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子育て中の同僚の言葉。そして先は見えないけれど。【美術館再開日記16】

コロナな日々になってからは、同僚とのランチが今までよりもずっと大事なものになった。特に子育て中の同僚たち、のなかの女性たち。そうでなくても大変なのに、コロナもやってきて、はかり知れないストレスを日々抱えているはずだ。

でもみなさん我慢強いので、言わない。なのでランチどきに、こちらから訊いてみたりする。そのたびにハッとする。日記は、うんとささやかなことだけに、とどめた。


美術館再開52日目、7/31、曇り。お誕生会ランチで。

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都内のコロナ感染確定者ざっくり500人。
世田谷区は独自に強力なPCR検査態勢を取る。
そんなことより台湾の「民主先生」97歳で逝去。

髪ボサボサ状態の金勘定の合間に、
レストランで年下の同僚とランチ。
2人とも7月生まれなので、ちょっと遅い
合同誕生会をしようと、先日誘ってあった。

私はかなりどーでもいい格好だったが、
同僚は素敵なワンピースを着ている。

よくよく見たら、数年前に私が彼女に譲った
(というか、なかば押し付けた)ものだった。
長身でほっそりしたひとに似合うデザイン、
自分は身長がちょっと足りないのに、買っちゃったやつ。

わー綺麗に着てるね、押し付けてよかった〜笑、
と言ったら彼女はニコニコして、

妊娠中、ちょっとお出かけする時とかに
愛用してたんです。
お腹が出てても出てなくても、着れて。

コロナでずーーーーーーーーっと、
おめかしして外食なんてしてないから、
今日久々に着ました〜。
気分あげたいなって思って!

…そうか。

そうだよねえ。
ごめん、私、ボサボサで笑。

そうだよねえ、職場のレストランだって
特別な外食だよね(お値段的にも)。

育休から復帰してちょっと慣れてきたかな、という彼女。
緊急事態宣言が解除されるまでは、
お子さんをかかえての在宅勤務なんて無理で、
「事故休暇」というやつを使っていた。

当館はいろんな制度は整っているし、女性も多い。
それでも小さい子どものいる、とりわけ女性の同僚たちは、
ものすごく気を遣いながら、働いている。

「ごめんなさいご迷惑かけてます」と口にするのが
癖になってしまっている、というひともいる。

個人の癖じゃない、そう言わされてしまう社会があるということ。

制度じゃないところでぶつかるいろいろ、
きっとここにもあるだろう。
そういうの、もっともっとなくしたい。古参としては。
がんばる。

支配人から、なんとサプライズのデザートのプレゼント。
ううう、嬉しい、こういう気持ち。

先週予約しに来た時、支配人が開いた
予約ノートは、真っ白だった。飲食店の現実。

美しいサプライズを、ゆっくりいただく。


美術館再開52日目、8/1、晴れ。色を塗りながら考える。

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都内のコロナ感染確定者ざっくり500人。
超絶意味不明なコロナ数字を、1ヶ月も記し続けた。
意味不明に耐えた自分は立派な馬鹿者である。

昨日の「お誕生会なのにボサボサ」事件を反省し、
家で真面目にマニキュアを塗り直す。考える。
悲しいことに、また金勘定について。

来年の企画展の予算(の縮小)を考えるとき、
必然的にその先の事業(の縮小)も視野に入れることになる。
「異次元」(の縮小)が3年は続く、と上からはいわれている。

来年自分がやるはずだった企画は潰れた。
でも4年後以降への延期のつもりでいる。
問題は2年後3年後どうするのかだ。

他館はコロナ前からとっくに
予定が決まっていて、
その組み替えに忙しいと推察するが、
当館は諸事情により、幸か不幸か、
もともとほとんど決まっていなかった。

だから、幸か不幸か、今のこの「異次元」状況で
全てを一から大急ぎで考えることができる。
悪運は強いということか。

金勘定が一段落したら頭をガッと切り替えて
ぎゅっと集中して手探りの調査期間を確保したいが。さてさて。

※日記には特に書かなかったのだが、ここ数年考えていることがあった。一般に、ひたすらマッチョに働きたいだけ働けること(=家のことは何もせずに)、が最後の最後で「良い展覧会」づくりの要件みたいに(まだ)なっているんじゃないかということだ。無理がきかないと「良い展覧会」はつくれない、みたいな、この業界の一種の呪いである。

仮にこの呪いにかかったまま自己満足に浸っていると、何が見えなくなるか。たとえば、文化芸術関連の労働者一般の、地位(そしてずばり賃金)の低さと、それと連動した恒常的な人員不足という、とても社会的な問題。コロナはいろんなことをあぶり出しているが、そういうこともますます露呈してくるのではないか。



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