ピエロは心を捨てた｜トランス・ソウル

　　やっとたどり着いた楽園。

　　ピエロはもはや
　　何一つ安全なものを
　　持っていなかった。

　　休息できる家
　　暖かい外套
　　胃袋満たす食べ物
　　慰めをもたらす恋人

　　一文無しのピエロは
　　神に捧げる１コペイカさえ
　　持ち合わせていない。

　　いまやピエロの持ち物は
　　痩せこけて
　　ボロボロの布が覆う
　　このからだだけ。

　　ピエロは心を亡くし
　　ただ踊る。

　　自分の哀しさも喜びも
　　情けなさもひもじさも
　　もはやピエロを悩ましはしない。

　　神に捧げられる
　　体の喜びに
　　陶酔しながら
　　ゆらゆら踊る。

　　天高く捧げられた手は
　　何をつかもうというのか？

　　流れ落ちる涙は
　　地上に種をまくというのか？


　　その姿を見ていた人々がいた。

　　墓地からあふれ出る灯りをいぶかしみ
　　ふと中をのぞいた。

　　眩しい光に言葉を失い
　　ただただ見つめていた。

　　ピエロにはなにもない。
　　そのかわりに
　　愛があった。

　　ピエロは神によって
　　生かされている
　　もうひとりの神だった。

　　人々は
　　本物のあたたかい光を前に。。。
　　

(photo: ©MikaRin)

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