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「器と絵筆ー魯山人、ルソー、ボーシャンほか」展のプレスリリースがかたちになってきた。

ここに至るまでのあれやこれやを今一度。

この年明けの企画を私が担当するのは「非常時」だからである。自分の元々の企画が無期延期になり、他の学芸スタッフは忙しく、冬に暇っぽいのがたまたま私だった。守備範囲でできる写真展を提案したが却下され、魯山人と素朴派を出すようにという上からの指示。工芸の展覧会はやったことがないし、素朴派にまつわるフランス語の文献も読めない。でもなんとかするしかない。担当の決め方ひどいですよね!と憤慨してくれた後輩もいるが、まあ世の中こんなもんである。

というわけで、この夏は「作品のない展示室」の準備に集中しながら、あたりさわりのない概要だけはアップしておいた。↓ ※2020年11月初旬に改訂版をアップ


それから3ヶ月。

一気にギアチェンジして「器と絵筆」モードに。

ベースになるのは、過去に行われたふたつのコレクション活用展「アンリ・ルソーから始まるー素朴派とアウトサイダーズの世界」(2013年)、「塩田コレクション 北大路魯山人」(2016年)だ。何を出品するかは私が決めるが、両展を手掛けた先輩方の助言が、何かとありがたい。ふたりとも引退間近なのだ。「作品のない展示室」以上に、世代交代色が濃厚な企画でもあるのである。

カタログは新規に作らず、両展のカタログを販売。どちらもハンディだが、充実の内容。もともと、会期終了後も、ことあるごとに息長く売っていくことを念頭に制作した「コレクション選書」のなかの2冊だ。今回、その「こと」がやってきたというわけだ。備えあれば憂いなし。ありがたい。


さて、カタログを作らないとなると、仕事量はざっと7割ほど減る。おかげで日々ほぼ残業なし。それで逆に露呈するのが、ふだんあまりにも圧倒的な人手不足の状況で企画展を創っている、という事実だ。特にカタログは大変。編集作業、デザイナーや印刷会社とのやり取りなど一式を請け負ってくれる制作会社が入ってくれるならまだしも、200ページ越えの複雑なつくりの本(単なる画集や写真集とカタログは違う)を1冊、ゼロから自力でつくることもままある。なぜか?

お金もないのに志を折らずに突進すると、そうなるのだ。一般書籍として出版した『奈良原一高のスペイン』などはそうだった。巡回先がいくつもあって何千部も刷るのでない限り、制作請負会社など入れられない。今回は辣腕の校閲者が編集者としても仕事をしている方だったから、なんとか救われた。おかげで良い本ができたと自負するが、仕事の仕方は反サステイナブルすぎた。単館開催展なのに無理しすぎ。やってはいけない無理だ。もうやらない。自分の心身も他人も壊れる。


話を戻して「器と絵筆」展。展示の構成、出品作品を絞り込むなかで、急ごしらえかつあたりさわりなく書いた概要のレベルを超えて、「やってみたいこと」が出てくる。やっぱり出てくるもんだ、と感心した。今回はカタログもないし、「自分のもの」感ゼロで淡々と準備を進めていたから、最後までそうなのかと思っていた。それでもよかったが、自分のものじゃないのに自分らしい何かがチラリと顔を出す企画、というのもシブくて良い。その内容面での可能性については少し書いた。↓


空間の使い方では、展示室の監視スタッフに気づかされた大事なこともある。↓


というわけで先週、(遅まきながら)プレスリリリースを書く段階に。まあ、今回はものすごくシンプルな構成だし、内容もごくごく一部を除いて新しいものはない。そのごくごく一部を無理に拡大して、立派に見せようという気もない(むしろこっそり取っておこうという気分)。気楽である。いつもは異様な遅筆に悩む自分が、サクサクと下書きを書き進める。なんだ楽勝じゃないか。

が、文章はやはり詰めが肝心、結局のところ、悩ましくも充実した時間を費やすことになった。長々と書かないと決めてあったので、限られた字数のなかでの凝縮度をじわじわ高める方向に向かう。一文削って一言で済ませる、そのためにこれぞという形容詞を探すとかは、普段からよくやる。短くても奥行きを失わない書き方をどうすればできるか。200字を洗練させ、確定させるのに平気で2時間かかったりする。改めて事実関係を調べ直したりして、洗練や凝縮の方向を間違えないようにするためだ。

だいたい目鼻がついた、と思ったら、なんと例の「あたりさわりない概要」がそのまま冒頭に残っていた(いまホームページに載ってるやつ→11月初旬に消滅、改訂版アップしました)。でもそれで正解。本でも論文でも、「はじめに」は最後に書くものだ、というのと同じかもしれない。原型を留めたまま、少しずつ手を入れる。字数はさすがに少し増える。骨格は変わらないが、ちゃんと「顔」が見えてきた(気がする)。

そんなわけで、今日は気づいたら日が暮れていた。こうやってnoteに思いつくまま書きたくなったのは、間違いなく今日の細かい作業の反動だと思う。プレスリリースは来週あたりから、まずはメール送付可能な方に届けていく予定。その前に表記ゆれチェックとか、超基本的な部分に戻っておかないと。

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