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No.144 Go Toキャンペーンなしの箱根一泊の旅(1)

No.144 Go Toキャンペーンなしの箱根一泊の旅(1)

連れ合いの由理くんが亡くなった翌年2010年から、生きる証のように、半ば務めのように、夏期講習明け8月最終週から「ひとり旅」の時間を、毎年取ってきている。その初めの旅の様子を「旅はトラブル / イタリア再訪ひとり旅2010」に記している最中である。その間を縫うように、先日できたばかりの「思い出話」を綴ってみる気分になった。


今年は、コロナウィルスの影響で、気分的にも出かける意欲をもぎ取られつつあったし、東京在住の人間は「GoToキャンペーン」の対象外であり、国内であれば車での移動が好きな僕の愛車の「練馬ナンバー」は、なお一層、旅へのいざないの気持ちを萎えさせた。

例年より短め、日曜日も含めて5日間の休講にして、都内をウロチョロしようかと思ったが、僕を含めたそれぞれが己のみ逃れようとする結果の、機械的なむせ返る湿気を伴った暑さの現実は、決めかけていた都内散策の一手を考え直させた。優先すべきは東京の暑さを逃れることだ。友人の「カツモト」くん宅に電話を入れたのは3日前、日曜日午後の早い時間であった。

「カツモト」くんは小学校1年生以来の友人であり、彼と彼との友情は是非noteの記事にしたいのだが、彼から「人に晒すことでもない」とのお達しが出ている。カツモトくんは、昨年10月に行われた東京都主催の第一回「シニア・コミュニティ交流会」の中の「健康麻雀」参加者300人の中で優勝、それも「国士無双」を上がりブッチギリの結果だった。

若いうちからプロ級の凄腕で、給料分ほどの収入を麻雀から得ていた彼の正体を知る僕は、その話を聞いて「さもありなん」と驚きはしなかった。今はこの親友のことをこの程度述べるに留めておく。

カツモトくんと奥さんのイズミさんは、近所のスーパー銭湯に行くノリでしょっちゅう箱根に行っている。僕も箱根は何度か、愛車を走らせて訪れているが、今回は電車で箱根まで行き、レンタカーで高原に位置する箱根の涼しさを満喫しようと考え、気分も乗ってきていた。

カツモトくんは、箱根湯本駅近くの温泉宿でノンビリすればいいタイプで、僕との好みがまるで違う。お洒落な場所も訪れたい気持ちもあるイズミさんのアドバイスが大いに参考になり、電車の座席予約に始まり、ほぼお勧めの場所を訪れる旅となった。

職住接近、4階自宅から1階仕事場の塾まで通勤時間10秒、ウサイン・ボルトにちょっと負けると説明する。都内の移動もほぼ車に頼っていて、電車もあまり乗らないことからの失敗談がある。

数年前、地下鉄の改札を通る時、どこかからもらったQuo(クオ)カードを通したところ、ゲートがパ行音の嫌な明るい響きと共に僕の体を遮った。「うん、このカード残高がなかったか?」と思い、一度戻って別のQuo(クオ)カードを通すと、同じように再び拒否の音が構内に響き、後ろの人の舌打ちも耳に入った。

駅員さんに「このカードの残高調べてもらえますか?」と尋ねると「はあ、これは使えませんよ」と冷たく言われてしまったので、思わず「えっ、どこで使えるんですか?」との僕の間の抜けた問いかけに返ってきたのは、なお一層の冷たい視線だけだった。

話がずれすぎた。閑話休題。イズミさん、シャーない無知な相談者である僕に対し神対応である。電話で話しながら、傍らに置いているであろうパソコンで検索しながら「オノさん、小田急ロマンスカーの一番新しい車両の一番前の車両に乗ってください。前面がガラス張りで車内から外の景色が楽しめます」こちらもすぐにパソコンを手許に置いて指示に従い、予約を進める。

以前二度泊まって気に入った「箱根ハイランドホテル」が直前ゆえか、通常よりも一万円ほど安いプランがあり予約を終了、アドバイザーイズミに従い、小田原でレンタカーを借りる手続きをした。

他のこまごまとした準備も済ませ、就寝の床に入ると扇風機の風が足元にあたる。翌日からの箱根の風は、これよりも柔らかく爽やかだろうと想いながら、うっすらと額の汗を拭き眠りにつく。

月曜日、マスク姿の人で満員の山手線にコロナ騒動以降初めて乗り、11時発小田急線ロマンスカーに乗るべく、新宿へと向かう。特急券はネットで予約したので、窓口で小田原までの乗車券の購入について尋ねた。

SUICAで乗車可能であることも知らず、小田原まで1時間10分ほどで着く速さと代金が910円の安さにも驚き、カツモトくんとイズミさんと同じように、僕も近所に出かけるように箱根を訪れる機会が増えそうな予感を少し抱いた。

小田原で借りたホンダシビックのナビを、最初の目的地仙石原のイタリアンレストランにセットする。ちょっと遅れて到着したこちらのレストランはイズミさんも訪れたことはなかったのだが、小さな店内で提供された料理は庶民的な味で好印象だった。

大好きな美術館の一つであるポーラ美術館は、企画展「モネとマティス・もう一つの楽園」の最終日であった。普段見ることが難しい全国の県立美術館所蔵の作品なども多く、爽やかな風が吹き抜ける美術館の周りの森の遊歩道散歩も含め、大いに楽しい時間を過ごせた。

箱根ハイランドホテルは、ポーラ美術館から車で5分ほどのところである。こちらのホテルも敷地内に素敵な遊歩道を持ち、喧騒を離れノンビリと過ごしたい人にはお勧めのホテルである。チェックインを済ませ、部屋に入るとひとり旅にはたっぷりと贅沢な空間が目に入る。

ディナー前に汗を流そうと5時過ぎに大浴場を訪れると誰もおらず、僕にしては長い30分ほどの温泉タイムを、露天風呂と室内の湯船を行き来しつつ、最後まで独り占めだった。翌日の朝8時に訪れた時も貸し切り状態だった。入浴後の朝食時のレストランではそれなりに宿泊客はいるようだったので、たまたまだったのだろうが。

ディナーはイズミさんお勧めの「グリーンヒルズ草庵」に7時の予約が取れた。こちらの施設は六部屋だけだが宿泊もできるし、アンティークな品々を備え、畳敷の和室にテーブル席が設けられ、フレンチ料理を提供しているとの情報をイズミさんから得て、ネットで確認もしていた。

「グリーンヒルズ草庵」は、ホテルから5分のところにあるとナビが伝えてくれる。迷うこともなさそうだなとホテルを出て、仙石原の交差点を過ぎると、両側は木々が鬱蒼と茂り、軽い上り坂が大きくカーブしている。曲がり道の途中、家の一軒も無い闇の中に車は包まれたところで、ナビの自信溢れる透き通るような声が車内に流れた「目的地周辺です。案内を終了します」。

「えっ、何もないよ左右どちらにも」独り呟いても、ナビは答えてくれない。仕方なく上り坂を進んでゆくと、右手側にチラッと家ではなく明かりがあったのが見えたが通り過ぎた。行き交う車もなく、細い上り坂は続く。さすがにこれは行き過ぎたなと思いながら、車2台がギリギリの道を車で走ると、なんとか左側に入る細い道があり、そこに車を寄せて停車した。

車を降りて確認するとどうにかバックして細い道に入れそうである。ここで5年ほど前の出来事が蘇った。イギリスコッツウォルズ地方の小さな街を走行中、道に迷い細い道に入ってしまった。するとそこは突き当たりで往生してしまう。レンタカーを反転させるべく何度か切り返しているうちに、視野に入っていなかった低木にガリガリとレンタカーを擦らせたことが思い返された。

弱い風に吹かれる木々の静かなざわめきと虫の声か何かと、遠いところからの街のぼんやりと届くばかりの灯りの中で、ともかくは「グリーンヒルズ草庵」を探すべく戻らないといけないなと考えていた。

・・・続く

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