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No.078 若き友よ!(4)ニシキくん / 笑った出会い

No.078 若き友よ!(4)ニシキくん / 笑った出会い

ニシキくんとの出会いは「笑えるネタ」にしています。

2年前になります。マジックショップ「フレンチドロップ」さんの主催で、盲目の伝説ギャンブラーRichard Turnurリチャード・ターナーのレクチャーが、東京水道橋の小さなビルの一室で開かれました。そこで、ニシキくんと出会いました。まだ、暑さが残る秋の始まりの時でした。

マジックの集いのレクチャーは、参加者がある程度できる前提で開かれるのが普通です。レクチャラーが演じたマジックの種を教えてもらって、自分のレパートリーに加えたりとか、マジックを演じる際の注意点とかを学びます。

この日のターナーのレクチャーは、ギャンブリングテクニックのデモンストレーションと言ったほうが適していました。参加者のほとんどは「知っているけどできない」テクニックと言ってよかった。少なくとも、僕にとっては、「憧れのテクニックにして、あんなに完璧にするのは無理〜」の世界でした。

ラスベガスとかのギャンブル場では、ポーカーとかブラックジャックなどのカードを使った賭けも盛んです。そこで「イカサマ」として発達していったのが「ギャンブリングテクニック」です。その技法をマジックに取り入れた一人が、Richard Turnurリチャード・ターナーで、この分野の最高峰と称されています。

カード一組の一番上のカードを配っているようにしか見えないのに、実は上から二番目を配っている「セカンドディール」、実は一番下から配っている「ボトムディール」。観客がシャッフルしたカード一組から4枚のAエースを取り出すマジック…。目の前で見てても、全くわからないテクニックの数々に、会場のマジシャンの驚愕の歓声が、最初から最後まで続きました。ターナーが盲目なんて信じられませんでした。

会場のみんなに混じって、ニシキくんの口をアングリ開いている顔が笑えました。忘れられません。一緒の会場で、一緒に感激できて、僕も心から嬉しかったです。

ターナーの凄さを熱く語ってしまいました。

ニシキくんとの出会いの話をしなければなりません。

レクチャー開始前、40名の参加者の半分以上は既に着席、僕は入り口近くの席にいて、ターナーの会場入りを待っていました。主催者「フレンチドロップ」のポン太さんが入り口受付にいました。

そこに、学生かな?にこやかな若者が一人やってきました。僕は近くで、ちょっと振り返りながら、ずっと若者とポン太さんのやり取りを聞いていました。

「ターナー、まだ来ていないんですか?僕、今日参加しませんけど、サインだけもらえますか?」
「ああ、もうすぐ来るから、いいよ。ターナー、目が見えないけど、大丈夫だと思うよ」
「ありがとうございます。ああ〜、やっぱり見たくなってきちゃった。参加費っていくらですか?」
「5000円だよ。今日、もう満席だけど、一人くらい大丈夫だよ」
「5000円か〜。持っていないなあ。図書カードでいいですか?」
「あっ、えっ、あっ、え〜とー…」

漫才かい。僕は吹き出してしまいました。確かに5000円は、学生には安い金額じゃないな。でも図書カードで支払いって笑えるなあ〜。そりゃ、漫才の相方ポン太さん(ちなみに芸名です。マジック界の有名人です)、ボケかますの難しいよ。それともツッコミか?

僕も参加して、トリオの漫才開始です。

しんや「その図書カード、オレ、買ってあげるよ」
ニシキ「ええ〜、いいんですか〜?」
しんや「いいよ、いいよ。ターナー見たいんだろ?」
ポン太「オノさん、いいんですか〜?」
しんや「いいよ〜。無駄になるわけじゃないし。はい、5000円」
ニシキ「ありがとうございます。はい、図書カードです」
しんや「はい、確かに」
ニシキ「あの、確か、全然使ってないって思うんですけど」
しんや&ポン太「はっ?」

無事、純粋無垢な?若者は入場できて、衝撃の時間と空間を、会場のみんなと、そして僕と共有できたのです。

途中休憩になりました。

しんや「いや〜、凄いねえ。大学生なの?楽しんでいる?オレ、小野信也、しんやって呼ばれるのが好きなんだ」
ニシキ「凄まじいですね!ターナー!憧れです!僕、ニシキって言います。浪人生で、近くの予備校に来ていたんです。ギャンブリングテクニック練習中なんです」
しんや「ホント?ちょっと見せてよ」

ニシキくん、かなり上手でした。話しているうち、会場内で販売していたグッズも欲しかったといいます。1000円貸してあげました。「大学受験終わったら、うちに返しに来いよ」と付け加えて。

四ヶ月後、午後の早い時間に、無事に第一志望のW大学に合格したニシキくんが1000円持って中板橋の自宅にやってきました。マジックの見せ合いが延々と夜まで続いたなあ。一緒にラーメンを食べに行きました。ご馳走しました。安いものです。1000円以上の価値ある交友が続いています。

ニシキくん、僕が半ば諦めているギャンブリングテクニック凄く上手くなってきています。僕もいろいろなマジックをニシキくんに教えます。吸収が早いですが、ダメ出しもよくします。
「もっとゆっくり演じろ〜。動きがせわしい〜」
「ええ〜、ダメですか〜、しんやさーん」

ニシキくんに刺激されて、僕は密かにギャンブリングテクニックを練習しているのです。
う〜む、追いつくのはしんどいなあ!

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