BRIGHTSTORM

前人未踏の地、南極星点を目指していた父ブライトストーム教授が死んだという知らせが入った。父の死に疑問を感じたふたごのアーサーとマウディは、真相をさぐるため、そして父の名誉を回復するためにスカイシップで南極星点を目指す。

作者:Vashti Hardy(ヴァシュティ・ハーディ)
出版社:Scholastic Ltd.(イギリス)
出版年:2018年
ページ数:348ページ(日本語版は~400ページ程度の見込み)
シリーズ :既刊3巻(続編刊行予定あり)


おもな文学賞

・ブルー・ピーター文学賞ロングリスト (2017)
・ウェストサセックス児童文学賞受賞 (2019)
・ウォーターストーンズ児童文学賞ショートリスト (2019)
・Awesome Book Award(新人児童文学賞)ショートリスト (2019)

作者について

イギリスのブライトン近郊在住の児童文学作家・コピーライター。創作をサセックス大学で学んだ後、チチェスター大学で修士号を取得した。児童文学作家を支援する出版社と作家の組織ゴールデン・エッグ・アカデミーの創設者でもあり、積極的に活動している。小学校の教員経験もある。デビュー作の本書は、数々の児童文学賞にノミネートされた。

おもな登場人物

● アーサー・ブライトストーム:12歳の男の子で、マウディとはふたご。生まれつき右腕がなく、マウディが作った金属の義手をつけている。読書好き。オーロラ号ではコック見習いとしてフェリシティを手伝う。
● マウディ・ブライトストーム:アーサーとふたごの女の子。エンジニアだった母親似で、機械に強い。アーサーの義手を作ったのは10歳のとき。オーロラ号ではエンジニア見習いをつとめる。
● アーネスト・ブライトストーム教授:ふたごの父で、探検家。ヴィオレッタ号で南極星点初到達をめざすが、命を落とす。
● ハリエット・カルペッパー:若い女性の探検家で、アーサーとマウディを乗組員に採用する。自宅を改造したオーロラ号で南極星点に挑む。
● フェリシティ・ウィゲティ:オーロラ号のコック。どんなときでも食事と紅茶の準備は欠かさない。隊員募集のときにアーサーとマウディと知り合い、いろいろと気にかける。
● ユードラ・ヴェイン:女性探検家で、ブライトストーム教授やハリエットのライバル。代々探検家を輩出している名家の出身。大型で高性能のヴィクトリアス号で南極星点をめざす。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 舞台は、ヴィクトリア朝の雰囲気がただよう、第一大陸・第二大陸・第三大陸からなる世界。第三大陸には前人未踏の地、南極星点があり、初到達をめざして熾烈な賞金争いが繰り広げられていた。代々探検家を輩出している名家から新興探検家までこぞってレースに参加し、空飛ぶスカイシップで南極星点をめざした。
 ふたごのアーサーとマウディは、レースに参加していた父ブライトストーム教授が死んだという知らせを受ける。地理学会で開かれた報告会では、女性探検家ユードラ・ヴェインがブラッドストーム教授に燃料を盗まれたこと、そして教授の探検隊が野生動物に襲われて全滅したことを報告する。ユードラ自身も南極星点をめざしていたが、巨大な山脈にはばまれ帰国したばかりだった。
 倫理規定違反により、ブライトストーム教授の全財産は没収された。アーサーとマウディはスラム街のベギンズ夫妻に売られ、奴隷のような生活を強いられる。3か月後、父が探検に連れていっていた知能動物(サピエント)の鷹パルセナが帰ってきた。かぎ爪には、父が肌身離さず身につけていたロケットが絡まっている。野生動物に襲われたのなら、ロケットをパルセナに渡すなんてできただろうかと、ふたりは父の死に疑問を感じ始める。
 南極星点初到達レースが再開した。アーサーとマウディは若い女性探検家ハリエット・カルペッパーの探検隊に応募する。採用通知が届いたのはレースの前日だったり、出発ぎりぎりまで監禁されたり、誰かに妨害されているようだったが、どうにかギリギリでスカイシップに乗り込んだ。

 ハリエットのスカイシップ、オーロラ号では、マウディはエンジニアの見習いとして、アーサーはコックのフェリシティ見習いとして働いた。アーサーは自由時間を図書室で過ごし、『第三世代の探検家』という本を読む。この本には有名な探検家の特徴や功績、紋章がまとめられていた。ブライトストーム家はまだ新しいので載っていないが、ハリエットやユードラの家は載っている。ユードラの家の紋章にレモンの絵が描き加えられていることに気づいたアーサーは、本にレモンの汁をたらしてみた。すると、本に書かれた輝かしい功績とは真逆の、悪事の数々を記した文章が浮かび上がった。オーロラ号は第二大陸通過時も、大金で雇われた盗賊に襲われるなどピンチに陥ったが、すべての妨害行為の犯人はユードラの可能性が高かった。

 南極星点をめざす4隻のうち、第三大陸に入った時点で残っていたのはオーロラ号とユードラのヴィクトリアス号だけだった。出発時のアクシデントでオーロラ号はだいぶ遅れをとっていたが、動力が水のため燃料補給にかかる時間が短く、次第に距離をつめていった。そしてついに、オーロラ号がヴィクトリアス号を抜く。喜んだのもつかの間、大きな衝撃とともにエンジンが爆発し、オーロラ号は森に墜落した。南極星点に行けないと沈むアーサーに、ハリエットは探検隊を二手に分け、徒歩で南極星点をめざす少人数の部隊と、船を修理して待機する部隊を編成すると話した。諦めるのはまだ早かった。
 思いがけない援軍も現れた。高度なサピエントのテレパシー・オオカミだ。直接頭の中で会話することができる。テレパシー・オオカミの背に乗せてもらい、ハリエット、アーサー、マウディ、フェリシティの4人とパルセナは南極星点を目指した。途中、雪に埋もれたヴィオレッタ号を見つけた。ブライトストーム教授のスカイシップだ。調べてみると、燃料庫はからっぽだ。ユードラから燃料を盗んだという話は嘘になる。ハリエットは証拠写真を撮った。

 最後かつ最大の難関は、南極星点の前につらなる険しい山脈だ。ハリエットたちは地下に張りめぐらされた洞窟をたどって反対側を目指す。洞窟のなかでは、ブライトストーム教授の凍結した遺体と探検日誌を発見した。探検日誌には、ユードラが毒入りプディングを持ってきたことや、ヴィクトリアス号の隊員が燃料を盗んだこと、鉛筆の芯が尽きてこれ以上書けないが、子どもたちを深く愛していることがつづられていた。
 山脈を抜け、南極星点まであと一歩というところで、山脈を爆薬でくり抜きながら進んできたヴィクトリアス号に抜かれた。ユードラは南緯90度を示す計器と時計を手にカメラに向かってほほえみ、ハリエットたちが集めた証拠品に火をつけさせる。「なぜそこまでするんだ!」とつっかかるアーサーに、ユードラは衝撃の事実を伝える。ユードラと、アーサーたちの母ヴィオレッタは姉妹だったのだ。ヴィオレッタが周囲の反対を押し切って名門ヴェイン家を捨て、ブライトストーム教授と結婚したため、ユードラは教授をずっと憎んでいたのだ。
 帰り道、父の眠る洞窟に、マウディは髪をとめていたリボンを、アーサーはずっと機械の腕の中にしのばせていた本の切れはしを残した。そして父のカメラを持ち帰った。そのカメラでヴィオレッタ号の証拠写真を撮り直し、オーロラ号に戻った。船はもとの半分の大きさながらも、飛べるようになっていた。ハリエットはアーサーとマウディに一緒に暮らさないかと持ちかけ、ふたりは喜んで受け入れた。

 オーロラ号が帰国した頃には、すでにユードラが南極星点初到達者として新聞の一面を飾っていた。ユードラの悪事の証拠をそろえるためにハリエットが写真を現像すると、思いがけないものが写っていた。ブライトストーム教授が計器と時計を持っている写真だ。計器が指しているのは南緯90度。撮られたのは1年以上前。教授は南極星点に行く途中ではなく、帰る途中で命を落としたのだ。
 ハリエットたちの報告を受け、地理学会はブライトストーム教授が無実であることと、南極星点初到達者として認めることを発表した。こうして、父の名誉は回復した。

 冒険が大好きという作者が、極地探検家アーネスト・シャクルトンや女性飛行士アメリア・イアハートなどにインスパイアされて書いた作品だ。特にシャクルトンの影響は随所に見られ、隊員募集の際に「歌は好きか」と聞くエピソードも使われている。現実の南極点初到達レースも数々のドラマを残したが、新進気鋭の作家ヴァシュティ・ハーディの描く南極星点初到達レースも手に汗にぎる展開が繰り広げられる。
 舞台はヴィクトリア朝の雰囲気がただよう架空の世界で、スカイシップが空を飛ぶ。探検家は家の紋章のタトゥーを手首に入れていたり、人間のことばを理解するサピエントと呼ばれる動物や昆虫を連れているなど、独特の世界が築かれている。
 キャラクターも魅力的だ。アーサーはハンディがあるものの、本を読むのがすきでじっくり考えて問題を解決する力がある。ユーモアもあって、腕がない理由を聞かれるたびに「クロコダイルに食われた」などジョークで返している(本当は生まれつき腕がない)。機械に強くてエンジニア志望のマウディは利発で、体の不自由なアーサーをいつもサポートする。そして時には、感情に流されて行動しがちなアーサーをいさめる。若いハリエットは独創性にあふれ、美人で探検家のサラブレッド、ユードラはピンクの染料を発見した一族出身で、つねに全身ピンクでコーディネートしている。
 作者は小学校の教員だったこともあり、子どもに寄り添うように、無理なく楽しめるように物語を構成している。話の流れが一方向なので筋を追いやすく、テンポよく物語が進んで飽きない。『黄金の羅針盤』や、日本の読者にはおなじみの『天空の城ラピュタ』のように飛行船が活躍する新しい作品として是非オススメしたい。エンディングでは次の冒険を予感させて終わっいるが、2020年に発表された第2巻『DARKWHISPERS』では期待を裏切らない、さらにスケール感のある冒険が展開する。

シリーズ紹介

第2巻 DARKWHISPERS
行方不明の探検家エルミタージュ・ウィグルスワースを探すため、ユードラが大規模な捜索隊を組んだ。ユードラの真の目的が何なのか気になりつつも、アーサーたちもオーロラ号で参加する。記憶を奪う怪鳥の生息地を越え、多くの探検家が消えた幻の島を目指す。

第3巻 FIRESONG
アーサーとマウディは、ふたりにしか聞こえない不思議な歌に導かれるように、最北の離島で暮らす祖父母を初めて訪ねる。しかしスカイシップの旅は順調に進むものの、誰かにつけられているような感覚がぬぐえなかった。前回の冒険で記憶を失ったユードラは本当に記憶喪失なのか――。新たな攻防が繰り広げられる。

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