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No.092 連れ合いの由理くんの誕生日 / 別れ

No.092 連れ合いの由理くんの誕生日 / 別れ

2009年12月15日(火)に連れ合いの由理が亡くなりました。その日の夕方5時半に、4階自宅で言葉を交わしたのが最後となってしまいました。由理の遺志により、18日(金)に兄弟・ごく親しい親戚・友人のみでの葬儀を執り行いました。連絡の遅くなったことお許しください。昨年の母ユウ子に続き、最愛の女性を続けて失ってしまいました。

目の奥から溢れる哀しみの涙ってあるんですね。今だ涙腺がこわれたままです。由理くんの服を見て涙し、何もないのに嗚咽している自分がいます。

5月の大学の同窓会を始めとし、11月の甥の結婚式、そのほかでの友人たちとの再会の喜び、生徒たちとの楽しい時間、マジック仲間との刺激の日々、思い出の名画との語らいも、全て霞んでしまったかのようです。

「再会の会」のお知らせです。

日時:1月17日(日)午後2時より終日
場所:こちら中板橋の自宅

ご霊前・おこころざしなど一切いただきませんのでご了解ください。いらっしゃる方は、喪服でなく普段着でいらしてください。当日は皆さん全員とゆっくりお話しできる時間はあまりないかもしれません。4階自宅に写真などを置きますので、由理と再会してください。


「みなさんへ」

昨年の12月15日午後5時半過ぎに、1階学習塾で仕事をしていた僕のもとに電話が来ました。受話器を取ってみても、無言のような。4階自宅から、由理がかけてきたのが察せられたので、4階に行きました。その数日前から大分具合が悪く、歩くのも覚束なく、声もか弱く、食事をしていても辛そうでした。それでも入院はいやだと言い、当日にも病院の予約を入れていましたが、キャンセルしました。そんな状態でも、炊事をして掃除をすると言い張っていました。今も涙しながら、これを書いています。健気すぎるって、由理くん。4階に行くと、椅子に座ったままで動けなく、立ち上がらせてソファまでおぶっていきました。「ちょっとしっかりしてよ」ちょっときつかったでしょうか、そう声をかけると、由理は頷いたようにもみえませんでした。僕は由理を残し、1階に戻りました。

こんなつまらない会話が最後になるなんて思いもよりませんでした。午後9時半過ぎに仕事が終わり、4階自宅に戻ってみると、ソファの横に、仰向けに倒れていました。「冗談はやめてよ」と声をかけましたが、冗談でないのは明らかでした。その日に届いたばかりの小さな羽毛布団のピンクの色が鮮やかでした。午後7時頃に亡くなったとの診断でした。由理の携帯電話の発信履歴に、午後6時40分に、番号を途中まで押したものが残っていました。これを見ると辛くて仕方がありませんし、一緒にいてあげるんだったと悔やむばかりです。

もともと胆のうの機能は良くなかったのですが、数ヶ月前の検査では、肝臓も大分良くない状態でした。最終的な判断は、自然死と言うことでした。18日に親戚友人全員で18人の葬儀をクリスチャンに近い形で、執り行いました。生前より二人で、どちらが先でも、義理だけで来る人なんか断ろうねと、思いを同じにしていました。散骨しようかとも話していたのですが、今は散骨もしません。いつになるのでしょう、由理が僕を呼んだら、誰かに一緒に散骨してもらおうかと考えています。それまでは、僕の傍でずっと一緒に暮らしていきます。由理はいつでもここにいますので、また会いに来てください。


「由理くんへ」

33年間、ずっと一緒だったね。どんな時でも、喧嘩したときでも、お互い呼び捨てでは呼ばなかったね。僕は「由理くん」とか「キミ」と呼ぶことが多かったかな。由理くんは「しんくん」とか「信也くん」だったね。僕は、ちょっとふざけて「ちゅりくん」とか「ちゃりくん」、由理くんは「チンくん」だったかな。喧嘩のときは、僕は「あなたが悪いんでしょう」で。由理くんは「お前だろう、悪いのは」。笑っちゃうね、なんか他の人たちと、男女逆だったんだ。
一緒じゃないときでも、いつでも由理くんのことは思っていたよ。
僕が大学に通っていたとき、僕の服装をコーディネートしてくれて、
「おしゃれでもしないと若い子に相手にされないよ。一緒に食事するときは、割り勘なんてみっともないことはしないでね。ごちそうしてしてあげないと」
こんなカッコのいい事を言われたら、惚れてしまうじゃないですか。
今でも、一人二役で会話しているよ、由理くんが声を出してくれないから。

君は、わがままが絵になる女性(ひと)でした。かわいい女性でした。おしゃれで、キュートで、肌の美しさは比類なく、眼が綺麗で、自分では低くてきらいだと言っていた鼻も、僕は好きだったな。
君の具合が良くないとき、おんぶしたね。君の軽さに涙した時も、僕の耳元で「おんぶ大好き」そんな言葉が愛らしい女性でした。
君は、人と接するとき、本当に自然に、飾り気なく、人を魅了したね。
君が、熱を帯びて話をしたときの存在感は凄かったね。人の深い部分の痛みを巧みに避けた毒舌で、人を刺激し、元気にして、それ以上に君自身が元気が出て、いつも二人で笑ったね。
僕は、君に、どれだけ多くの元気をもらったことか。
どれほど多くの刺激をもらったことか。
ずっと一緒にいたいから、
君が寒いって文句を言うのはわかっているから、
土の中には入れないよ。

二人で、酒屋商売をして、一生懸命働いて、いろんな人が来て、楽しかったね。
二人で、ずいぶんと食べ歩きもしたね。吉兆も次郎も大市もいい思い出だね。
二人で、一緒に買い物をして、おしゃれも楽しんだね。外出のときは、変装だってふざけたね。
二人で、映画を観て、展覧会に行って、コンサートを楽しんだね。
二人で、あっちこっちと旅行もしたね。ハワイ、南フランス、京都、会津、札幌、軽井沢、箱根…。
二人で、4階の改装を考え、イタリアまで家具を買いに行ったのは、もう随分前になるね。
二人で、シャンゼリゼ通りを歩き、手を繋いだのは、パリの風のせいにしておこうかな。
二人で、迷い、考えたんだね、僕の大学進学への道も、塾を始める時も。
でも、今度だけは、由理くん、君一人だけで、行ってしまったんだ。
相談もせずに。挨拶もせずに。
哀しすぎるよ。

由理くん、毎日のご飯、美味しかったよ、ありがとう。
由理くん、毎日の洗濯、たいへんだったね、ありがとう。
由理くん、毎日のお掃除、ごくろうさまでした、ありがとう。
ありがとう。本当に、ありがとう。


わたしは生まれかわりて
いときよし
さながら若葉のようによそおい
まさに星にまでのぼらんとす  (ゲーテ)


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