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美しきバルール20 トシコさんのこと

トシコさんに出会えたのはこの時期だ。凛は昼間は外部の園芸店で働き、夜は定時制高校へ通う生活を送っていた。

前回までの話↓


園芸店で一緒に働く仲間が、ある整体の治療院を紹介してくれた。 そこには、凛のような集団に馴染み辛い子供が大勢通っているという。ぜひ行ってみて、と紹介された。

行けば何かが変わるかも知れない。

凛は、混み合う電車が苦手、いや恐怖すら感じる。混雑する電車に乗るのはものすごく勇気がいったが思い切って新宿の治療院まで行ってみた。

人混みにへとへとになってたどり着いた整体所。特に変わったところはない。が
行き場を求めている子供達が入れ替わり出入りする不思議な場所だった。
そこで整体してもらったり、夕ご飯を食べさせてもらったり、
本を読んだり好きなように過ごさせてもらえた。

お父さん役とお母さん役のような大人が、治療所を経営する傍ら様々な子供たちを世話していた。行き場をなくしたちょっと寂しそうな目の子供たちがうろうろしている。でも同時に一般の患者さんも施術している。小さな小さな治療所に不釣り合いなほど大量のお花がいつも飾られている。その場に子供が数人いれば「夕飯食べていくか?」が自然な流れになる。家庭のような暖かさがあった。

お母さん役さんのトシコさんはいつも穏やかで、凛はトシコさんと話している時は心が静かになるのを感じた。トシコさんが言う事はいつも的確だ。そして今までであった大人の中で一番敏感で、そこに集まる子供たちへの愛情もとても深かった。

凛の心のざわめきを感じ取っても「大丈夫よ」と笑ってくれた。トシコさんに会えるなら、大嫌いな電車も人混みも我慢できる。凛は足繁く新宿に通った。

なにか岐路に立つたびにトシコさんの手紙が届く。不思議な女性なのだ。「大丈夫」といつも書いてある。だから大丈夫。

トシコさんのように、凛がビックリする程の愛情をくれて面倒をみてくれた方がたくさんいる。自分の子供のように気にかけてくれる人が、高校やいろんな場面で結構いて、凛は随分そういう人の愛情に助けられてきた。

真奈美が埋めきれない母親の役割を、随分多くの人に埋めてもらったのだと思う。

受け取った愛情は、不足分を埋めて余りあるものだったのかもしれない。

続きの話はこちらをどうぞ↓


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