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日本のESG市場と特許技術の優位性

ESG投資は、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のことを指す。特に、年金基金など大きな資産を超長期で運用する機関投資家を中心に、企業経営のサステナビリティを評価するという概念が普及し、気候変動などを念頭においた長期的なリスクマネジメントや、企業の新たな収益創出の機会(オポチュニティ)を評価するベンチマークとして、国連持続可能な開発目標(SDGs)と合わせて注目されている。
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/esg_investment.html

現在、日本を含む世界のESG市場は急速に拡大している。
図1によれば、2016年から2018年に世界のESG市場は1.3倍に増加し30.7兆米ドルに達している。これは、世界の投資全体額の3分の1に相当する。また、日本のESG市場も同時期に4.2倍増加し、2.1米兆ドルに達している。

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図1:ESG市場規模(出典:令和2年第16回経済財政諮問会議 小泉臨時議員提出資料 )

ここではESG関連の日本企業の特許出願状況を見てみよう。
表1表2は、欧州特許庁 (EPO)が提供しているEspacenetを用いてESG関連の特許を抽出した結果である。なお、ここでは、EPOと米国特許商標庁(USPTO)が運用しているCPC(共同特許分類)のY02A(気候変動に適用するための技術)が付与されている特許を、ESG関連特許とした。(EPOは各国の特許出願にも独自にCPCを付与しているため、日本や中国に出願された特許もEspacenetで集計できる。)
表1は、各国国内出願・PCT出願を合わせたランキングだ。
2010年以降に出願・公開された特許公開公報を集計している。日本企業は上位20社にはほとんどおらず、唯一、トヨタ自動車が7位にランキングしているに過ぎない。ほとんどが中国の大学が件数の上位を占めている。国策として中国の大学がESG関連の研究開発を行っていることが伺われる。

表1:各国特許出願ランキング(国内出願及びPCT出願)

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一方、PCT出願件数のランキングに絞ると、表2の結果となる。
なお、PCT出願とは、ひとつの出願願書を条約に従って提出することによって、PCT加盟国であるすべての国に同時に出願したことと同じ効果を与える出願制度のことで、例えば、日本人の場合、日本特許庁に対して日本語又は英語で国際出願願書を1通だけ提出すれば、PCT加盟国(2019年現在:153か国)に出願されたものと見なされる。国際展開したい特許技術を出願する際の制度となるため、出願人にとって重要な技術がPCT出願される傾向にある。

表2:各国特許出願ランキング(PCT出願)

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2010年以降にPCT出願・公開されたものに限ると、日本のパイオニアが1位で、日米欧の代表的な企業・研究機関が名を連ねている。
さらに、20位以降にランキングされる企業のうち日本企業を抽出したのが表3だ。なお、表1・表2と同じ企業名が記載されているものもあるが、Espacenet上の名寄せが行われていないことに起因する。

表3:ランキング20位以降(日本企業のみ抜粋)

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前半で述べたとおり、ESG投資の機運が高まっている日本においては、PCT出願に着目して投資先企業を検討するのが好ましいと考えられる。ESG投資に興味のある方は是非、特許、特にPCT出願に着目して欲しい。

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