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パワハラ

報道で目にした某歌劇団のパワハラ、それ以外にもハラスメントに関するニュースを見聞きすることが増えた。
パワハラもセクハラも、今の時代では絶対にあってはならないことだけど…。

そういうことが昔からずっと続いていた集団の中の独特の空気感を私は知っている。
その中にいると、そういう理不尽なことがけっしてあたりまえとは思わないものの(それはおかしいことだという正常な思考はできるのだけれど)その理不尽さを外部に向けて発信しようというところまでは考えが及ばないし、あるいはそこまで考えても、それより先の実際の行動までには至らなかった自分がここにいる。

個人的にはその中では闘って、個人的にはその相手たちにやり返したというか、その相手らに勝ったと思っていたけれど、最近の報道を見聞きしているうちに、個人的な勝利だけで満足していた自分が情けない。


以前にカルチャーセンターでアルバイトをしていたときのこと。
その組織(名の通った株式会社)は、正社員だけでなく、契約で働く人もいて、その契約の形もいろいろあったのだけれど、とにかくトップは正社員。
20歳を過ぎたばかりの女性正社員からアルバイトの私が最初に言われたのは、当時私が働いていたその職場内においては、私がその正社員のすぐ下の「地位」だということ。
「地位」と言われてもなあ…と正直なところ、私は最初そう思った。
ピンとこなかった。

カルチャーセンターなので、そこには当然講師という肩書で働く人々がいた。
また、近くには母体の事務所と店舗があり、各場所それぞれにいろいろな肩書で働く人々がたくさんいた。
肩書によって、当然勤務内容も違うし、それぞれ会社との契約形態も違った。
同じ仕事をしても、正社員もいれば契約で働く人もいた。
古くからの正社員もいたが、私がいた数年間では、その20歳を過ぎたばかりの正社員を最後に新人が入社することはなく、契約で働く人が次第に増えていった。
その若い正社員から、様々な契約形態の彼らは会社側の人間ではないので、そのことをしっかり頭に入れておくように言われたときは、なんだか面倒な職場に来てしまった、という思いだった。
彼女の言いたいことは、つまり(しがない薄給のアルバイトの私であっても、それに、私もアルバイト契約だというのに)私は会社側の人間として、会社にとって利益が生まれるように、契約雇用の人々を使えということだった。
このとき、その20歳そこそこの若い女性社員の口からはっきりと「彼らを使え、あなたは彼らを自由に使っていい立場」という言葉が出たことは、かなりの驚きだったのでよく覚えている。


私もそれなりの経験は積んだ年齢だったので、自分より10歳近くも若いその正社員の言わんとすることは理解できたものの、その若者の、年上の契約雇用の人々に対する日頃のもの言いにはハラハラさせられることが多かったことも確か。
経験の少なさゆえの失敗も多く、その後始末もアルバイトであっても年長者である私の仕事。
彼女は私が後始末したことも気がつかないような未熟な若者だったけれど、それは彼女の責任というよりも、きちんと社員を育てていない会社の責任。
そういう体質の会社だった。

契約雇用の若い人が結婚のため仕事を辞めることになると、正社員たちから出る言葉は毎回「なぜこんなに早く辞めるの? 会社があなたにどれだけお金をかけたかわかってるの?」だった。ひどいときは「今まであなたの教育にかかった費用を返していただこうかしら?」という発言も聞いたことがある。
1年ごとの契約だし、明日辞めるというわけでもない、3ヶ月前に辞める旨を告げているというのに、その言い方はないだろうと私は思った。
それになんといっても、結婚が決まったと聞いたら、まずは「おめでとう」という言葉だろうとも思った。
でも、私も含め正社員ではない者たちだけでなく、言われている当人すら、そういう言葉を発する正社員に対し、何の抗議もしたことがない。
その会社内の日頃の空気としては、それが当たり前のこと…だったから。
その発言は「異様」なことのはずなのに、その職場ではそれが「フツー」だったから、心の中で「異様」と思っていても、誰もそれを口に出すことはできない空気感だった。


私自身が受けたパワハラは…。
小さなことを含めたら数えきれないくらいあるのだけれど、何といっても笑えるくらい凄いのがふたつ。
ひとつめは、本来ならば正社員、もしくは契約社員がすべき内容の仕事を、なし崩し的にただのアルバイト雇用の私がさせられていた(仕事内容は次第に変わっていったのに、契約内容は変えてもらえないまま、学生アルバイトとまったく同じ時給)のだけれど、まったく引継ぎを受けていない内容の業務がなぜか私の元に回ってきた。
同じ店内の誰ひとりその仕事内容を把握していないことがわかった。
もし社員の誰かが引き受けて処理できなかったら、その社員が始末書を書かなくてはならないので、立場の弱い私に押しつけてきたというのが真相らしい。
私は以前に正社員として勤務していた会社で始末書という言葉を聞いた記憶がないのだけれど、ここの会社は始末書というのが大好きなようで(笑)アルバイトであっても何かあると上から始末書を書けと言われるのが日常だった。
私も、同じ時給で働くアルバイト同僚のミスが、その同僚よりも長く勤務している私の責任になるので始末書を書けと迫られたことがある。
私のアルバイト契約の中にそういう項目(同僚のミスが私の責任になること)はなかったし、ミスをしていない私に、同僚への監督義務もないというのに始末書を書けというのは間違っていると断固拒否したことがある。

話が逸れた。
結局、その押しつけられた業務についてはあらゆる方法で探った結果、その内容を知るのは別支店勤務の女性社員だと判明。私が直接知らない人ではあるけれど、その人物に聞くしか処理できない。電話で事情を説明すると、まず最初に言われたのが「あなたはただのアルバイトですよね。アルバイトなんかに業務処理の方法など教えられません」…だった。
私がこいつでは話にならないと感じ「ああそうですか」と引き下がろうとしたら、何とめっちゃ面白いことに、彼女は「これはあなたの仕事なのですね、あなたの仕事だったら、あなたの責任においてきちんとやり遂げてください。アルバイトといえども仕事なのだから、仕事はきちんとやってください。でも、アルバイトのあなたに業務処理方法は教えられませんけれど」と言い、その後電話は一方的に切られた。
アルバイトだから仕事のやり方は教えないけれど、アルバイトであっても仕事はきっちりとやれって、そんなのマジシャンでもできんだろ~と私は怒りを通り越して笑ってしまった。
こういうとき、私はへこたれる性格ではなく、逆に燃えるタイプなので、最終的にはしっかりその業務をこなすことに成功。

最初、アルバイトの私には教えられなくても、彼女と同じ「地位」の人から聞かれたら対応するだろうと思ったが、それは敢えなく失敗。
作戦変更し、彼女より「地位の高い人」を使って(笑)成功。
人を使えという会社なのだから、使ってやった(≧▽≦)
もちろん、私が「使った方」に対して「使う」なんて態度は一切見せてはいない。
丁重にお願いしただけ(笑)

それにしても…。
今思えば、これは相当酷いこと。
当時の私は、その彼女に対し意地悪なヤツ…くらいの認識だったが、かなり悪質なパワハラ。


ふたつめは、さすがにその会社で働くのがバカらしくなり、辞めることを決意したときのこと。
半年近く前から辞めると伝えていた。
引継ぎも順調に進み、あと1週間ほどでこの会社におさらばできると思った頃、事務所からの内線は、正社員の○○さんが〇日に退社するので、私に対しその送別会に出るように、参加費用は〇千円というもの。〇日は私の退社日でもあった。
退社するにあたって、私は上司から数日前に事務所と売り場が合同で行っている朝礼に出席するよう言われ、退社の挨拶と引継ぎ状況の説明をしたばかり。内線連絡してきた正社員も朝礼には出ていたはずなので、私の退社を知らないはずはない。
一瞬どう返事しようかと思ったが、ここはごく普通の態度で行こうと決め、私も〇日に退社するのですが、正社員の方の送別会だからやはり出席しないといけないのでしょうね、と冷静な口調で返した。先方は、一瞬何か叫んだ後、無言状態。その後気がつけば電話は切られてしまっていた。この会社では、自分に都合が悪くなると一方的に電話を切るという習慣があるらしかった(笑)


もし、私が何も言えない性格で正社員の送別会には、絶対に出ないといけないのだと思ってしまったら、ある意味、これもパワハラ。

一方的に電話が切られた後、気分がよろしくない状態でいたら、さすがにその後、女性の正社員としては最古参のお局様から、今回は辞める正社員と私との合同送別会にするからぜひ送られる側としての出席をという連絡があった。
今まで会社側からアルバイト雇用者の送別会なんて一度もなかったというのに(笑)
それに乗っかるほどのお人好しではないし、その場に私がもし顔を見せたら、内線電話してきた彼女がいたたまれないだろうとも思い、お局様の立場に配慮しながら言葉を選んで丁重にお断りをした。
そうそう、お局様からも、内線連絡してきた正社員からも、このことに対する謝罪は一切なかったことも記しておこう(笑)
そもそも、この会社、最初の半年間くらいずっとアルバイト給料の銀行振り込みが決められた日に振り込まれることがなく、ひどいときは10日間遅れということもあったのに、それに対する謝罪も説明も一切なかった。
始末書は好きでも謝罪は嫌いな会社らしい(;^ω^)

一度だけ謝罪してもらったのは、源泉徴収票に間違いがあったとき。
そのときは、もう辞めた後で、会社に電話して内容を伝えても担当の経理課長には最初は絶対に電話を取り次いでもらえなかった。源泉徴収にまちがいなんかあるはずがないからと、調べてくれる様子もなかった。さすがに私もキレかけて、確定申告のときにこのことは税務署に言いますけれど、とだけ告げておいたら、数日後に経理課長本人からまずは謝罪の言葉、その後きちんと説明があり、正しい源泉徴収票ももらえた。少し前に転勤してきたその経理課長は社内では数少ない、珍しくまともな人だと思っていたので、当人に話が伝われば解決できるとは思っていた。
こちらの作戦勝ちだった。

こうやって振り返ると、パワハラを生む要素がてんこ盛りの会社だった、とあらためてそう思う。
あれからかなりの月日が流れたが、きっと某歌劇団と同じで、会社の体質は今もそれほど変わっていないのでは…と私はそう思っている。

一度できてしまった「この場所ではこれが当たり前のこと」という空気の流れは、簡単には変わらないし、変えられない。
こういう時代なので、あからさまなハラスメントはできないだろうけれど。


あのとき、私は社内では精一杯闘ったけれど、外へ向けては何も発信していない。今のように個人がいろいろな方法で発信できる時代ではなかったとはいえ…。
今までの人生の中で、後悔したことはなかったけれど、これら以外にも数えきれないくらい受けたあの場所での様々なパワハラのことは、外へ向けて発信すべきだったのではないか、発信できたのではないか、と今になってそう思う。









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