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AIがもたらすこれからのデザインプロセス

アンカーデザイン代表の木浦(@kur)です。

我々デザイナーは、常に新しいテクノロジーをデザインのプロセスに取り入れてきました。古くは様々な印刷技術がそうだろうし、椅子の歴史などを紐解けば当時のテクノロジーとその応用例を垣間見ることができます。

デジタルプロダクト分野であればfigmaやAdobe XD、Sketchなどが挙げられますし、我らがCIIDと深い縁があるArduinoやProcessingもそのひとつでしょう。解釈の仕方によってはWebflowやStudioもそのひとつとして挙げられるかも知れません。

この延長線上にAIがあることは何ら不思議ではなく、デザインプロセスの中でAIが活用されるのは遠い未来のことではないと思います。とはいえAIがどのような形でデザインプロセスの中に入ってきて、我々はAIとどのように付き合うべきなのでしょうか。(本当はもう少し早く書いて公開するつもりだったのですが年度末で忙殺されていました。)

ジェネレーティブAIでデザインは可能なのか?

ここ数ヶ月で大きな盛り上がりを見せるのがChatGPTなどに代表されるAI、特にジェネレーティブAIと呼ばれるものです。今更説明不要かとは思いますがChatGPTは我々が入力したテキストに対する返答を生成するものであり様々な用途に利用できます。

私自身が使ってみて面白いな、便利だなと思ったものを上げると下記のようなものがありますが、Twitterを眺めているとAIの新しい使い方を試行錯誤している人たちがいるので下記はそのほんの一例にすぎないと思います。

  • ソフトウェア開発における悩みポイントの相談と特定機能を実現するためのコード生成

  • 冷蔵庫にある材料を与えて、その時の気分に応じたレシピ提案

  • 長い文章の要約や、要約から適切な文章の生成

  • 企画書作成

  • ランディングページを作るにあたって構成の提案

  • 補助金提案書の作成

  • 特定の課題に対する解決策のアイデア創出

ChatGPTについてはテキストで入力したものに対してテキストで返答するだけではあるけど、DALL-Eや、Stable Diffusion、Midjourneyのようにテキストでの入力から画像を出力するものもあります。現在著名なものとしてはテキスト入力に対してテキストを出力するものや、画像を出力するものでありますが、これが今後どんどん様々な領域に展開されていくであろうことは想像に難くないでしょう。

デザイン領域においては将来、プロダクトや企業のロゴ、アプリのUIやWebサイトのデザインなど、デザイン成果物とみなされるもののほとんどがAIによってなされる、ということがあっても不思議ではないと思います。もちろん最終的な成果物に限らず、必要であればその中間成果物として利用されることの多いペルソナやカスタマージャーにマップ、エンパシーマップ、ワイヤーフレームなどなど・・・についてもAIが作る未来が来るかもしれません。

そうなったときにデザイナーはAIに取って代わられてしまうのでしょうか。それともAIはあくまでもツールであり、AIはデザイナーの生産性を高める存在となりうるのでしょうか?

そもそもデザイナーはどうやってデザインしているのか?

デザインとAIについて考えるとき、そもそもデザイナーはどうやってデザインをしているかを考えてみましょう。私の書籍デザインリサーチの教科書にも書いた通りであるけれど、デザイナーはプロダクトをデザインする際に無から何らかのアイデアを生み出すように、ひらめきだけでデザインをしているわけではなく、プロダクトをデザインするために様々な情報を集め、分析し、アイデアを生み出しています。

デザインリサーチの教科書 pp48より

アイデアを生み出すためには適切な準備が必要であり、場合によってはアイデアを生み出す時間よりも、アイデアを生み出すための準備のほうが多くの時間をかけることは珍しくありません。

「アイディアを生み出す時間」の定義にもよりますが、解くべき問いを定めることに1ヶ月以上を費やすことは珍しくありません。一方で、アイディエーションそのものは数時間から数日ということもあります。もちろんアイディアは生み出すだけではだめで、それをブラッシュアップしたり、コンセプトとして説明可能にするための時間を考えるともう少し掛かるわけですが、適切なアイデアを出すためには、適切な準備が必要です。

さらに、上記の図では省略されてしまっていますが、アイデアを着想したあと、それを人に伝えたり具体化するためにより多くの時間が必要です。例えば製品や企業のロゴに関するアイデアを着想したとして、それをIllustratorやらPhotoshopなどで作り込む作業が必要になります。

これはデザイン対象物がロゴに限らず、Webサイトやアプリでも同様で、家具や建築物などの立体物であったとしても同様だと思います。こんなものを作ろうと思ってから、それを頭の中から外に出し、人に見せられる状態までに持っていくためには一見すると地味な、しかもスキルの必要な職人的な作業が必要であり、場合によってはアイデアを作ることそのものよりも多くの時間が必要となるのです。

とはいえいきなり最終的な成果物を作ることは稀です。デザイナーは、ひとまずアイデアをざっくりと形にしたうえで同僚やステークホルダー、ユーザーに見せたりしてフィードバックを集めることも多いでしょう。そのうえで、最終的な成果物を目指して作り込む。もちろんここにも多くの時間がかかります。

これらデザインのプロセスをざっくり箇条書きにすると下記のようになるかと思います。

  1. アイデアを出すための準備をする

  2. アイデアを出す

  3. アイデアを具体化して、人に見せられる形にする

  4. デザインを評価する

  5. 最終的なデザイン成果物を作る

前述した内容を踏まえると「2.アイデアを出す」よりも「1. アイデアを出すための準備」や「3. アイデアを具体化して、人に見せられる形にする」あるいは「5. 最終的なデザイン成果物を作る」により多くの時間をかけることもあります。もちろん想定ユーザーやステークホルダーとの対話を通して「4.デザインを評価する」のであれば、それ相応の時間は必要になるでしょう。

AIはデザインプロセスをどう変えるのか?

AI領域の進化は日進月歩であるから、現時点での、と前置きをせざるを得ないのだけど、現時点でジェネレーティブAIを活用するとしたら、前述したリストにおける、「2.アイデアを出す」と「3. アイデアを具体化して、人に見せられる形にする」だろうと思います。

「アイデアを出す」ところと「アイデアを具体化して人に見せられる形にする」の部分についてジェネレーティブAIの得意とするところだと思います。むしろここを分割して捉える必要があるかどうかすら疑問ですらあります。外から見ているとアイデアを出すこととそれを目に見える形で出力することが地続きであるようにも思われるし、仮に内部で別れていたとしても試行錯誤のコストが人間と比べてかなり低いために、明示的に分ける必要がないのかも知れません。

例えば人間のデザイナーがアプリのUIをデザインしようとするとき、我々はLow-Fi、High-Fiなどと表現したりするが少しずつFidelityを高めていくことが一般的です。特にクライアントワークにおけるデザインプロセスでは、Low-Fiレベル(これは例えばワイヤーフレームと呼ばれたりするものである)でお客さんに見せてフィードバックを集めて少しずつ完成度を高めていきます。

なぜこのようなプロセスを取るかというと、前述したとおりアイデアを生み出したあと「3. アイデアを具体化して、人に見せられる形にする」において、デザイナーが手を動かすことに掛かる時間が非常に大きいためで、完成版を作ったうえで人に見せて、意図したものと違う、あるいはそのデザインが上手く問題を解決できていないということがわかったときの手戻り工数が非常に大きいからと考えられます。

しかしAIによってこの工数が大幅に削減されたとしたらどうでしょうか?いくつかのパターンのワイヤーフレームをAIで生成して、それを顧客やステークホルダーに見せることで、工数を大幅に削減することができる可能性があるし、そもそも最終的な成果物に近いものを短時間で作成できるのであれば、ワイヤーフレームという中間成果物がそもそも不要になる可能性すらあります。(が、一方でAIへの指示の出し方としてそれに類するものは残るかもしれない)

上記は一例であるが、いくつかの観点でAIによるデザインプロセスの変化が生じることが予想される。そしてその変化は、大きく分けると下記の2つが存在するでしょう。

  1. 従来のプロセスを局所的にAIで最適化する

  2. AIが使えることを前提にプロセスを設計する

ひとつは従来のデザインプロセスはそのままに、各工程を(あるいは隣接する工程をまとめて)AIで効率化する方法。これは局所的な改善に留まり部分最適に陥る可能性はあると思われるが、従来のデザインプロセス全体に変革をもたらすものではないために比較的導入が容易だと思われます。

もうひとつはAIが使えることを前提にプロセスを設計すること。現在のデザインプロセスは、あくまでも現在のテクノロジーや人間の特性を前提に設計されており、当然のことだけどAIの存在を考慮されて作られたものではありません。AIによってアイデアの創出コストが低くなり、プロトタイプやデザイン成果物の作成コストが無視できる程度に低くなった時、どのようなデザインプロセスであれば企業や事業、プロダクトやサービスを通して社会に価値を最大限に提供できるかを考えなおす必要があるでしょう。

デザイナーとAIによるCo-Designに向けて

AIはデザインのプロセスに大きな影響を与えることは多くの方の同意を得られることと思いますが、デザイナーを完全に代替するような存在になるにはもうしばらく時間が掛かると思われます。そうすると、人とAIが協働して良いプロダクトやサービスを作り上げていくことが必要になるでしょう。そのためのポイントについて、私の思うところを書いてみました。

デザインのためにAIに入力として何を与えるか?がより重要になる

ChatGPTのようなAIは同じプロンプト入力に対して、必ずしも同じ出力を返さないことは実際に触ったことのある人は実感しているところかと思います。とはいえ、それは多少異なるといったレベルであり、大きく異なる出力をすることはないはずです。

例えば単純に「弊社のかっこいいロゴをデザインしてください」という依頼をAIにしたとしたら、いくつかのパターンがあったとしても、似たような範囲内に収まる出力が得られるのではないかと思います。(ChatGPTの場合画像は生成できないので「弊社のかっこいいキャッチフレーズを作ってください」とかで試してみると実感頂けると思う)

そこから一歩抜け出すためには「かっこいい」とは何かを定義してAIに与えてあげる必要がある。しかしこのかっこよさの定義はなかなか難しい。自社が目指したい方向性のようなものを言語化する必要があるかも知れないし、もしかしたら顧客にインタビューをしたりワークショップをしたり、現状を正しく把握する必要があるかも知れない。あるいは様々なデスクリサーチやヒアリングによって、自社の置かれた状況を把握することが求められるかも知れません。これらによって得られた情報を適切にAIに提供することで、ありきたりではなく、自社ならではのかっこよさを表現した望ましいアウトプットが得られる確率が高まるるはずです。これはまさにデザインリサーチやUXリサーチが活用されうるフェーズと言えるでしょう。

なお、そもそもの話としてChatGPTにおける大きなブレイクスルーは成果物の生成だけではありません。むしろ人間の与える入力を、恐ろしいぐらいに適切に(あるいは適切っぽく)解釈することも大きな技術的進化であると考えられます。だからこそ、これらリサーチの結果をインプットすることの意味があるとも言えるのですが。

もちろんこれらデザインリサーチ、あるいはUXリサーチそののにもAIを活用することは多くできると思うけれど、それは次回以降のnoteで書いてみたいと思います。

AIの生成物に意味を見出すのは人間の仕事かも

AIによって様々なパターンが生成できるとすると、デザイナーの仕事はどのように変化するのでしょうか。もしかしたらノンデザイナーであるクライアント自身がAIを使ってデザイン成果物を生成し、それをそのまま利用することもありえるかも知れません。

しかし、そこに意味を見出すことは簡単ではないでしょう。意味を見出すとは、例えばそのデザイン成果物に価値があるかということもそうであるし、何故それが適切であるか?を考えることでもあるからです。

AIを使って自社のロゴを生成しようとすれば、一瞬で数多くのロゴ候補が生成されます。その中から「どれが好きか?」であればおそらく特別な知識を持たない人であっても選ぶことができると思うけれど、自社の状況や文脈を踏まえて「どれが適切であるか?」を選ぶのは簡単ではありません。

デザインのプロセスとは「何が適切であるか?」を定義する工程でもあるし、成果物に対してそれが何故適切であるかをストーリーテリングしていくことも必要です。成果物に対して後付けで意味を付けるというのは、本来あるべき姿ではないのかも知れません。だけど、成果物を生成するコストが極端に低くなるのであれば、まず先に何らかの成果物を作ったあとで、あとから意味を付けるというプロセスであっても全体としてはうまく機能する可能性があり、現実世界では非常によくあることだと思う。

例えば、Appleのロゴマークと言えば、かじられたリンゴが有名だけれど、このかじられた部分については様々な説がある。Byte(コンピュータで扱うデータの単位)とBite(かじる)をかけているというものや、禁断の果実を齧った反逆的な表現という話もある。

Appleのロゴ

実際にはリンゴが他の丸い果物ではなく「リンゴ」に見えるシルエットにするために、ロゴを一口かじったデザインにしただけであるとのことであるけれど、こうした意味付けは非常に面白いだけでなく、デザインをデザインとして機能させるために重要でもある。それは何なのか?それが何故良いのか?それは何を意図しているのか。これらストーリーがあることでスムーズに物事が進むし、ステークホルダーにデザインが説明可能になります。

なお、これは若干余談ではあるのだけどデザイナーのポートフォリオについてしばしば話題になることでもある。私達は素晴らしい作品群が並んだポートフォリオを見かける事がよくある。そこに並んだ作品群は本当に美しいものが多いのだけど、最終成果物だけを見せられても実際のところデザインの良し悪しなかなかを判断できない。

それが何のために作られたのか?どのような項目を考慮する必要があったのか。そして何故それが良いデザインと言えるのか。これらを説明する必要が今後ますます重要になっていくでしょう。

また、これはデザインとしての新しい波を作れるかという話でもある。Webデザインの話がわかりやすいと思うので例に出すとWeb1.0の時代、Web2.0の時代、そして現在のWebデザインのメインストリームは明らかに異なっています。そして10年後はまた異なるテイストのWebデザインが主流になっているでしょう。

そのためには誰かが新しい波を作ることになるだろうが、それはAIに可能なのでしょうか?私はそれはまだ人間の仕事ではないかと思っています。新しいストリームの基礎となるデザインはもしかしたらAIが生み出すかも知れないけれど、そこにAIとしての意思と言えるほどのものはないはずで結局のところ人が意味を付与し、これからのデザインを育てていく必要があるのではないでしょうか。

最後の詰めはまだAIには難しい?

AIを用いる事によって様々なデザイン成果物を低コストで作成することができるようになることは前述した通りであるが、ジェネレーティブAIでデザイン成果物に対する最終的な微調整までは難しいように感じます。もちろんこれは少なくとも現時点では、の話であって将来的には状況が大きく改善されるとは思います。

たとえば「このボタンをちょっと右に動かしたい」のようなものはプロンプトを書くよりも、AIの成果物に対して人間が手を加えるアプローチを取るほうがまだ現実的であるように思います。そしてその工程が必要であるならば、結局のところ職人的なスキルを持ったデザイナーは依然として必要であるし、仕事がなくなることはないでしょう。言い換えれば最後の1pxを詰めることがデザイナーの仕事になる、と考える事ができるかもしれません。

これをポジティブに捉えるか、ネガティブに捉えるかは様々な考え方ができるとは思いますが、これまでだってデザイナーが成果物をゼロから全部デザインしていたわけではありません。世の中には多くのガイドラインや原則、フレームワークのようなものがあり、デザイナーはそれらを補助線として使い、それらに則ってデザイン成果物を作り上げてきたわけです。

ボタンとはこういうものである。といった認識は多くのデザイナーが頭の中に持っており、毎度ゼロから完全に新しいものを作ってきたわけではありません。UI部品のリストとしてはラジオボタンやチェックボタン、トグルスイッチなどに代表される汎用的なものが世の中に存在し、それらの中から適切なものを配置して多少のデコレーションを施す。そう考えると、これまでもデザイナーは詰めの部分を主にやってきたと言えるかも知れないし、その詰めとして必要な部分がこれまでより更に小さくなってきただけと言えるかも知れません。

おわりに

AIの進化は素晴らしくデザイン領域においても大きな変化をもたらすことは間違いなく、それに伴いデザイナーの役割にも大きな変化が生じるでしょう。今後、デザイナーの役割がどうなるかについて考えてみると、おそらく下記のようになるのではないかと思います。

  • デザイン成果物が満たすべき要件を定める

  • デザイン成果物に意味を与える

  • デザイン成果物を活用し、事業やプロダクトを成長させる

とはいえこれらはデザイナーの仕事としては別段目新しいことではありません。これまでデザイナーの仕事に含まれていたし、その重要性はデザイナー自身がよく認識しています。ただし、頭の中のものを外に出す、のような職人的に手を動かす仕事がAIの支援を十分に受けられるようになったとき、デザイナーの仕事におけるこれらの比重が高まると考えるのが適切だとは思うのです。

AIが仕事を奪うのではないかという懸念を聞くことももちろんあるのだけれども、どちらかというとむしろデザイナーを補完するものであり、デザイナーはAIをツールとして使いこなして生産性を高める事ができ、人間にしかできないより重要な仕事に集中させてくれるものであるように感じます。

なお、デザインのプロセスでAIを具体的にどのように使うのか?という話についても書こうと思ったのだけど、既に結構な文字数になってしまったので、これは次回のnoteに。

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