Margo-物語と糸- #8 |『銀河鉄道の夜』を染める 5
今日は引き続き『銀河鉄道の夜』シリーズの糸のお話で、「アルビレオの観測所」という糸についてです。
6種類のなかで、一番試作を重ねたのがこの子です。
「もうここらは白鳥区のおしまいです。ごらんなさい。あれが名高いアルビレオの観測所です。」
窓の外の、まるで花火でいっぱいのような、あまの川のまん中に、黒い大きな建物が4棟ばかり立って、その一つの平屋根の上に、眼もさめるような、青宝玉(サファイア)と黄玉(トパーズ)の大きな二つのすきとおった球が、輪になってしずかにくるくるとまわっていました。(『銀河鉄道の夜』より)
このふたつのすきとおった球は銀河の流れの速さを測る機械なのだそうですが、サファイアとトパーズの球体が遠ざかり近づくときに、重なりあって緑色になる場面がとても美しく描写されています。この眼もさめるようなシーンをなんとか糸にしたいと考え、青と黄色をどのように配置し重なり合わせていくかにこだわって何度も試作をしました。星の輝きも出せるよう、ふわっと白くなる部分も大切にしています。
また今回染めた6種類のなかで、唯一やわらかくボーダー模様が出るよう染めました。
アルビレオは実際にあった
この観測所の場面をはじめに読んだときは美しい表現にただただうっとりするだけだったのですが、いろいろ解説を読むうちに、アルビレオという星が実際にあることを知りました。
新潮文庫の解説によれば「白鳥座のくちばしあたりにある二重星で、オレンジ色の3.2等星と青味がかった色の5.4星からなる」とあります。白鳥座といえば、デネブが有名ですが、こんなきれいな二重星も擁していたのですね。解説ではオレンジと表記されていますが、物語ではトパーズと表現されサファイアと重なる部分が緑色になっているので、わたしたちの糸はオレンジではなく黄色に染めています。
前回、石っこ賢さんについて書きましたが、賢治のことを知れば知るほど、「賢治は鉱物だけでなく、星も大好きだったのだろう」という思いが強くなります。『銀河鉄道の夜』はもちろんのこと、詩や物語のなかにたくさんの星が登場しますし、「星めぐりの唄」まで作詞作曲しているのですから。二重星を題材にトパーズとサファイアが重なりあう幻想的な観測所を生み出せるのも、星と鉱物が大好きな賢治だからこそだなあ、と思います。
賢治の星への想い
『〔銀河鉄道の夜〕フィールドノート』という本によれば、賢治は星座の早見盤をみながら『銀河鉄道の夜』を書いていたのだそうです。ジョバンニが立ち止まる時計屋のショーウインドウにも黒い星座早見が置かれていて、ジョバンニが夢中で眺めています。後にカンパネルラが銀河ステーションでもらったという黒曜石でできた円形の地図が出てきますが、それはきっとこの星座早見と同じものなのではないでしょうか。
ジョバンニは時計屋の店頭で星座早見や壁にあった星座の図を眺めながら「ほんとうにこんなような蠍だの勇士だのそらにぎっしり居るだろうか、ああぼくはその中をどこまでも歩いてみたい」と思います。
わたしにはそれが賢治の心の声のように思えてなりません。
このジョバンニの独り言は、星座早見を眺めているときの賢治自身の独り言であり、その想いが『銀河鉄道の夜』という物語へと昇華されたのではないかと思うのです。
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