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No.196 旅はトラブル / オランダ・アムステルダム&イングランド・コッツウォルズ訪問ひとり旅2012(19)旅先での触れ合い

No.196  旅はトラブル / オランダ・アムステルダム&イングランド・コッツウォルズ訪問ひとり旅2012(19)旅先での触れ合い

No.193の続きです)

イングランドコッツウォルズ地方の小さな街テットベリーは、30分ほどの時間で街の隅々までに足を伸ばせることができた。英語での「town街」と「village村」の定義づけは曖昧なようである。面積や住民の数などで判断することもあるかもしれない。僕の中の肌感覚では、商店や宿泊施設の数で決まるような気もしている。

お土産を売るお店もあり、ホテルも数件ある事を考えれば、この旅の参考にした雑誌「Figaro Voyage フィガロ・ヴォヤージュ」の中で、テットベリーをコッツウォルズ地方の中の「village村」の一つと呼んでいたのは違っているように思いながら、そぞろ歩きを楽しんでいると、太陽が西の空に沈みつつあり、僕の長い影法師が蜂蜜色ハニーストーンの家の壁を舐めるように動いている。

数分のうちに、僕の影法師も壁の中に消えて、かつては何かの集会場だったのか、現在も物品販売にでも利用されているものか、数本の太い石柱と屋根で形を成している空洞の建物についている時計の針が八時を指していた。「The Close Hotel クローズホテル」に戻り「おひとり様ディナー」を楽しむ時間が来ていた。街はすっかり闇に包まれつつあり、目に入る「街」はやはり「村」と呼んでもいいなと思わせられる静寂の音の中にあった。

ホテルフロントに立つNaomiさんに軽く挨拶をして部屋に戻り、ディナーの雰囲気を壊さない程度のドレスコードの服装に着替える。濃紺のマオカラーのシャツはネクタイ要らずで僕の愛用品である。白のジャケットシャツを上から羽織り「中庭を望むエレガントなレストラン」に向かった。

「Good Evening, Mr.Ono」栗色の髪のホールスタッフに案内されて窓際の席にひとり座る。壁に等間隔に並ぶ明るめの間接照明とテーブル席の蝋燭の灯りが、築400年の香りを醸し出す支えの一つとして映える。レストランには先客が3組、少し離れた席に食後のコーヒーか紅茶を楽しむ若いカップルの姿が見える。僕の隣に見るからに親しい友人同士の中年女性が二人、ラフな服装で既にグラスに注がれた赤ワインの量が少ない。

部屋の中央の広めのテーブル席に6人、僕の席から見ると左のホスト席に初老の男性がネクタイ姿で座り、真迎えの席に男性の奥様と思われるご婦人がベージュのドレスを着こなして、にこやかな横顔の笑顔を見せてくれる。二人の間に若い二組の男女、ひと組は僕に背中を向ける形で、もうひと組は僕と顔を合わせるようにして座る。初老のご夫婦と、その息子さんか娘さん夫婦二組と考えるのが無難な推測だった。お孫さんはまだかな、そんな事を想ってしまう。

下戸の僕としては珍しく、ドリンクに白のグラスワインをチョイス、前菜の盛り合わせと鴨のローストカシスソース添えをオーダー、お腹の具合を見てデザートを決める事を栗色の髪の女性に伝え、窓の外に目を移す。「エレガントな庭」はライトアップされておらず、部屋からの灯りだけの恩恵でうっすらとその姿を垣間見せている。

イギリスのレストランは一般的な評価が高いとは言い難い。それでも淡い期待は抱くものだ。この日の料理は、驚くほどのものではなかったが、イングランドらしい火を通した野菜の盛り合わせの味付けは良かったし、鴨のローストも美味しかった。

グラスワインは一杯で打ち止め、これ以上飲むと危険なことは学んでいた(気になる方はNo.139 お読みください)。さて、デザートは別腹に収まりそうだ、何を注文しようと思っていたその時、テーブル向こうの6人グループに、栗色の髪のホールスタッフが近づいていった。

「Happy Birthday!!」僕の席から正面に見える金髪の女性の前に、数本の可愛らしい蝋燭に彩られたホールケーキが置かれた。自然とレストラン内の客達はこのテーブルにそれぞれの視線を移した。ニッコリと笑顔を浮かべた彼女は蝋燭の火を吹き消して、僕を含むレストラン内の皆の拍手が温かく響いた。

ホスト役と思われる初老の男性がホールスタッフに何かを告げて、程なく、切り分けられたケーキが小皿に乗せられてきた。そして「おすそ分け」の苺のショートケーキが、僕と僕の隣の女性二人の前にも置かれた。

ケーキから向こうの座る6人に目を移すと、ホストの男性が「どうぞ」と言うように右手を動かし、他の5人の微笑みが僕に届いた。「Oh! Thank you VERY much!」お礼を言い、思わぬプレゼントに舌鼓をうった。

「おひとり様ディナー」は、連れとの会話がないのもあり、かかる食事時間は短めになりがちだ。食後の紅茶も済み、席をたち、6人のテーブルに近づいた。ホストの男性に向かい「Thank you very much for sharing the cake. It was really delicious! ケーキありがとうございました。とても美味しかったです」月並みだがお礼を言い、次に、誕生日を迎えたこの日の主役の女性に「On your birthday, let me show you something interresting. あなたの誕生日に、面白いものをお見せしましょう」。

「Oh!」彼女の目の輝きを見逃さず、ポケットから一枚の5ポンド札を取り出す。「This is a bill of England.これはイギリスのお札ですね。Watch carefully. よく見てください。Excuse me for a while....Is it illegal? ちょっとゴメンなさい…これって法律違反ですかね?」

6人と2人の女性、ホールスタッフの視線が、紙幣の一点に集まる。紙幣の中央を破り捨てる。改めた後にマジカルジェスチャーをすると紙幣が元の状態に戻っている。数人の驚きの声「Wow!ワオ」と、拍手がレストラン内に響く。色々な状況で、たくさんの人に見せてきた僕のペットトリックだ。

「Excellent! Thank you very much! I’ve got a great memory! いい思い出ができたわ!」女性からの嬉しい言葉と、みんなの笑顔もゲットした。少しは喜んでもらえて、ケーキのお礼もできた。長居は無用だ。もう一度お礼を言ってレストランを後にした。

フロントの前を通るとNaomiさんが「You did a great job, Mr.Ono! 」とウィンクしながらねぎらいの言葉をかけてくれた。彼女も何処かで僕のマジックを見ていたのだろうか。お礼と微笑みを返して、階段を登った。

築400年の建物の階段が軽くギシギシと音をたてた。時の流れを感じさせる、温かみを帯びた心地よい音だ。「The Close Hotel クローズホテル」を選んで良かった。「旅」は、また一つ僕に良き思い出を作ってくれた。

・・・続く

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