ーCreator's Interviewー 古後公隆さん (作曲家・編曲家・ピアニスト・チェリスト)
【第1回】音楽家の母親の影響で幼少期から始まった音楽人生
【第2回】リスナーが想像力を発揮できるような曲作り
【第3回】映画「ミュジコフィリア」について
【第4回】これから挑戦してみたいことは、実は…
【第3回】映画「ミュジコフィリア」について
映画「ミュジコフィリア」
https://musicophilia-film.com
原作:さそうあきら
主題ピアノ曲:古後公隆「あかつき」「いのち」
<大津> 古後さんは映画「ミュジコフィリア」の音楽を2曲作曲されましたが、実際に映画が完成してみてどうお感じになられますか?
<古後> この映画のテーマって、現代音楽だし、かなりニッチですよね。そんなニッチなことをエンターテイメントとしてやる、ということが好きで、まず関われたことが嬉しいですし、また、テーマがテーマだけに、普段できないマニアックなことができる。特に商業音楽の場合は「これはできないな」というのがあるのである程度自由にやらせていただけたので楽しかったですね。(もちろんオーダーはありましたけど。)
<大津> 古後さんの母校(京都市立芸術大学)が舞台になっているとのことで。
<古後> そうなんですよ。母校がロケ地になっていて、いろいろと生々しいんですよ・笑。
<大津> きっと、学生時代のことが思い起こされたりするのでしょうか・笑。今回の楽曲をつくるにあたっては、具体的にはどういうかたちで制作が進められていったのですか?
<古後> まだ誰も聴いたことない、いわゆる「未聴感」がお題だったので、サンプルの音源もなにもなくて、ひたすら脚本を読むしかなくて・笑。
<大津> なるほど、「未聴感」ですね。主人公が河原でピアノを弾いたシーンでの楽曲(曲名「あかつき」)、私は、主人公が、久しぶりにピアノの鍵盤に触れて、第一音を鳴らして、その後その音に触発されてどんどんと気持ちが高まってゆく、その感情の高ぶりが見事に音で表現されてるなと感じました。
<古後> そのように言っていただけて嬉しいです。主人公は「才能はあるけど、音楽教育を受けずに生きてきた…」、そういう人ってどういう音楽を演奏するんだろう?と考えながらつくりましたね。僕は基本はクラシックですけど、大学に入ってクラシックをやめて商業音楽を始めて、そういった意味では、僕の中には“いろいろなジャンルの音楽が混ざっている”と思うので、その混ざってる感じが曲の中にも良い感じで反映されていたのかもしれません。
<大津> 確かに曲全体をとおして聴いてみても「これ」という一つのジャンルで表せる楽曲ではないですよね。
<古後> そうですね。曲の構成としても、ずっと盛り上がり続ける感じにしたかったんですよ。全く停滞しない曲というか。「常に何かの途中」を表わしてるようなものが並んでいるような曲というか。主人公の朔が、久々にピアノに触って、触ってるうちに、だんだん気持ちがノッてきて、出す音出す音すべてが上への階段を登り続けているような曲。
<大津> 起承転結とかあらかじめ構成などを考えないで進んでゆくような感じでしょうか
<古後> そうですね。すべてが「何かの途中」のような音楽。
<大津> 私はそこがまさに映像音楽の魅力だなって感じました。人間って日常の中でいちいち起承転結などのまとまりのない、ふとした感情が沸き起こってますよね。渦巻いてるというか。この曲でその渦に触れたような感じがしました。
<古後> 最後の曲(「いのち」)は、実は監督と何度もやりとりがあって、何パターンもつくってるんですよ。
<大津> 大成と朔が二人でピアノを弾くところですよね。ここのエピソードは原作の漫画にはなかったようですが、映画としてもかなり重要なシーンになりますよね。私はセリフはあまりなく、とても重要なことを「音楽に語らせてるな」と感じたのですが。
<古後> そうなんです。監督からは具体的なオーダーはないんですけど・笑、とにかくたくさん曲をつくっては提出して、を繰り返し、やっとOKをいただきました。
<大津> テープに吹き込まれていた子供の喋り声が音楽と絡み合う、というところ。このシーンは、実際に子供の声を聴いて、それに合わせて作曲をされたのですか?
<古後> いえ。ここは、僕の音楽が先だったと思います。
<大津> えーーー!!!そうだったんですかー!!!子供の声と旋律があまりにぴったりだったので、てっきり、子供の声が先にあって、それをもとにして作曲されたものだとずっと思ってました。
<古後> 確かにぴったりですよね・笑。
<大津> 私は、「言葉」から旋律をつくってゆくタイプなので、このシーンを観てなんだか親近感が湧いたんですよ・笑。そして、現代音楽がテーマとして扱われているこの映画「ミュジコフィリア」を観て、私は、すごく、「音楽ってなんだろう、表現するってなんだろう」ということをすごく考えさせられて、数日間は日常生活に戻れませんでした・笑。調性音楽を聴いてもそちらに違和感を感じてしまうという日々・笑。
<古後> それは嬉しいです・笑。
<大津> たぶん、影響を受けやすい体質なだけだと思うんですが・笑。古後さん、改めてこの作品についてみなさんにお伝えしたいことはありますか?
<古後> そうですね、多くの人にとってはなじみの薄いジャンルであろう「現代音楽」について、この作品が、少しでも興味を持っていただくきっかけになればと嬉しいです。
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