翻訳の役割分担:実務翻訳
20代半ばから四半世紀以上通翻訳業をやってきたオバチャン翻訳者ゆえ、テクノロジーの進化に伴う翻訳作業およびその周辺の作業の変遷を間近で見てきました。
私が音楽業界で通翻訳を始めたころ、翻訳者の主な仕事は取材対象が話した内容をわかりやすい文章で編集者に伝えることでした。きれいな文章や凝った表現よりも、泥臭い文章で発言や内容を明確にすることを一番に考えながら翻訳していました。
その文章を元に、雑誌や書籍に掲載できるクオリティに整えるのが編集者の役割で、通翻訳仲間とは「(翻訳とは)材料の下ごしらえをきっちりやって、編集者に渡す役割だよね」とよく話したものです。
そんな時代がしばらく続き、テクノロジーの進化に伴って、ここ数年は機械翻訳が身近になり、翻訳者の役割自体が大きく変化してきています。(機械翻訳の歴史に興味ある方はこの記事が面白いです→機械翻訳がたどってきた歴史からみる進歩を解説!)
初期のGoogle翻訳が登場した当時は、仕事仲間と勝手に「直訳くん」と命名して、面白い翻訳を楽しんでいたものです。当時はまだ"統計的機械翻訳"だったため、統計的に最も使われる言葉をつなぎ合わせた翻訳文になっており、それが逆に刺激的で面白かったわけです。
それが今では"ニューラル機械翻訳"となり、実務翻訳の場合、日本国外の翻訳会社ではAIアシスト付き機械翻訳のMTPEが主流となっています。これにより、ワード単価が下がり、1日に作業できるワード数が激増しました。
ここからさらに進化して、クライアントごとのGlossaryをAIに学習させて、翻訳からQA(品質保証)まで行わせる流れも出てきています。ここでの翻訳者の仕事は、QAでフラグが立った文章をAIの指示に従って訂正すること。
アサインされるワード数は多いのですが、実際に作業するワード数は少ないため、翻訳会社とクライアントはWin Winでしょうが、翻訳者にとっては痛し痒しな状態。なによりもAIの指示が間違っている場合が予想以上に多い。これは無視するしかないです(苦笑)。
そして、翻訳メモリーでワード検索したときに、必ず"翻訳の揺れ"を発見すること。これ、本当に気持ち悪いのですが、すでにAIのQAがOKを出しているため、訂正してもギャラが発生せず、訂正せずに目をつぶるしかない状態。
翻訳からQAまでをAIが行う翻訳作業は、今後AIの学習が進むうちに精度が増していくと思います。ただし、他言語を日本語へ翻訳する場合は、文脈によっては同じ単語を異なる言い方で使わざるを得ない場合も多々あるので、そこに対応する翻訳・QAがこの先どのように進化するのか興味津々です。
とは言え、実務翻訳はAIの登場によって翻訳作業がかなりラクになっており、今後は上で述べた「QA後の訂正」が翻訳者の作業になっていく可能性も高いと思います。
確かに従来の翻訳とは異なる作業になるわけですが、どんな仕事であれ、時代の変化、テクノロジーの進化によって、その内容や手順などは容易に変化するもの。その変化を柔軟にとらえ、楽しんでしまえばこっちのものです(笑)。
次回は文芸翻訳の役割分担について書こうと思います。しばしお待ち下さい。
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