「チャレンジする組織風土を!」というけれど「チャレンジ」って、そもそも何?!
「チャレンジする組織風土づくり」を掲げる企業が増えているように思います。
ある企業のR&D部門のトップから「若手がチャレンジし、マネジャーがそれを支援している、そんな組織を目指したい」という相談がありました。その企業でも当然「チャレンジ」は重要なテーマです。
うんうん、と思うと同時に、「チャレンジって、そもそも何?」とも思いました。「チャレンジ」をめぐり現場でやや混乱が起きているように感じていたからです。
今回は、「チャレンジ」を社員のみなさんがどう捉えているのか、調査や対話を行った話です。少々設定を変え、お伝えできる範囲でお伝えします。
チャレンジの定義とは?
そもそも、チャレンジとはなんでしょうか。
学術的には、組織行動論などにおいて「チャレンジ」という概念はありません。近い概念として「経営革新行動」「プロアクティブ行動」「イノベーション行動」などがありますが、「チャレンジする風土を!」の「チャレンジ」にしっくりくるものはありません。「チャレンジ」が和製英語ということもあるでしょう。
トップの方々に「チャレンジとは?」と聞いてもはっきりしないことも多いです。社員の業務は多岐にわたっており、誰がどういう行動をすることがチャレンジなのか、言葉にしにくいのです。
しかし、それでは「チャレンジしよう」と言っても、それがどういう状態なのかわからないまま進めることになってしまいます。
以前、あるマネジャーがこんな話をしているのを聞いたことがあります。
「うちの部署、組織サーベイの『チャレンジ』の値が毎年低くて、それが問題だと思われがちだけど、これってそもそも問題なのかな…?うちのグループ(品質保証のような"守り”の仕事)のチャレンジってなに?って思う。それって開発部のチャレンジとは違うはずで。そこをちゃんと決めたら意外とみんなチャレンジしてるのかも知れないし。」
チャレンジとは何か?現場では悩みもあるようです。
メンバーの捉える「チャレンジ」は4タイプ
そこでメンバーのみなさんにアンケートで「『R&D部門のチャレンジ』からイメージすること」と「あなたが取り組みたいチャレンジ」について聞いてみました。
「『R&D部門のチャレンジ』からイメージすること」は4つのタイプに分かれました。(125名の自由回答を分類)
社会に対してインパクトを与える系
部門・会社がまだやっていないことをやる系(←この回答が一番多い)
自分の業務を広げる系
マインド系
1.は、「世の中に刺激を与える」「誰もやっていないことを実現する」「新しい文化を創る」などです。
2.は、「新しいビジネスモデルをつくる」「新規分野への参入」「R&D起点の製品開発」などの回答がありました。いわゆる「新規事業開発」「新製品開発」で、最も多い回答でした。
3.は、「自分にとって新しいことすべて」「自分の担当業務の枠を超えること」などで、「チャレンジに大小なし、突飛なことでなくていい」との意見もありました。
4.は、「情熱」「リスクテイク」「何事にも積極的に取り組むこと」などのマインドや姿勢です。こんな回答もあるのか!と気づかされました。
以上は「R&D部門のチャレンジ」についてですが、一方で、「あなたが取り組みたいチャレンジ」としては「3.自分の業務を広げる系」」が一番多くなり、「専門知識を深めたい、広げたい」「担当分野を深掘りして新しい発見をしたい」などの回答がありました。まずは自分にできるところからチャレンジしたい、ということでしょうか。
「チャレンジ」のメンバーの捉え方は多様な上、それが部門全体の話なのか、個人のことなのかでも変わるようです。「チャレンジしよう」という号令だけではなかなか動けない理由が見えてきますね。
マネジャーは「人材育成」と「事業開発」の視点で対立?!
次に、マネジャー(部長・課長)へのインタビューからわかったことです。
まず、インタビュー冒頭に「チャレンジの捉え方が人によって異なっていて、いろいろ問題がでてきていると感じていた。このような取り組みはありがたい。」とお礼を言われることが多くて驚きました。
そして一番大きな発見は、マネジャーのチャレンジの捉え方に2つのタイプがあるとわかったことです!それが「人材育成の視点」と「事業開発の視点」です。
「人材育成の視点」が強い方の意見はこうです。
「メンバーの自分の"枠"を越える行動は全部チャレンジ。メンバーが一歩踏み出せるようにマネジャーがサポートする必要がある。」
この方々は、メンバーへの仕事の与え方やコミュニケーションの取り方、動機づけなど育成に関する持論や、一歩踏み出す経験を通じて大きなチャレンジができるようになった自分の経験を語ってくださいました。
こんな発言もありました。
一方で、「事業開発の視点」が強い方はこのように考えています。
「R&D部門のチャレンジは、新しい価値を創造すること。それしかありえない。会社の未来に貢献できなければ意味がない。」
この意見は開発業務に直接携わっており、日々「新しい事業のネタ」を求められている人たちの中に見られました。
( )は、きっとそう言いたかったのではないかと補足しました。
この2つの考え方が、「チャレンジ」の言葉の裏で静かに対立しているように私には見えたのです。
・・・あなたはどちらの考えに近いでしょうか?
まずは「自分の課」のチャレンジを定義する
私は人材育成の仕事をしているので、当然、前者に共感していました。ですが、会社の永続的な発展を考えたら後者を目指すのは当然とも言えます。
この「人材育成」と「事業開発」の視点は対立しているように見えるけれど、対立するものなのだろうか?うまく共存させて、R&D部門なりのチャレンジを定義できないのだろうか?と考えました。
そこで、まずは「R&D部門」でも「個人」でもなく、「課(グループ)のチャレンジを定義する」という対話の場を持ちました。「R&D部門」とすると上記の通り対立し、「個人」ではバラバラになると考えたからです。
「開発部⚪︎⚪︎グループのチャレンジ」「品質保証グループのチャレンジ」といった具合に、課・グループ単位で「何を・どのようにすることがチャレンジなのか」の意見を出し合います。ここには「育成視点」も入ります。
次に、それが「事業視点」である「R&D部門から新しい事業を生み出すこと」にどのように結びつくのか、図や言葉にしながら、メンバー個人のチャレンジについても考えていくのです。一人ひとりのチャレンジは小さな一歩でも、ゆくゆくは、または間接的に、R&D部門の大きなチャレンジと組織の成長にもつながる、そんな風に思えるように。
最終的には「R&D部門のチャレンジ」が、メンバー起点のイキイキとした言葉で練り上げられないかなと思うのですが…
まだ始まったばかりでどうなるかわかりません。ですが、たぶんこれは大切なことで、この取り組みこそ「R&D部門のチャレンジ」になる!と私も事務局メンバーも考えています。
少数派の意見も大事にしたい
最後に「チャレンジ」に関する少数意見を紹介します。
マネジャーを目指すこともチャレンジです。
男性中心の価値観の中で育児との両立もチャレンジだと理解して欲しい。
別の部門から異動してきたばかりで右も左もわからず、今はここで息するだけでチャレンジです。
チャレンジを否定しない文化をつくる、それこそがチャレンジではないか。
このような少数意見にこそ変革の芽があると考えて、おりに触れ思い出したいと思います。
まだまだ途中段階ですが、昨今の「チャレンジブーム」に対して一石を投じたく、こんなことを書いてみました。
「チャレンジ」の捉え方は人によって、ケースによっていろいろ
人材育成視点でみるか、事業開発視点でみるか?対立させずに融合させよう
まずは課の単位で「チャレンジ」を定義するところから
最後までお読みいただきありがとうございました!
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