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DE&I変革のカギは"OBN"の解消〜NHKスペシャル「"男性目線"変えてみた」まとめ

現代社会のいろいろなしくみや基準が、男性に標準を合わせて作られ、固定化していることをご存知ですか?2023年4月30日に放映されたNHKスペシャル「"男性目線"変えてみた #2無意識の壁を打ち破れ」をみていた私は、冒頭からその事実に驚きました。
この番組では、企業や行政、研究機関などで「無意識の壁」を打ち破る努力をされている方々の取り組みや奮闘、葛藤が紹介されており、組織の中でDE&Iに取り組む方々に参考になれば!と思い、まとめてみました。

(youtubeでもお伝えています)

男性に合わせて作られている基準やしくみ

番組の冒頭、男性に合わせて作られている基準やしくみについて次の3例が挙げられました。

  • オフィスの標準気温は女性の適温より2.8度低い。

  • AIによる音声認識は女性の声の方が認識されにくい。

  • 車の衝突試験のダミー人形はずっと男性(体格・体重・重心などが男性に合わせている)だった。これは車を運転する人は男性という思い込みから。実際には女性が事故で重症化する確率は男性の1.5倍であるにもかかわらず見過ごされてきた。

このような状況の中、世界では、医療、政治や経済、さまざまな分野で無意識に根付いていた男性目線を変えることで、誰もが生きやすい社会に近づけよう、これまで見えていなかった人たちの可能性に繋げよう、イノベーションにを起こそうとそんな模索が始まっています。

スウェーデンの取り組み〜思い込みメガネをはずしたら医療費が大幅ダウン!

スウェーデン北部の人口3万人の都市で、まちづくりの担当者宛に、「雪の日には外出できない」「滑って転んで怪我をする」という女性たちの声が寄せられました。一体、除雪の作業はどうなってるのか?何か問題があるのか?と、街を観察してみると・・・

これまでは、通勤の車のために車道を優先させて除雪をしていたのですが、子供の送り迎えや買い物で徒歩や自転車で移動する女性が多いことに気づきます。除雪担当者の考えが変わります。

「車道を除雪しなくてはと思い込んでいました。初めて気づきました。」

歩道や自転車道の除雪を優先すると、女性だけでなく子供や高齢者も外出しやすくなりました。同時に転倒事故が減り、医療費が大幅削減に!それを全国ベースで試算すると、130億円もの医療費削減につながる可能性が見えてきたのです。

「当たり前になっていて考える必要がないことこそ、一歩下がって別の目線から見る必要がある」と担当者は述べました。

意思決定層に女性を入れるメリットは数字にも

立命館大学の計量社会学・家族社会学がご専門の筒井淳也教授はこう言います。

これまで仕事の場は主に男性でしめられてきました。女性の視点が取り入れられたのはマーケティングの視点のみであって、「ものづくり」「都市計画」「災害対策」には男性目線が強いままです。

そして「意思決定層に女性を入れるメリット」を数字で示しました。

特許の経済価値は、男女両方いるチームの方が1.54倍高い

日本政策投資銀行 2018年 三菱総合研究所のデータをもとに分析

企業の利益率が平均以上になる割合は、女性役員3割以上の企業の方が1.48倍高い

マッキンゼー・アンド・カンパニー 2020年

現代社会はかつての社会より多様で複雑になっており、いろんな視点が入ることには大きな意味があるのです。

日本の変革を阻む「OBN」の存在

日本ではなぜこのような変革が生まれにくいのかでしょうか?NPO法人J-win会長理事の内永ゆか子氏によると、それは

OBN=Old Boys Network の壁

の存在とのことです。自分達の価値観や成功体験が全てだと思っている男性たちのネットワークにより、違った意見が"無意識に"排除されており、このままでは日本の変革は難しい、と厳しい口調で言い切ります。

OBNの壁とは具体的にはこのようなことです。
「仲間内のお酒の席で人事が決まる」
「会議の前に根回しで結論が決まっている」
「上司からの呼び出しがあれば休日でも駆けつける」
「女性に過剰に配慮し仕事を任せない」

いやいや、このような事例は枚挙にいとまがありませんよね。私も会社員時代、先輩男性たちから「人事は飲み会で決まるもの」と聞かされ、脱力したものでした。

男性中心の政治の世界で奮闘する女性議員たち

今、世界から厳しい目を向けられているのが日本の政治分野のジェンダーギャップです。日本の政治分野のジェンダー平等指数ランキングは146カ国中139位。そこでOBNが根強い政治の世界で奮闘する女性議員の様子が取り上げられました。

先日の統一地方選挙で当選した長崎県の県議会議員の阿部希さんは、「男性政治家と一緒にいるだけで噂を立てられ、男性に引き上げられたんだろうと言われます。仕事の実績よりも『女だから』という色眼鏡で見られます。」と悔しそうに語りました。

福岡県では、県議会議員82人中女性は7人、うち、子どものいる女性は後藤香織さん一人です。後藤さんは、男性の先輩議員から「飲み会の場じゃないとみな本音を言えないから、夜の会には極力参加している。」と聞かされます。飲み会の場には地元の有力者の姿があり「飲み会で熱い思いを語り合える」と町内会長が語る姿が映し出されます。家庭と仕事の両立に苦労する後藤さんには厳しい現実でした。

筒井教授はこう語ります。

OBNとは厳密には、家にいて生活を支えてくれる妻がいる男性のネットワーク のことです。家庭責任から自由になれるから夜の会合に行くことができる。家庭を支えてくれる人がいない人は活躍できない仕組みが出来上がってしまっていることこそが問題なのです。

ほんと、そうですよね。加えて私が思ったのは「夜の会合でないと本音を言えないことこそが問題。組織のトップであればそこを変えるべき!」です。

日本以外の多くの国では今、「クオーター制*」で女性議員の数が急激に増えています。(*クオーター制:格差是正のためにマイノリティに割り当て を行うポジティブ・アクションの手法)

番組ではここで、クオーター制で国会議員の女性比率が3割となったコロンビアの事例が紹介されました。国会には、女性たちが明るい服装で、笑顔で、子ども連れでワイワイと参加しており、「スーツ姿の男性で黒一色、眉間にはシワ」の重苦しい雰囲気の日本とは全く異なっていました。コロンビアでは、女性議員の意見で実施した施策により、女性の市民がより健康で、学びや就労に前向きになったそうです。

私はこれまで、クオーター制については賛成か反対か、立場を決めきれていませんでしたが、このコロンビアの事例と、次に述べる大学における「女性限定枠」の事例を知り、「OBNが根強い日本には必要」との立場に変わりました!次はその大学での事例です。

理系研究者の「女性枠採用」で解放される力 

女性が極端に少ないと言われる理系の研究者の採用に、女性限定枠を導入する大学が増えています。 「性別関係なく実力で選ぶべき」「逆差別だ」「研究のレベルが下がる」といった反対意見も根強い中、東北大学工学部では2023年4月に、初の女性限定公募で3人の教授を採用しました。

120人のうちこれまで女性教授はたった2人。「女性がいなくて当然という文化を変えたい」と東北大学工学研究科前研究科長の湯上浩雄さんは語りました。湯上さんによると、女性の採用のために、これまでの人事選考で欠けていた基準を入れたとのことです。これまでは「研究者になってからの実績の数」のみで判断していたものを、子育てや家族の都合で空白期間がある研究に不利にならないよう、「限られた時間の中でおこなってきた研究の独創性や将来性を重視」することにしたのです。

50人の応募者の選考を重ねる中で、湯上さんは新たな気づきの連続だったと語ります。

  • 評価する側に、オリジナリティーや発想力を評価する力が求められること。

  • 応募者のレベルが高いこと。我々の努力が足りなかったかもと考えさせられたこと。

女性枠を導入したからこそわかる新しい視点というものもあるのですね!

また、名古屋大学理学研究科では、女性枠ということで一人の女性研究者を採用しました。そのことによってまず変わったのは、それまで50人の中でたった一人の女性研究者だった森さんでした。森さんは語ります。

彼女と話すことで、これが私?と解放される感じがありました。こんなふうに真剣に話を聞いてもらう体験は初めて。私が活性化される「起爆剤」が彼女の採用でした。多様性があることで花ひらく、もっと積極的になれると身をもって体験しました。

男性たちは、森さんの話を聴いてくれなかったということですね・・・。

その後、この二人の女性のアイディアで新しい研究センターを立ち上げると、世界からさまざまなバックグラウンドを持つ研究者が集まってきました。

会議の時間調整、子どもの急な発熱対応に理解がある職場だからこそ力を発揮できると感じます。ポジションの差もなく、育児に関しても研究に関しても、言いたいことを言える。だから自由に研究できています。

と、韓国人の女性研究者は語りました。そう、夜の会合がなくても本音を言える組織は作れるのですよ!

この事例から、クオーター制は、日本の強固なOBNを崩すきっかけの一つとなること、また、女性の側だけでなくOBN側の(主に)男性にとっても気づきが多いことを知り、やる価値はあると私は強く感じました。

女性のキャリアを真剣にサポート〜北九州市の危機感から

北九州市の取り組みは、市長の危機感から始まります。

市長は、今年入ってきた職員の男女比率が同じであることを見て、将来は職員の男女比率が同じになること、また北九州市では若手、特に女性が市外への流出していることに危機感を覚えます。今は市役所のイニシアティブは男性がとっているが、これを変えないといけないと、女性職員の育成プランを変えることにしました。

市では、30代で中核的な仕事を行えるようになるため、20代で必要なキャリアを積むように設計がされています。しかしそれでは30代で出産・育児でキャリアを中断する女性には中核的な業務を任せることが難しくなってしまいます。そこで、「女性職員のキャリアの早回し」施策を導入、20代の早いうちに短期スパンで経験を積ませることにより、育児休暇からの復帰後に中核的な業務を任せるようにしたのです。

同時に、管理職の評価も変え、「家庭と仕事を両立できる環境を作っているか」を賞与の査定に反映することにしました。育休を取る男性のために、管理職たちが協力しあって育休職員の業務の調整に動く姿が放映され、3人の管理職の方が「なんとかする、なんとかなる!」と話していることが印象的でした。今では 男性の育休取得者は60%を超えるとのことです。

「キャリアの早回し」という取り組み自体は一部の企業でも実施しているところがありますが、併せて、管理職の評価を変えたというところは管理職側の意識の変化に効果があるように私は思いました。とはいえ、男性も育児休暇を取るわけで、男性のキャリアの早回しも必要なのでは?とも。まずは最初の一歩として、ここからまた発展していくといいなと感じました。

筒井教授は語ります。

男性的な働き方をそのままにして女性を入れ込もうとしても無理なんですよ。変えるべきは元々の働き方、男性が変わるということです。

ではどうしたら?最後にアンミカさんがこう言いました。

変わることは簡単ではないかもしれないけれど、周りまわって自分の人生、自分の家庭、自分の子供の人生にも良い影響があるはず。そんなふうに考えてみたら?

最後に思ったこと:OBNの人たちはズレに気づきにくい

今回この番組で取り上げられたうまくいっている事例では全て「トップの男性」の疑問や危機感から始まっていることが印象的でした。

これまでOBN側の方々も「無意識」にやってきたことであり、これを「意識」して変われということには、相当の抵抗があるはずです。だからこそトップが動く必要があり、また取り組みの中から見えてきた気づきや効果をどんどん伝えて巻き込むことが必要だと感じました。同時に、抵抗を感じる男性へのケアも欠かせません。

また、どの取り組みもまだまだ初めの一歩です。スウェーデンの事例では「子どもの送り迎えをしているのは主に女性」であり、北九州市の事例では「キャリアの早回しは子育てでキャリアが中断される女性のため」でした。女性枠が必要なのもそうです。それでも、まず気づいてやってみる、そこから学び次の行動につなげることに意味があると感じました。ここからまだ先があるのです。

最後に、「OBN=家庭のバックアップがあって仕事100%の(主に)おじさんたち」が共有している「当たり前」は、子どものいる女性のみならず、妻が働いている男性、若手の男性なども含め、OBN以外の人たちの感覚と「かなり大幅にズレている」という自覚を強く持っていただきたいのです。彼らは組織の「上層部」にいて強固なネットワークを築いているからこそ、そのズレになかなか気づきません。「だから女性は・・若者は・・」と言って耳を貸さないのです。また一応話は聞いても、忙しさを理由に現状を変えようとしません。

まずは、思い切って声を上げる女性たちの声に耳を傾けることで、当たり前が当たり前ではないことに気づき、さらにその向こうにもっと多様な人たちがいることに気づいてほしい、そして一緒によりよい世界にしていきたいと感じました。



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