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突然の音楽活動休止から、活動再開へと導いてくれた様々な形の人との繋がり

――前半では音楽をお仕事にされたことやそのなかでの嬉しい経験についてお聞きしましたが、その反面、曲が作れなくなってしまった時期もあったということで。
大津美紀 はい。毎日毎日曲を作っていたら、ある日いつものようにMacの電源を入れた途端に、心臓がバクバクして汗が出てきて……自分の中では100%「曲を作ろう!」と思っているのに、身体は症状を出して「ダメです!」って主張してくる。「これは、何かおかしいぞ?」となったんです。
――突然、「やりたい」と思っていることがままならなくなるのは、本当につらいですよね。
大津 そうなんです。私、“適度に力を抜く”ということができない性格で。昔から仕事や曲作りに専念すると、その他のことを全部忘れちゃうことが多かったんですよ。眠気も来なければごはんも食べなくなっちゃうし、39度ぐらい熱があっても気づかなかったぐらいだったんです(笑)。でもこのときはさすがに、身体が「休まなきゃダメだぞ」とSOSを出しているんだと感じました。
――すさまじい集中力を発揮できるという創作における利点もあったかもしれませんが、本能のような形で身体がシグナルを出したというか。
大津 そうかもしれません。ただ、そのときまでの私は曲を作ることに全てをかけていたので、それからは自分の価値を全然感じられないような時期もありましたね……それも真面目すぎる考え方なんだと思うんですけど。だから、休むことに決めたときも身を切るような想いでした。
――音楽活動の休止中は、どんなことをされていたんですか?
大津 講師のお仕事を増やしたりしていました。小さな子供からご高齢の方までいろんな方とレッスンをしていったんですが、みんな本当に楽しんで演奏したり歌ったりしていて。できなかったところができるようになると、私まですごく嬉しくなったんです。そうやって「音楽って、楽しい!」という気持ちを思い出させていただけて、少しずつ「また、作りたいな」と思うようになりまして。あとはSNSを通じて、自分の曲が本当に多くの方に愛してもらっていると知れたことも励みになりました。
――様々な方との関わりや繋がりのなかで、少しずつ音楽活動を再開できそうになっていった。
大津 そうですね。あと、友達に誘われて山登りを始めたりもしたんですよ。それまでは日々ずっと部屋にこもって曲を作るという、ある意味非人間的な生活をしていたようなところから、人間らしさを取り戻したといいますか……(笑)。今は別の友達に誘われて、ロードバイクに乗ったりもしているんですよ。
――今まで向き合い続けてきたこととは違うものに触れる、ということも大事だったのかもしれませんね。
大津 たしかに。それまでは本当に24時間音楽のことばかり考えていたので、何か他のことを始めるとすごく新鮮で、楽しかったんです。きっと私、ひとつのことばかりをやっていると、バランスが崩れちゃうのかもしれません。あと、生活面でも今はすぐ徹夜とかをしないように気をつけて、セーブしながら生活しています。

「セロシア―希望の灯―」のMVを通じて、自由に何かを感じ取ってもらえたら

セロシアー希望の灯ー/音楽:大津美紀 映像:タナベサオリ
作品について

――そうしてまた音楽活動も再開されまして、先日「セロシア―希望の灯―」のMVも発表されました。
大津 これは音源としてはすでに2018年に作ったアルバム『ヒトシズク。』に収録されているもので、2011年に東日本大震災が起きたときに、ニュースを見ていてつらくなって「何かしなきゃ!」という気持ちから作った曲なんです。だから、そのときは特にコンセプトを決めてはいなかったので、曲を聴いたりこのMVを見てくれた方に何かを感じ取っていただけるだけで、私としては嬉しいし十分なんですよ。
――ある程度、受け手側の解釈に委ねてもいいかなというか。
大津 はい。言ってしまえば、音楽作品ってみんなそうじゃないですか? ひとつの音楽でも、聴く人が置かれている状況によって、受け止め方は全然違うものになるでしょうから。
――そう思われるきっかけになったことって、何かあったんですか?
大津 この曲をライブで歌ったときに、「自分がこうやって表現するのは、誰かと繋がりたいからなんだな」と再認識したというか……コミュニケーションツールであるのかな、と感じたことかもしれません。例えば、すごく泣いている人がいたら抱きしめてあげたいし笑わせたいし、おいしいものや綺麗なものを見つけたら分かち合いたい。それと同じように、震災を受けて自分が感じた何かを「私こういうふうに思ったの」と曲にした……という感じだと思うんですよね。たぶん。
――だからこそ、何かを感じてもらえるだけで嬉しいというか。
大津 そうですね。たまたま同じ時代に生きていて、たくさんある音楽のなかでたまたま自分が作ったものが誰かのもとに届いて、それを受け止めてもらえる。それはすごく奇跡的な、ありがたいことだと思います。
――今回のMVの解釈を通じて、また新たなコミュニケーションも生まれるかもしれませんね。
大津 このMVはすでに先日のタナベサオリさんとの作品展で観ていただいた方もいて、すでにチラホラとコメントはいただいているんですよ。やっぱり皆さんそれぞれ感じるものが違っているのが、すごく面白いというか興味深く感じているところです。
――非常に明確に何かを描いたわけでなければ、いわゆるあそびの部分で感じることは、人それぞれ全く変わってきますからね。
大津 そうですね。それにこの曲は7分ぐらいあるので、MVという扱いにするには挑戦的だったかもしれない曲なんですよ。でも抽象的な表現も多い曲だから、映像が加わることで広がっていく世界もあると思ったので、今回こういう形にさせていただきました。

気負いすぎず、みんなをちょっとでも楽しい気持ちにできる25周年ライブにしたい

――そして活動25周年を記念して、楽曲提供された「未来パラソル」のセルフカバーもリリースされるんですよね。
大津 はい。私は何か曲を作ったら、また次を作りたくなるというタイプだったので、昔の曲をどうこうするということはあまり考えたことはなかったんです。ただ今回は25周年という節目として、感謝の意味で何か形にできたらということは前々から考えていまして。それで、今でも「未来パラソル」を好きだとおっしゃってくださる方がいたことを思い出して、「形にしたいな」と思ったんです。
――しかも、今回は“シンフォニックver.”にすると発表されています。
大津 そうなんです。歌モノだと、やっぱり原曲が一番いいのに決まっているので、それとは何か違った形にできないかな?と思ったときに、オーケストラを使ったシンフォニックなアレンジにしてみるのはどうだろう……ということで、昔からお世話になっている岩垂徳行さんという、ゲーム『逆転裁判』やディズニーランドの音楽も手掛けられている作編曲家の方に相談してみたら、アレンジを引き受けてくださって。他にもいろんな方の協力を得つつ、現在進行系で制作しています。
――「シンフォニック」という言葉から、最初は弦楽器多めのバラード調のアレンジを想像したのですが、結構ブラスなども入ったものになっていますね。
大津 原曲の爽やかさはそのままに、ブラスも結構入っているので……甲子園とかで演奏されているようなイメージもありますね(笑)。他にも、ちょっとしっとりとしたピアノバージョンも収録する予定です。
――原曲がお好きな方はそのイメージのプラスアルファのような感じでも聴けるし、ピアノバージョンではまた違ったイメージでも楽しめそうですね。
大津 そうですね。さまざまな楽しみ方をしていただけると思うので、こちらも皆さんからの感想が楽しみです。
――そして節目といえば、11月26日開催の音楽活動25周年記念のワンマンライブ、“大津美紀25th Anniversary ~このキモチ~”も近づいてきました。
大津 ここ数年は暗いニュースも多かったので、「みんなが音楽を通じて、ちょっとでも楽しい気持ちになってくれたらいいな…」という気持ちで準備を進めています。今回は普段よりも大きなバンド編成のライブになるので、サウンドの面でいつも以上にいろいろなことができそうなところも、楽しみにしていてもらえたらなと思います。
――例えば、原曲に近い形でアレンジを再現することもできそうですし。
大津 そうですね。例えばテンポの速い曲って、歌とピアノだけで再現するのは難しいんですよ。でも、今回はまわりに結構大勢いるので、そういう曲ではピアノは触る程度にして歌に集中することもできるんですよね。……まぁ、歌も難しいんですけど(笑)。そういう形で、提供曲もできたらいいなと思っています。
――最後に改めて、ライブを楽しみにされている方にひと言メッセージをお願いします。
大津 25年というのは数字的な感覚としては、あまり実感が湧かないんですけど、ひとつひとつの作品たち、そして応援してくださるファンのみなさんとの思い出を振り返りながら、1曲1曲大切に歌っていきたいですね。

【大津美紀25th Anniversary 〜このキモチ〜】


【日程】2022年11月26日(土)
【会場】Yokohama mint hall
【時間】OPEN 12:00/START 12:30
【出演】大津美紀(Vo,Pf)宮﨑大介(G)遠藤定(B)森島玲(Vln.)furani(Key)山下由紀子(Perc.)
【charge】 ¥4,500(ご予約料金)/当日¥4,800+ドリンク代¥600
【ご入場】チケット整理番号順→メールでのご予約整列順→当日券
【チケットのご購入】https://kittyeyerecords.com/product/【25th-anniversary-〜このキモチ〜】-ねこかたり~第五十六夜/
※11/18(金)まで受付、購入確認後チケットを郵送いたします。
【メール予約】https://tiget.net/events/205091
※11/19(土)10:00〜11/25(金)23:59まで受付、当日受付にてチケット代金精算となります。
【配信】ツイキャスプレミア¥3,300(システム利用料¥100別途) 
※アーカイブ購入・視聴12/10(土)23:59まで。https://twitcasting.tv/mint_hall/shopcart/183893

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インタビュアープロフィール
須永兼次(すながけんじ)。群馬県出身。中学生の頃からアニメソングにハマり、会社員として働く傍らアニソンレビューブログを開設。2013年にフリーライターとして独立し、主に声優アーティストやアニソンシンガー関係のインタビューやレポート記事を手がける。Twitter:@sunaken


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