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組織の中に潜む文脈について。リーダー人材育成に携わってみて感じること。


組織の中に潜む「文脈」というものについて思うこと。

私は会社の人事の人間で、この1年ほどは自社のリーダー人材輩出を加速させようと試行錯誤している。

珍しくワンミッションに専念させてもらえることになって意欲は満点。
でも、恐らく世の中の大半の企業と同じように「そうは簡単にいかないぞ」の壁にぶち当たっている。

1500人ほど組織の中で、次の世代やその次の世代を束ねていく人材を見つけて鍛え上げると言えば聞こえは良いが、役職のレイヤが上がるほどに人材像は抽象的なものになり難しい。型破りな人材の型を探し求めるような、守破離の3つを同時に起こそうとするような…そんな袋小路に陥りがち。

ただ、試行錯誤した結果「やっぱりそうだよね」と腹落ちすることはいくつかあった。その中の一つが、タイトルにもある文脈というもの。
当たり前と言えば当たり前のことばかりだけど、実践によって確認できたことは収穫。同じテーマに取り組んでいる人のヒントになれば。

今までやってきたこと

■定義づくりと目的/目標の設定
・自社の向かいたい方から逆算して必要となる経営リーダー像を言語化
・輩出の目標を設定(ただしうまく出来なかった)

■しくみづくり
・制度としてのハード部分(候補選出/等級/評価/報酬など)
・年間を通しての運用サイクル
・育成の方法論(Off-JTやメンター制度など)
・各種の人材データの活用基盤(途上)

■運用
・候補人材の選出
・候補人材の能力評価/スタンス評価と本人へのフィードバック
・ポストの定義(ミッション/難易度など)
・社内メンタリング
・360度サーベイ、コンピテンシーアセスメント
・Off-JT(年間で80時間程度+プロジェクトワーク)
・論文
・事業会社横断でのポスト配置検討
などなど。

やってみて実感したこと

当たり前のことばかりだが…

❶やっぱり情報がキモになる。

人が成長する瞬間は、言わずもがな経験の中で内省を重ねる過程にこそあると思っている。
研修もかなりやってはきたけど、一番大事なのはポスト抜擢ないしはミッション設定のレベルを上げること。
また、いずれ経営者と呼ばれる存在になる人には大前提としてそこを目指す強い意志がなければならない。

となると、候補人材一人ひとりの顔がよく見える状態(=情報を蓄積して活用できる状態)をいかにつくるかが何より重要になる。
その人が何を考えていて、どんな強みや課題があって、この先どうなっていきたいのか。それを経営トップや上司がどこまで理解できているかによってミッション設定のレベルが大きく変わる。ミッション設定のレベルが上がれば成長は加速する(逆に、情報がないと議論の質が高まらずとても辛い時間を過ごすことになる…)。

❷経験を科学する必要がある。

「経営者になるには経営をする以外にない」「困難な経験によって人は成長する」など、真実だとは思うけれどそれってつまりなぜなの?を明らかにしなければならない。ひとつの”困難な経験”を分解して、例えは「決断」が経験の主要素なのだとしたら何と何の間で葛藤したのか、肚を決める過程にはどんなことがあったのかなどを詳しく見ていく。

何人かにインタビューをするとある程度合点がいくものが見つかるかもしれない。多くはその人の原体験と深く関連し過ぎていて汎用的な経験とは言えないけど、複数の人の経験の共通項を探していくとおぼろげながら芯のようなものが見えてくる感覚がある。

❸人材と同じくらいポストを理解する必要がある。

「タレントマネジメント」とか「ピープルアナリティクス」とか言うくらいだから人材側の情報にばかり目が行きがちだけど、実はポストの方に目を向ける方が大事かもしれない。なぜなら、リーダー育成は人材とポストのマッチングによって成否が分かれるから。

例えばとある事業の責任者というポストがあるとしたら、
・事業の特性/難易度
・組織の特性/マネジメント難易度
・裁量の多寡
・責任範囲
・想定されるハードルや経験
・求められる能力要素
・望ましい事前経験
・望ましい性格特性や志向
といったものを全て可視化する。これをどれだけ真剣にやっているかがリーダー育成がうまくいくかどうかの分かれ目な気がする。

その上で、人とポストをマッチングさせるが、この時「うまくやれそう」なポストに充てるのか、「うまくいかないかもしれないけど絶対力が伸びる」ポストに充てるのかはケースバイケース。そこはその人材へ何を期待しているかによると思う。

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❹フローの中で人を発掘し成長させていくのであれば、組織内の体験の細部にこだわる必要がある(=文脈をデザインする)。

そして、タイトルにもある文脈の話。
リーダーとなる人材をポイントではなくフロー(つまり時間軸の長い経験)でつくっていくのであれば、人材が会社生活において体験するあらゆるものが一貫した価値観によってデザインされている必要があるのではないか。

組織には沢山の小集団があり、沢山の制度や施策があり、よく交わされる言葉がある。そういった物々によって形作られる、目に見えない流れのようなものを「組織の文脈」と呼ぶことにする。

掲げられているスローガンと実際にやっていることが真逆だったりすると、人材は大いに白ける。リーダーにチャレンジを求めるなら、若い頃から仕事の中でのチャレンジを励行しているのか。シングルスキルではなくマルチスキルがリーダー登用のファンダメンタルズであるなら、一つの事業や職種に縛ってしまってはいないか。エッジのあるリーダー像を理想としているなら、出る杭をちゃんと引き上げようとしてきたのか。そういった小さなことを徹底的に点検して、組織の文脈を揃えていく必要があると思っている。

これをしないと、いつまでも「リーダー人材をつくる」止まりで、「リーダー人材が自然に生まれ続ける」状態には辿り着けないと思う。
だから、この組織の文脈というやつを揃えることが本質的には何よりも大事。ここをサボってしまうとせっかくの取り組みが点で終わってしまう。

本当だったら、私がやっているような仕事なんて必要ないものであるはずだ。素晴らしい人材が湯水のように湧き出てくる、そんな組織にしたいと私も思っている。


おまけ 文脈に関する理論的背景など


文脈を重視した組織づくりに関する研究については、マーシャクの「対話型組織開発」が参考になる(アフィじゃないよ)。

組織開発というとコンサルティングっぽくベストプラクティスを適用する手法が論じられがちだけど、この書籍ではそれの反対を述べている。

内部の自発的な対話によって「意味の形成」を行い、組織の中で交わされる言葉の意味(=ディスコース)を変えていくことで組織は自己開発されていく、と。それを対話型の組織開発と呼んでいる。
ディスコースを変えて組織に自発的変化を生み出すことは、組織の文脈を整える上で最も良いアプローチだと私は思う。


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