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縫合と解放-作品の変遷と新作について

こんにちは。芸術大学院2年を休学し、メキシコでアートを学んでいる古川実季です。

今回、11月4日から始まった、アート、サイエンス、テクノロジーのための学際的国際会議In Castにて作品を発表させていただいています。本記事では、2021年からIn Castに参加させていただいている私が、芸術、科学、コミュニケーションをテーマに、2021年のインキャストから現在に至るまでの作品の変遷について、新作も紹介も交えながら書きます。

In Castとは

InCAST ( International interdisciplinary Conference for Arts, Science and Technology ) は、アート、サイエンス、テクノロジーのための学際的国際会議を活動の主体とし、大学間の協定交流、民間団体や個人の作品発表も含めた国際的交流事業を行うものです。今年は、"Pathfinder "をテーマに、世界の様々な課題を克服し、未来社会を創造するための協力の可能性を探ります。展示会・学術大会は、東京をメイン会場に、世界各地にオンライン中継されます。

https://incast.jp.net/ja/about.htm

ペイントを介したコミュニケーションとそれを遠隔で行う試み

前回のインキャストのカンファレンスでは、アートを介したコミュニケーションを研究中の私が、Moon Soyoungさん、浅井義彦さんと共同研究という形で制作させていただいた作品"Trace your skin"の発表とそれによってによって気付いた、“障壁”というキーワードについてお話をさせていただきました。
私は、約2年前から、ガラスや透明な板の内側と外側で同時に絵を描く”コミュニケーションペイント”と名付けたプロジェクトを行っています。前回のインキャストで発表した、"Trace your skin"という作品は、そのコミュニケーションペイントを科学の技術を駆使し、日本とポーランドで遠隔でやってみるという試みでした。

コミュニケーションペイントについてはこちらにもまとめてあります。

”障壁”がコミュニケーションの本質を照らす

これらの実験により、障害があることによってそれを乗り越えてでも接触したいという人間の根源的欲求について考えることができたり、それらの障壁の中でも意思疎通ができたと感じる瞬間により深い喜びを感じたりしました。
また、相手と自分の間にあるコミュニケーションの障壁があることによって、かえって様々な表現手段・表現技術も模索し、引き出すことができていたように思います。

”隔たり”に着目した参加型パフォーマンス

そして、今年3月、同会場Uptown Koenji Galleryにて自身の個展を開催させていただいたのですが、その中では、インキャストで出会った”コミュニケーション内に生じる障壁”というテーマにより焦点を当てた参加型パフォーマンス”隔たりに触れて”を行いました。この参加型パフォーマンスは、「あなたとわたしの間にある”隔り”とは何なのか」という問いを元に、非接触、非言語的に対話をする内容となっています。

このパフォーマンスは、二部構成になっており、
一部目では、展示会場中央にあるオブジェの内側と外側で、企画者と参加者が触れることをテーマに非接触・非言語的なコミュニケーションのやりとりを行います。やりとりによって、オブジェの色や形が変わっていきます。


二部目では第一部にて使用したオブジェを解体していきます。それまでの会期中では見ることが出来なかったオブジェの内側のドローイングと人間が公開されます。
隔たりとはなんでしょう。
それは、名前、国籍、性別など、あなたと私が別の生き物であるという情報のことかもしれない。あるいは、考え方や見方の違い、住んでいる場所の距離の長さ、あなたと一緒に過ごさなかった時間の長さかもしれません。では、その隔たりとは必要なものなのだろうか、また、取り払うとしたら全て取り払えるものなのでしょうか。

パフォーマンスでは、自分と相手の間にある”壁”を意識しコミュニケーションを行う中で、視覚・触覚的にあなたとわたしの間にあるもの、自己と他者との関係について改めて考える場となりました。

詳しく知りたい方はこちらの記事をぜひ読んでください!

エクアドルでの活動


その後、4月からはエクアドルに3ヶ月滞在し、現地のアーティストコレクティブとプロジェクトを行い、7月からメキシコに滞在し始めました。絵をプレゼントして、その場で相手の好きなものを交換する活動やコミュニケーションペイントを通して、日本とエクアドルの国民の性格の違いなども知ることができました。

エクアドルでの活動の一部はこちらにもまとめています!

メキシコでの活動

次に、メキシコでの活動について話します。
私が現在滞在しているメキシコのチアパス州は、先住民族が一番多い州でもあります。さまざまな文化や言語が入り混じる中で、アートを通してどのようなコミュニケーションができるのか確かめてみたい。そのように感じたことも、メキシコに滞在することを決めた理由の一つでした。

関係を紡ぐ

ここでは、メキシコで行っている”関係を紡ぐ”という活動について紹介します。
今私は、一人の聾者の友人と裁縫のプロジェクトを行っています。
これは、一つの針を交互に使い、お互いの姿を描くように縫っていく活動です。
彼女は耳が聞こえませんが、初めて会った日、とても笑顔が素敵ですぐに打ち解け、彼女のことをもっと知りたい。と思ったことを覚えています。

この活動は、チアパス州で出会った伝統的な刺繍衣装から着想を得ました。私は、チアパスの刺繍文化にとても惹かれています。なぜなら、少しずつ時間をかけて刺繍を施すことは、人と人が少しずつ関係を紡いでいくことと似ていると感じるからです。
活動中に、メキシコの私の指導教員であるロビーは私たちにこのようにおっしゃっていました。

”ミキはスペイン語がほとんど分からず、アランサ(友人)も耳が聞こえない。でもそれは重要なことではない。なぜなら、el arte nos conecta…アートが私たちをつなぐから。”

私は先生の言葉にとても感銘を受けました。
私と友人は、時間をかけて丁寧に、糸と針を使いコミュニケーションを取ります。このアート作品では、鑑賞者に、コミュニケーションの本質とは何かという問いを投げかけます。

織物を学ぶ

このようにコミュニケーションと織物との関係についてをテーマに自身の作品を制作しつつ、現在は現地の先住民族の方に伝統的な織物の仕方について学んでいるところです。

新作について

最後に今回の新作、”縫合と解放”について書きます。
本作品は、現在メキシコに滞在しながらチアパス州の先住民族のの文化の一つである織物、刺繍を学んでいる私が、刺繍の"縫い付ける、縫合する"という行為と、人同士がコミュニケーションを行う上で日常的に行なっている"同化、異化"という行為を重ねてみる試みを行なっています。

プロジェクターの前に立ち、服に刺繍がされていく/刺繍が解かれていく一連の様子の映像を、あなた自身の体で受け止めてみてください。あたかも自身の服に刺繍が施されているかのような時間の中で、あなたは他者と縫合することに対してどのような感情を抱きますか。

本作品は、11月4日から13日、13:00~19:00(※11月9日は休廊)
Uptown Koenji Galleryにて展示させていただいています。
プロジェクターを使った参加型インスタレーションと、縫うという動作がどのようにコラボレーションできるか、今回が初めての試みなので、私もみなさんがどのように感じるのか、楽しみにしています。
お時間ある方はぜひ見に行ってみてください!

それではまた!



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