見出し画像

【本がつなぐ縁】今、自分の挑戦が誰かの糧になる

終身雇用が難しいと考えられており、副業の解禁や新しい雇用形態など、働き方を考える際の選択肢が増えてきた現代。
働くなかで「なんとなく働き方に違和感を覚えているけれど、どうしたらいいのかわからない」と感じる人も多いのではないでしょうか。

そこで本インタビュー集「キャリアの転換から学ぶ」では、あらゆる人のキャリア変遷をお聞きしながら、働き方について悩む方に「考えるためのヒントや選択肢」を提案していきます。

今回紹介するのは、本に関する活動を精力的に行う高橋さんです。
フルタイム勤務の会社員でもあり、副業やプライベートでも活動の幅を広げる高橋さんにとってのキャリアの転換点を聞きます。

※本記事は60分のインタビューを一人称に記事化したものです。
それではスタート!

ビブリオバトルに出会い、世界大会へ

ビブリオバトル(読んで面白いと思った本を5分で紹介し、チャンプ本を決める書評ゲーム)を知ったきっかけは、大学3年生のとき、大学図書館に貼ってあったビブリオバトルの大学生大会に関するポスターを見たことでした。

当時は東日本大震災が起きたこともあり、このまま内にこもるのではなく、いろいろなところに飛び出していかなければと感じていたのです。

「この大会で優勝したら、社会の目が変わるかもしれない」という思いが湧きました。背景にあるのは、自分自身が中学・高校とほとんど学校に通えておらず、高校と大学は通信制だったことです。
自分が発達障害当事者でもあり、10代のころを思い返すと「あまり楽しい時間を過ごせていなかった」ように思います。

通信制の学校を卒業していたり、発達障害を持っていたりする人でも社会で活躍できることがないかなと思っていた矢先に、ちょうどビブリオバトルに出会ったという感じです。
自分自身が表舞台で活躍することで、自分と同じような経験をしている人たちの励みになりたいという気持ちから、一番になることを目指しました。

10代のころはあまり本を読んでいませんでしたが、ビブリオバトルに参加するために本を読み始めました。始めたばかりのころは5分で本を紹介する点に苦労しましたが、挑戦するなかで紹介した本がチャンプ本(ビブリオバトルで「一番読みたくなった」と、最も票を集めた本)に選ばれたときに感じた「本に出会えてよかった」「紹介してよかった」などの喜びは忘れられません。

「大学生大会で優勝」という目標を達成するために、本を読んで、発表を練習して……ということをずっと繰り返していました。
結局、優勝はできませんでしたが、2017年に1,000人以上出場したビブリオバトルでゲスト特別賞(第3位)に選ばれたのです。その大会をきっかけに、北海道の室蘭工業大学で行われた世界大会にも出場しました。

ビブリオバトルの大学生大会に出場した時の動画

自分の体験が誰かを勇気づける

自分の選んだ道というのは、少なからず他の方に何か勇気づけるものがあるのだと感じています。
かつて、同じ境遇にいる方のお役に立ちたい思いから、不登校や、障害を抱えるお子さんの親御さんに体験談を話したときがありました。
境遇が変わったわけではないのですが「高橋さんみたいな大人がいることを知って、自分の子どもたちもこうなれるかなと希望を持てた」という言葉をいただいたことが心に残っています。

この経験は、のちにコーチングセッションを学ぶことへとつながります。
自分自身もプライベートで傷心する出来事があり、そこでコーチングセッションを受けて「コーチングっていいものだな」とあらためて思いました。

もともとビブリオバトルで知り合った友人がワークショップを開催しており、2017年からなんとなくコーチングとの関わりは持っていました。「今後の自分の可能性が広がるかもしれない」。期待が高まり、2019年から本格的にコーチングを学び始めました。

私のコーチングは主に、発達障害のお子さんをお持ちの親御さんや、お子さんをサポートしている方、関連する施設に従事する方々を対象に行っています。
お客様の声として「どんよりしていた私の気持ちに太陽の光が差し、明日が楽しみになりました」「最後には、自分がなっていたい状態にまでなっていました」「気にかけてみることを整理してもらえたので、すぐに行動につながっていきそうです」という声がありました。
ビブリオバトルで数多くの本を読んだ経験を活かし、その方に合った本を処方箋のような形で紹介しているのが、私のセッションの特徴です。

コーチングセッションの様子(高橋さん提供)

編集者の一言がきっかけで始めた書評

ビブリオバトルを通じた出会いはコーチングだけでは終わりません。のちに、編集者をはじめとする出版関係の方とも接点を持つ機会を得るようになります。

あるとき、SNSで知り合いの編集者が投稿していた「『ご出版おめでとうございます』と言うのは、やめてほしい。出版=ゴールではない」という内容を拝見してハッとしました。たしかに本が作られることはゴールではなくて、そこから二刷、三刷と重版がかかることが大事だなと思ったのです。

出版関係者ではない自分にもできることはないか……と思って始めたのが、毎日の書評投稿です。2024年7月の時点で3年半続けており、紹介した本は940冊を超えるように。フルタイムで働いているため、5時に起きて、6時に電車に乗っている間に本を読み、電車のなかで大部分をまとめてSNSでシェアしています。

初めは知り合いの方が出版もしくはブックライティングした本を、自分で購入して紹介していました。しかし、自費で購入していくにも限界があるため、やがて知り合いが送ってくださった本を紹介するようになりました。そうして日々SNSで書評をシェアするうちに、面識のない著者やライターからも本が送られてくるようになったのです。

面識がないにもかかわらず、本を送ってくださる出版関係者(著者・編集者・ライターなど)がいらっしゃった場合、土日や平日の仕事終わりに彼らがかかわるイベントに足を運び、直接お会いしています。どのような方かというのを、お互いに知っておいたほうがよいと思っているからです。彼らから「こうした活動をしている方はあまりいないのでありがたい」と言っていただけることは、自分にとって嬉しいことです。

送られてきた本の一部(2022年/高橋さん提供)

よく行動量に驚かれることがありますが、こうして日々足を運んだイベントや読んだ本は「ジブン手帳」(コクヨ)に毎日写真を貼って振り返っているため、忘れません。2019年から本格的に始め、これまでの行動や成長具合の把握、次のアクションを考える際に役立っています。

本に関するライティングの仕事も

本に関わる活動をするなかで、ブックライティングも行うようになります。2015年には所属していたビブリオバトル普及委員会のなかで『ビブリオバトル ハンドブック』(ビブリオバトル普及委員会著/子どもの未来社/2015.4)への寄稿の依頼があり、フォーマットをベースに1ページ分(家族でビブリオバトルの事例)を寄稿しました。

その後も『今日、会社がなくなっても食えるビジネスパーソンになる!』(石川 和男著/明日香出版社/2021.5)の誤字脱字チェックをしました。別の出版パーティーで石川 和男さんと知り合い、著者本人からご依頼いただいたのがきっかけです。

そのあとに『1日1ページで小学生から頭がよくなる! 人体のふしぎ366』(原田 知幸監修/きずな出版/2021.12)でも一部執筆を担当しました。
かつてビブリオバトルを伝えるために読者の目線で出版関係のイベントに登壇したのですが、そこに編集者として登壇されていた方とご縁があり、依頼につながったのです。その方曰く「毎日本を紹介されていて、ブックライターとしてはあまり経験がないけれども、高橋さんだったらお任せできるかなと思って」と。

小さな積み重ねで今ができている

自分の活動を振り返ってみても、ビブリオバトルやコーチングと、あらゆる出会いや挫折があったと感じます。

他にも2020年7月、30歳になったときに、不器用でもいいからとりあえずやってみようと思い、毎日本の紹介をするようになりました。何かしら区切りのタイミングだったり、継続していったりするといろんな方からお声がかかり、お仕事のチャンスにつながると思っています。

今日も本に関するショート動画を作って紹介したら、著者から「すごくうれしいので、私が主催する食事会に来てください」とお声がけいただきました。

そのような経験は、副業しているときだけではありません。
かつて、勤めている会社で耳の聞こえないお客様に手話でお礼や挨拶を伝えたところ、後日、その方から「こういうふうな接客をされて、すごくうれしかったです」というメールをいただいたときがありました。自分が店舗を離れるときには、ご丁寧に手紙まで。
そのことをきっかけに、本社の執行役員が会長を引き連れて、自分のもとにわざわざご挨拶にお越しくださったときもありました。

このように自分が何か行動を起こすとき、それをすると相手がどう感じるか、どれだけ喜んでくれるかということは、やはり考えています。

自分の経験を振り返ると、大きく転換したと感じるときがなくて、やはり小さな積み重ねかなと思っています。小さな転機が喜びになって、さらにそこでつながって……というふうなことが、たぶん、自分にとっての「好転」なのかもしれません。

引き続き本を軸に活動したい

今後は書評やコーチングを続けて少しずつ収益を上げていき、そのまま副業を本業にシフトしたいと考えています。本の紹介でお金をいただくことはまだあまり認知されていないため、一般化していきたいところです。
他にも、自分は取材がないブックライティングや監修本であればできるので、そうした活動もしてみたいと考えています。

活動を通して引き続き、本を読むのが苦手な方や、読書に馴染みがなく、どういった本を手に取ったらよいのかがわからない方のお役に立ちたいと思っています。
コーチングでは、主に学校に通えなかったり、発達障害や課題を抱えている方の親御さんや周囲といった第三者の方々が対象です。

当事者が個人の努力で自立していくことはもちろんですが、夢に対して反対する人が周囲にいるよりかは、応援してくれる人がいたほうが良いと思っています。日常の声かけをはじめとするコミュニケーションで、成功する確率は上がるでしょう。

経験から、過去に大変だったことでも、月日が経っていくと、自分と同じ境遇で悩んでいる人たちに対してアドバイスができたり支えになったりすると感じました。そこでいただいた感謝の言葉たちも、小さな転機につながると思っています。

インタビュイー:高橋 一彰さん
会社員として勤務しながら副業でコーチング、書評の記事・動画作成を行う。ビブリオバトルで2017年に世界大会へ出場。本業以外にもワークショップ開催や出版イベントへの登壇、ブックライティングなど、幅広く活動している。

▼高橋 一彰さんのコンテンツ・お仕事のご依頼はこちらから


執筆者:ミキ
インタビューや体験型取材を承っております。
ご希望の方は「内容」「納期」「ご予算」を添えて以下のアドレスまでご連絡ください(★を@に変更してお送りください)。お見積りも可能です。
miki.writ★gmail.com
X(旧Twitter) 自己紹介

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?