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No.229 戯れごと(5)美術展図録について、ちょっとだけ触れてみる

No.229 戯れごと(5)美術展図録について、ちょっとだけ触れてみる

1978年10月、池袋西武デパート内にあった西武美術館で思いがけずに出会った「デュフィ展:フランスの抒情/色彩の音楽/生誕100年記念」展示の最初の一枚「30年、或いは薔薇色の人生」の色彩の美しさは衝撃だった(No.228)。

「デュフィ展」会場内の他の作品も色彩鮮やかで、俗っぽく言えば「お洒落」な好みの作品が続き、この時までには訪れたことの無かったフランスではあったが、パリはきっとこんな香りに包まれているのだろうと身勝手な解釈をして心弾んだ。

閉館までの30分、初めて知った画家ラウル・デュフィの色彩の舞いに酔わされ、図録を購入した。初めて買った図録を抱えうきうきと、連れ合いの由理くんとの待ち合わせの場所、西武デパート内のレストラン街へと急いだ。珍しくも先に着いていた由理くんに「デュフィ展」との出会いを熱く語り、翌週には二人一緒に会場で「フランスの抒情/色彩の音楽」を楽しんだ。

「ええねえ、しんくん言ったとおり、ホンマに綺麗な色やわ〜。『薔薇の絵』思ったよりずっと大きく迫力あったわ〜」。そう、由理くんの感想のように、図録や画集の限界は「本物の絵」との色の鮮明の違い以上に、その大きさの伝達には不可能に近いものがある。

手許にある図録を見ると「30年、或いは薔薇色の人生」の実物の大きさは、縦98cm横128cmとなっている。ネット検索からの素人判断では、絵画の号数50号は超えていて結構大きな絵画といえる。図録掲載の写真は縦16cm弱・横22cm弱、長さを比べる(相似比)と6分の1程に縮められているので、大きさ(面積)はおよそ36分の1となる。

数字で表すと味気もないし、お読み頂いている方々に上手く伝わっているか心許ないが、美術鑑賞をした時や実生活の中での対象物の大きさに「こんなに大きかったの」「意外と小さいんだね」との経験は誰しもが持っていると思う。絵画の場合、額縁の有無もあるが、実物と「大分違う」との思いを抱くことが多い。

図録掲載の写真では、実物の色彩を技術的に再現できない、その大きさを伝えられないからと言って、展覧会鑑賞後に図録購入を見合わせたかと言うと、その逆で、気に入った美術展の図録は迷いなく買っていた(数年前までは~年齢的に断捨離に入ろうかと思う今日この頃である)。この記事を書くにあたって数えてみると、現在60冊の図録が本棚に収まっている。

図録をじっくりと観ると見逃していた箇所に気付くこともあるし、何よりも一度対峙している作品ゆえ、彩色の見事さを思い起こしたり、心動かされた爽やかさを再現する大きな一助を成す役割を図録は果たし得る。若かりし頃より購入した図録のページの間には、美術に魅了されていった僕の情感や、展示作品から発されていた香りや、展覧会会場の熱気までも、張り付いているようだ。

家族・友人との触れ合い、映画や音楽の思い出、英語学習の道程、趣味のマジックとの関わりなどと同じように、美術への思いも美術展図録を引き合いに書き綴ってみよう。


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