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侵略少女エクレアさん(3)
エクレアが、万能通信機を口元へと近づける。
「スィーヴッツ・ヴァカン、ステーレアナビア、アクシオン……」
僕の知らない言葉だった。
「エクレア……、君はいったい、何を言っているんだ……」
その言い方は、まるで君が、本物の異星人のような、口調じゃないか。
その言い方は、まるで君が、香月さんを救ってやる、と断言しているような口調じゃないか。
それって……、ま、まさか!
「スィーヴッツ・ヴァカン、ステーレアナビア、アクシオン、ポスランティ・クラティイオ・ラーシオン」
エクレアが言い終えると、その直後、僕は信じられない光景を目にした。
快晴のお昼過ぎなのに、一瞬、周りが暗くなったかと思ったら、頭上から、目が開けられないほどの大量の光が降り注ぎ、周りの木や草、電柱や建物、担架を救急車へ運び込む消防隊員の、ありとあらゆる物質の色が抜け、白く、ただ白くなって、輪郭だけが浮かび上がっていた。
コンビニのおじさん、事情徴収する警察官、周りの人達が皆、まぶしさのあまり目を伏せる。
香月さんを乗せた担架を救急車に運び込もうとしている救急隊員も足を止め、目を伏せる。
ふと、天を仰ぐと、僕は驚愕した。
白く輝く巨大な葉巻型の物体が空を覆っていた。
「あれが……、宇宙船」
「そうよ、恒星間宇宙船、通称、アクシオン。最新鋭の戦艦よ」
そう言って、エクレアは万能通信機に向かって短い言葉を発した。
すると、宇宙船から青白い光が発射された。
その光は真っ直ぐと、香月さんが乗せられている担架に照射された。
ふわりと、香月さんの身体が、宙に浮かび上がる。
そして、宇宙船へ吸い寄せられるように、静かに、一気に、上昇する。
香月さんが見えなくなると、同時に宇宙船も消えた。
周りに、色彩が戻った。
消防隊員が、担架から香月さんが消えて、戸惑っている。
僕は、宇宙船のあった青い空を、見上げたまま、固まっていた。
「アルト、もう大丈夫。あの子、助かるわよ」
我に返り、エクレアに振り向く。
「本当?」
エクレアは、満面の笑みをうかべていた。
さらさらと、ツインテールの金色の髪が、そよ風にふかれて、なびく。
全身が、高貴なオーラで溢れている。そんな感覚をエクレアに感じた。
確信した。
コイツは、いや、このお方は、中二病なんかじゃない。
ザラアースという星から来た、本物の、異星人なのだ、と。
「エクレア……さん」
「なによ、アルトったら、急にかしこまっちゃって。エクレアでいいわよ。幼なじみじゃない」
「あのですね。香月さんが助かるのは、すごく嬉しいけど……」
僕は、消えた香月さんを探す、消防隊員や警察官へ向けて指をさす。
「これ、どうしよう……」
エクレアは、笑顔のまま、固まった。
「じ、じ、じ、人命第一だったのよ。本当は宇宙船を地球上に呼び出すことは禁止されているけど、緊急事態だったから……。あとの処理は、きっと、この地域に潜伏している諜報員が、うまく、処理してくれるわよ。あは、あは、あはははは……」
エクレアから発していた高貴なオーラが、残念なオーラに変わる。
けれど、香月さんを救ってくれた恩人だ。
「エクレア、ひとつ訊いてもいいかな」
「なに?」
「香月さんだけど、怪我はいつ頃治るのかな? 1か月くらいかな?」
「はぁ? あんな怪我、数時間で治るわよ。今日の夜には元通り。アルト、あんた本当にザラアースのこと、なにもかも、忘れたのね。ここまでバカだったとは、正直思わなかったわ」
「だ、か、ら、僕は、ザラアース人じゃないから!」
もう、何度言ったら、わかってもらえるのかな……。
頬を膨らましているエクレア。
なんだか、ホッとした。
香月さんを救ってくれたエクレアに、今回は素直に感謝しよう。
「エクレア……、本当に、ありがとう」
エクレアに笑顔を返した。
「な、なによ……。そんなにあらたまっちゃって……。アルトらしくないわね……」
エクレアは頬を赤らめて、プイッと顔をそらした。
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