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人生相談の達人〜息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋

私は新聞の人生相談欄を読むのが好きです。読売新聞は「コボちゃん」と「人生案内」が無くなるとかなり購読者数が減るに違いありません。

それはもちろん人の不幸を喜ぶ、というようなことではなく、回答者の回答で、そんな考え方もあるのか、と蒙を啓かれる思いがするからです。そして世の中には様々な悩みがあると痛感します。

古代ギリシャのストア派哲学者エピクテトスは人間は外的な物事には影響されない自己の内面に注目することが重要だと主張しました。彼は人生における苦しみは自分で選択した思考や判断によって引き起こされるものであると考え、真の幸福とは物事についての自己の判断を正しく行うことによって達成できると言います。奴隷であったエピクテトスは大いに苦悶したことでしょう。アタラクシア(心の平静)が哲学の究極の目的だとしています。

本書にも様々な相談が載っていますが、私が最も惹かれたのは俳優になりたいという大学生の息子を持つ父親の相談です。彼は息子が人生を棒に振ることになることを心配し、反対しています。

今まで劇団に入らず、自分で劇団を作ってきた著者は自らの体験を語った後、こう言うのです。

息子さんが決めるのです。親が決めるのではありません。息子さんに言ってあげてください。大切なのは、自分の生き方に納得できるかどうかだと。

私はこれを読んだ時、大いに共感しました。若い頃からもし子どもができたら、その夢を応援する親になりたいと思ってきたからです。

そしてこうも言います。

ちなみに僕は「俳優になりたいんです」と言われると、「やめた方がいい」と答えます。
それでへこんでしまうような人は、そもそも俳優を目指すエネルギーも続ける気迫もないと思っているからです。

そうなのです。ただ物わかりのいい親でも駄目なのです。

本書には28件の相談が寄せられています。些細と思われる悩み(当人にとってはそうではないでしょうが)や切実な悩みまで、どの回答を読んでも著者の人間性の深さと愛情が窺えます。
それは彼が22歳で劇団を旗上げして演出家となり、若手俳優からベテランまで多くの悩みを40年以上に渡って相談に乗ってきたからでしょう。
いわば人生相談のベテランです。その中には墓場まで持っていく相談も多々あったと言います。
著者の人柄ではないでしょうか。

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