフィナを夫妻はあたたかく迎え、甥に友達ができたことを喜んだ。そしてセラフィナ親子が地下で暮らし、地下を気に入っていると知ると、家具を手配してくれることになった。
 セラフィナは、この世には想像を絶するような闇もあるが、光もあると学んだ。運命は自分で切り開くことができるということも。そして、これからの母との交流を楽しみにし、引き続きビルトモア・エステートを守っていこうと決意を新たにした。

 実在するビルトモア・エステートを舞台にしたホラー・ファンタジーだ。ビルトモア・エステートは全米最大の個人所有の邸宅で、1895年に完成した。本作はその4年後、1899年の物語である。作者ロバート・ビーティの住む町の名所であり、ビーティ自らビルトモア・エステートや森の散策を楽しむなかで生まれた物語だ。
 セラフィナは父とともに人知れず屋敷の地下に暮らしていたが、思春期を迎え、自分の素性と外の世界に強い興味を抱く。父の愛には恵まれているものの、母親と友達に飢え、自分の殻を破っていく。思いがけない結果が待っていたが、自分が何者かを知ったセラフィナは納得し、誇りを持って前を向いていく。夜の場面や危険な森の場面が多く、幻想的で緊張感ある物語が展開し、セラフィナとブレイデンが交流する場面で心がなごむ。ピューマの血が流れているセラフィナの鋭い五感を駆使した描写も豊かだ。荘厳な屋敷の描写だけでなく、大人たちを観察する様子も興味深い。読者はセラフィナとともに、黒マントの男はだれかを探っていく。
 なお、作中では黒マント自体の歴史も描かれている。かつて、魔術師が知識や技術を得るために作ったものだったが、邪悪な力が働き、魂を吸い取る魔物と化した。恐れを抱いた魔術師は黒マントを井戸に葬ろうとして、自分も一緒に井戸に落ちた。その井戸にソーン氏が落ち、マントの力を手にしたのだ。
 緻密に練られた世界のなかで、ホラーやミステリーの要素に子どもたちの成長や大人の人間模様が絡み合う、読み応えたっぷりの物語だ。セラフィナと邪悪な力との戦いは今後も続く。これからのセラフィナの活躍も楽しみだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?