見出し画像

がんばらないガーデニング

庭のある家に住みたくて、数年前に引っ越した。ちょっとした芝生のスペースと生垣、果実のなる植木と花壇。けっこう気に入っている。


庭の話を人にするとほぼ必ず「お世話が大変でしょう」と言われる。たしかに、庭仕事はやり始めればキリがない。雑草抜き、剪定、施肥、防虫…外での作業だし、道具もそれなりに必要だ。

私は一人暮らしの時に植木鉢をいくつか枯らしている。だから、引っ越すときはとても不安だった。マメに世話なんてできるだろうか。

でも、窓を開けて、目の前によく手入れされた庭があったら、素敵だろうな。そんな気持ちで思い切って引っ越しを決めた。

画像1


家主さんがアドバイスをくれたことや、義両親が暇をみつけては庭仕事を手伝ってくれたこともあり、はじめの年はそれなりに庭を保つことができた。

しかし、雑草は毎日増える。芝生はぐんぐん伸びる。
うかうかしていると虫が発生する。「植物の風邪」と言われるうどん粉病にも見舞われた。
夏は予想以上に暑い。冬の寒い日に外には出たくない。次第に庭仕事が億劫になった。


やっぱり、私にガーデニングなんて向かないのかな。

2年目、庭の一部縮小やお世話の外注を考えた。けれど、どちらもなかなかいいお値段である。そんな時に出会ったのがこの本だった。



表紙下部に「レイジー・ガーデナー(なまけものの庭師)になろう」とある。そんな概念あるんだ!と救われた気持ちになった。

ガーデニングをする人は、マメで、毎日植物に気を配り、通年見た目にも美しい庭を作るもの。そんな思い込みがわたしにはあった。事実、実家で同居していた祖母はそういう人だった。

しかし、「はじめに」で著者・井上忠佳さんはこう言う。

 本書は、きれいな庭や草花は嫌いではないが、庭の手入れのために、自由になる時間の大半を失う事など考えられないと思っている人たちの参考になることを考えています。
 そのためには、できるだけ手をかけないで済むような工夫を凝らして(=なまけて)、その分残りの時間を有効に使えばいいのです。つまり、ガーデニングに知恵を凝らすのは、暮らし全体をより充実した時間として過ごすためにどうしても必要なことなのです。
 「なまける」ということは、もともと日本人になじまない気質ではあります。しかし「なまける」というのは人間の上質な本性でもあるのです。

まさに、私はこの本の読者対象そのものだった。そして「なまける」ことに罪悪感があったけれど、それを「工夫を凝らすこと」、「人間の上質な本性でもある」と語ってもらえたことに励まされた。

なまけものの自分でも、庭づくりを続けられるかもしれない。

ノートを片手に夢中で読んだ。

画像2


すでに庭のある私にとって(本書では庭づくりのプランニングについても記載がある)、特に勉強になったのは

CHAP4.お手入れを楽にするコツ
・雑草とりの時間短縮ーそもそも雑草が生えない庭にすればいい
・わかりやすい剪定ー剪定しなくていいのが理想的、剪定は適切な時期に
CHAP.5 ガーデニングを心地よくする工夫
・年間スケジュールの考え方ー月に2時間を1回で充分
・ムリしないことが長続きの秘訣ー暑さ、寒さを考える

などの項目。(他にも水遣りや害虫に関しても効果的な工夫がたくさんで、今では困ったら何度も読み返す一冊だ。)


ひととおり読み終えてから、できそうなところを実践してみた。

庭の地図を書いて、植物の配置を俯瞰してみる。そしてざっくりと果樹、垣根、草花にジャンル分けして、春夏秋冬の年間スケジュールを記入してみた。

その時期にやらなければヤバそうなことと、できたらやりたい程度のことが見えてくる。

できることを全部やり始めたら時間が無限にあっても足りない。
「月に2時間を1回」を条件にして、必要最低限のやることを決めていく。

月に1回なので、やろうと思った日にすぐできるようにしたい。我が家の庭に必要そうな道具を少しづつ揃えていった。

不思議なもので、「今日はここまで!」という見通しが立つと、作業が楽になる気がした。後回しにしようと思っても次は一か月後なので、やっておかなければならないことへの意識も高くなる。

画像3


この本を買って1年ほど。完璧とまではいかないが、なんとか庭は景観を保っている。自分たちで手入れしているから、見るたびになんだか嬉しくなる。


私は好き好んで庭のある家を選んだけれど、実家に住んでいる人や思いがけず家の手入れを任された人など、庭仕事をしたくなくてもしなければならない人もいるだろう。

人工芝やコンクリートなどで庭そのものを改装したり、庭師さんにお世話を外注したりといった「庭仕事をしない」という選択肢もあると思う。それはそれで、きっと面白い発見がある。

けれど、家にいて、ふと目を上げれば草花が揺れている。

そういう環境をつくるために、「がんばらない」という選択肢もある。それを知れてよかった。やってみてよかった。


レイジー・ガーデナー(なまけものの庭師)。そんな概念が日本でもあたりまえになるといいなあと、私はひそかに願っている。




この記事が参加している募集

おうち時間を工夫で楽しく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?