見出し画像

全裸監督

村西とおる本人は大っ嫌いだけど、『全裸監督』は超面白い。24日にスタートしたシーズン2、イッキ見しました。

シーズン1は、しがない営業マンだった村西とおるが、妻と仕事を失って失意のどん底からエロの世界で天下を取るまでを描く、上昇の物語だった。

それに対してシーズン2では、村西のハングリー精神と向こう見ずな性格が悪い方に傾いてすべてを失うまでの、下降の物語。

シーズン1が村西とおるの勢いと人間的魅力を描いていたとしたら、2では見る者が嫌悪感覚えるように描いてて、ここまでやる製作陣すごいなと思った。主演の山田孝之の見た目の寄せ方もさらにパワーアップしてて不快感ハンパなかったw すごい。さすが。

以下、各キャラごとに語りたいと思います。

村西とおる(山田孝之)

画像1

すべて観終わっての感想は、『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』を観た後の気持ちに似てる。不滅の上昇志向を持つ男が主人公で、全然憧れないし尊敬もしないけど、映画としてはめちゃくちゃ面白い、という感じが。

私、基本的には自業自得で破滅する男が大好きなのだけど、『全裸監督』の村西とおるも、『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』のジョーダンもまったく好きじゃないし、魅力を感じない。これはなんでなんだろう?

と考えるたところ、共通点は、結局二人とも行動原理が信念や主義じゃなくて、金儲けなんだよね。

村西とおるは「性革命だ!」とか「セックスをもっと自由に!」とか主張してるけど、それは結局金儲けの手段としてエロで行こう、と決めたからそう言ってる、というだけのこと。

エロで稼ぐことに決めたなら、やはり規制は取っ払った方が良いし、セックス革命を謳うことで目立てばアンチがつくだろうけどファンも増えて、さらに儲けることができる。だからそういう主張をしてるけど、本気で世界を変えたいとか思ってるわけじゃない。

という部分は、村西自身は変態ではなくて、性的嗜好もプライベートセックスも割と普通なところに表れてる。エロをビジネスにしたきっかけは奥さんの浮気だったけど、別にNTRに目覚めた、というわけではない。その辺が、本気で自分の性癖を満たすものを作りたかった川田(玉山鉄二)との齟齬を生むことになってくるんだろう。売れるものなら変態的だろうが不道徳だろうがなんでも作ってやる!それを規制する法律なんか糞食らえだ!なくなっちまえ!というだけだから。本当のアナーキーではない(そういう意味で、現実の村西とおるが保守ツイートばっかりしていることが腑に落ちる)。

村西が伝説のAV女優・黒木香(森田望智)に「『SMぽいの好き』を超える作品なんて無理に決まってるだろ!あんないろんな奇跡が重なって撮れたもの、もう撮れるわけないんだ!」と言っていたのは案外本心かも。

S2は、まとめると「空からエロが降ってくる」イメージに取り憑かれて衛星放送に入れ上げたのが運の尽き、という話なのだけど、あれほど衛星放送に執着した1番の理由は「俺の夢だから」なんかじゃなくて、放送権を握る海野(伊原剛志)にセレブパーティーで「年商50億で自慢とかマジウケる、笑いが止まらないよwww」とクソほどバカにされたことが悔しかったからじゃないか、という気がする。ハングリー精神と、見栄。

その気持ちはわかるけど、「24時間AV見れます!契約金24万!」は普通に考えてちょっと非現実的だよなー(だいぶ前からあるにはあるけどオリジナルじゃないし。あれって月額いくらくらいなんだろう)。高すぎるし、ビデオでよくない?


なおまずいのが、この無謀な企画のために結局メインの仕事がおろそかになって、川田が必死に進言しているのに、新人の発掘にも、ファンが期待する衝撃的な新作にも、黒木香の新作にも取り組もうとしない村西。

でも、ここは難しくて、売上的には実録物『ありがとうケンちゃん』(これ、実際にはトシちゃんだったらしい!関係ないけどドラマのケンちゃんの髪型めっちゃ好き!!)シリーズが10万本突破の大ヒットしていて、この段階で会社が行き詰まっていることに気付いているのは川田だけ。村西にしてみれば、「こんな売れてるのに何を不安がってんだ」って感じだったんだろう。

ケンちゃんとヤっちゃったAV女優・江戸川ローマ役がISSAとお泊りデートした増田有華だったのはなんかあるのかな笑。余談ですがISSA好きだったので、あの時は若い子と報道が出てモテ男健在だな、となんか誇らしい気持ちになったものです。・・・ありがとうISSA!

まあそれはともかく、村西とおるはやっぱりそういう人で、もともと芸術家気質ではないから、『SMぽいの好き』という奇跡の1本で自分に過度な期待を寄せてくる黒木香や川田がだんだん疎ましくなってきたのかな、という気がした。それと同時に、黒木香の見透かすような視線で、化けの皮を剥がされるのを心の底では恐れてたのかも。

山田孝之はほんとに演じるのを楽しんでるんだろうなと感じたし、怖いくらいなりきっててまさに本領発揮。代表作になるだろうな(村西とおるが自分の役に福山雅治を希望していた、というのは笑ったw)。

トシ(満島真之介)

画像2

村西とおるにポルノの世界を教えた男で、一緒に頑張って会社を大きくしてきた功労者なのに、覚醒剤にハマって裏ビデオを売りさばいていたことがバレてS1で村西に切られたトシ。

1番好きなキャラだったので、S2にも引き続き出てきてくれて嬉しかった。満島真之介のチンピラ演技最高。横から見るとペラペラな体も最高。ビックサイズの柄シャツが余る感じがたまらないの。若いチンピラはケンカ弱そうな体型の方が良い。ちょっと若い頃の寺島進を思い出す。かっこいい。好き。

S2のトシは出所後なので、約束通り新宿のヤクザ古谷(國村隼)の組でヤクザ稼業に励んでいる。ずっと思ってたんだけどこの組事務所、なんであんな照明暗いの笑。オシャレなラブホか!

トシファンとしては、せっかく組抜けして川田と再会して昔のようにキラキラと仕事し出したのに、結局村西とおると関わった過去のせいで借金背負わされて、それなのにやっぱり村西が殺せず古谷を襲撃する方を選ぶ、というのはちょっと納得が行かなかったり・・・。

殺されかける前の村西とおるの必死の命乞い、全裸でエレクトして「生きてるんだー!」と叫ぶシーンは狂気じみてて面白いし、「なんかもういいや」ってなるのはわかるけど、魅力とは違うような笑。

ま、でも、トシは私好みの「こうとしか生きれなかった男」枠を貫いてくれたのでよかった。そういう意味では、あの哀しい最後は仕方ないのだ。

川田(玉山鉄二)

画像3

川田さんこそ1番の変態。キャラは1番面白いかもしれない。温厚で真面目なサラリーマンにしか見えないところがすごいリアル。

村西とおるの才能に惚れ込んだのに作品自体に精を出してくれずついに我慢の限界に達し、「こんなんじゃ抜けないんだ!もう…ピクリともしないんだよ!」と叫ぶ姿、なんてことを真剣に言ってるんだよ、と思って笑っちゃうんだけど、真摯な態度に心打たれるw

経営についても考えさせられる。村西とおるのダイヤモンド映像は、(変態だけど)常識的な川田がいたからギリギリ計画的に進められたし、違法行為や業界から干されるような行為をしないことでなんとかやっていけてた。

その彼の尽力を考えず、問題点を指摘されたら「お前は一人では何もできないんだ!」などと人間性を否定してキレるところには破滅への予兆がある。村西とおるのカリスマ性で会社が大きくなったことは確かだけど、彼だけでは経営できないのだから、結局「一人では何もできない」のは自分も同じ。

結局川田についていく人はいなかったけど、川田がいなくなったことで経営はガタガタ、ついに女優・スタッフのギャラにまで手をつけて全員の信頼を失い、その時に村西が放った一言は「お前らは全員モノなんだよ!」

川田のときと同じだ。社員・女優・男優・スタッフ、それは全て取替え可能なモノにすぎない、というのはある意味真実だけど、モノじゃないから、そんな言われ方をされてまで付いていく人はいない。人望をなくせば、結局何事も成せないのだ。

トシとの再会シーンも面白かった。

ヤクザに追われて古谷の女(西内まりや)と逃走中のトシが逃げ込んだ部屋は、なんと川田が天井から吊るされて女王様に鞭打たれている部屋だった!その状況で「なんだ、トシじゃん。なんでこんなとこに?」。・・・普通ー!

真の変態紳士は真面目で温厚、というのを地で行っている川田さん、素敵です。

黒木香(森田望智)&乃木真梨子(恒松祐里)

画像4

黒木香といえば、学生のときジェンダーの議論でその名前を出した子がいて、その時初めて「脇毛AV女優・黒木香」という人がいたのを知った。

抑圧されたお嬢様が自己の解放のために村西とおるのAVに出て、「黒木香」というキャラを作り出し大成功するけど、その一人歩きしたキャラのせいで村西に疎まれ、新作を撮ることなく失意の中引退することになる。

「脇毛を剃らない」という強いこだわりを、村西とおるは「ビューティフル」と言った。これは彼女にとってはまさに理解者を得た瞬間だったんだろう。

でものちに衛星放送に傾倒して作品をおそろかにしていく村西を、頭の良い彼女は、「彼が自分を”ポルノの帝王”と思わなくなった時点で、村西とおるは終わった」と評している。

村西とおるは、黒木香を得たことで一瞬自分を芸術家だと錯覚したのかもしれない。黒木とならすごい作品が撮れる、と。でもそうじゃなかった。彼がやりたいことは、すごい作品を撮ることじゃなくて、金儲け。売れるなら別にすごい作品じゃなくても良いし、自分が監督しなくたっていいという方向にシフトして行った。

黒木香と村西とおるは恋愛関係にもあったから、うまく行っている時はプライベートでも性を楽しんでいたのに、新作を撮りたい黒木と撮りたくない村西がギクシャクし始めて、何もせずに「おやすみ」と言われたときの黒木の表情は悲しかった・・・。自分は公私共にもう要らない存在であること、要するに飽きられたことを、はっきり悟る瞬間。

それでも、恋愛感情がある限りは期待してしまうし、彼の才能を信じたかったのはわかる。いや、もしかしたら、ここで逃げずに黒木と向き合って真剣に作品を作る方向に行っていたら、村西とおるの人生も作品も、全然違うものになっていたのかも。

でも、ドラマの黒木香は最後に母親と和解し、元々の夢だったイタリア留学?を果たしているらしいシーンが出てきて、新しい人生を生き生きと歩んでいたので良かった。

本物の黒木さんは引退して以降完全にメディアからは姿を消していて、こうして話題になってもまったく出てこないので真相は知る由も無いけど、彼女が脇毛を剃らないことをアイデンティティにしていたのは今の時代を先取りしてるし、それが当時の日本で受け入れられたのもなかなか興味深い。

多分重要なのは脇毛そのものじゃなくて、女が性を語る、ということだったんだと思うけど。言ってることは過激でも、言葉遣いや立ち居振る舞いがお上品だから受け入れられたし(ここは時代)、つまり、女が性を語ること=下品、では無いということがわかったということかも。男目線でも、普段はおしとやかなお嬢様が夜は獣、ってすごく燃えるだろうし。

昔のAVって女の人はずっと枕を噛んで声を殺してるんだよね。でも黒木さんと同世代の豊丸などの女優たちが積極的に大声を出して淫乱系として大人気に。つまり男たちもそういうものを求めていたということ。そういう空気とマッチしたのもあるんだろうな。「はしたない」と責めて、ベットで声を押し殺すマグロ女ばかりになってしまったら、それはそれで男だって困るんだ(そういうのが好きな人もいるんでしょうが)。

村西をめぐる女でもう一人の主要人物が、黒木香のライバルで、のちに村西とおるの妻になる乃木真梨子

実際には時期は被っていないらしいので二人の確執は完全に創作のようだけど、ドラマでは黒木の『SMぽいの好き』を観て仕事を辞めてAV女優を目指す設定の乃木真梨子。

この人の描き方はちょっと雑な気がしないでもない。そもそも私が「つまらない仕事」「平凡な毎日」とか言って周りを腐す人間が嫌い、というのもあるけど、AV女優になりたかったのか村西の恋人になりたかったのかよくわからない。

AV女優になる=自由になる、と思っているところも、変に村西とおるに洗脳されているようで嫌。この人は会社員時代、「適当に仕事して結婚できればいいや、でもなんか毎日つまんな〜い」みたいな生き方だったんだろうなと思ってしまう。自分で生きてない感じがするんだよな〜。※あくまでドラマの乃木さんです。

ラグビー(後藤剛範)&三田村(柄本時生)

画像5

『全裸監督』の良心!!愛すべきコンビ。

S1からずっと奈緒子(冨手麻妙)のことを想っている一途な三田村、やっと思いがかなったのかなと思いきや・・・。奈緒子の結婚告白シーンは泣いた。またお相手がしっかりした銀行員というところが・・・。ああこの人なら大丈夫だろう、という感じがして余計辛い。二人で会いに来るところも、過去を知った上でちゃんと理解してる良い人なんだろうなと思わせる。

「三田ちゃん、大人だな、かっこいいよ!」と言うラグビーの優しさにも泣いた。私も思った。かっこいいよ!幸せになって!!

川田たちとまた作品作るようになってて、本当に良かった。村西の呪縛から逃れて「日常系」という自分のジャンルを持ってるところも。奈緒子も喜ぶだろう。

武井(リリー・フランキー)

画像6

この人は結局、なんだったんだろうな。

村西を追いかけ続ける不良警官で、古谷からも賄賂をもらってる悪役だけど、何がしたかったのかよくわからない怪しい人。街に巣食う悪人どもを泳がせてつつ、裏で仕切ってたまに逮捕したり賄賂贈らせたりして、退屈な日常を紛らわせてるだけなのかな。

リリー・フランキー、ずるいよね。なんかこういう役がハマりすぎて、とりあえずリリー・フランキー出しとけば雰囲気ある作品になる、という風潮すらできてるよ笑。

結局贈収賄容疑で逮捕されるところは、時代の変化を読むのに長けているつもりでヤクザを追い詰めてた男が時代に付いていけなくなった、と感じさせて象徴的だった。

その他

地味に好きなキャラが、ビデオショップ店長・和田(ピエール瀧)。たまに出てきて的確なこと言うし、川田たちと三田村を組ませたり、かなり理想的なポジション。これもハマり役ですね。

画像7

メイク担当だった順子(伊藤沙莉)が最終的に監督をやるようになったのは、Netflix仕様だなと思ったけど自然だったので良かった。ちょっとふっくらした体型と若干掠れた声(飲み屋のママっぽい声)が、頼り甲斐のあるキャラにぴったりだった。
髪型に変化があってかわいいから画像多めで。ラグビー、三田村、順子は『全裸監督』三大良心と呼びたい。

画像8

財閥の会長・石橋蓮司は定番。リリー・フランキーと同じで、こういう役は石橋蓮司、となってるよね。逆に財閥令嬢・宮沢りえはちょっともったいないというか、あまり宮沢りえである必要性を感じなかったな…髪型も似合ってないし。
(この二人、いい画像が出なかった)

あとは何回か書いたけど古谷(國村隼)の声を荒げないことが逆に怖いところ、最高だった。さすがです。

画像9

まとめ

結論、『ブギーナイツ』×『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』

他にもありそうだけど、私の知ってる限りだとこの2本。アダルト業界への愛と、業界人の群像劇と、金儲けが大好きな主人公と、その破滅。石を売るシーンは、ウルフ〜のペンを売るシーンへのオマージュ。

破滅したあとどう終わらせるかって難しいけど、ラストシーンのブリーフ一丁で相変わらず路上強行撮影している村西とおるの姿には清々しさと希望を感じて、良い終わり方だった。

個人的には「アダルトを地上波で!」は、オープンになりすぎていやらしさを消してしまう危険性が大きいから反対だし、AV=自由については撮影されたものよりも実際の誰にも見られていないところでの解放こそ自由だと思っているので全く共感してない…というか村西とおるはその辺あまり考えてないのでは?と思う。

ただ、規制については、確かに今でも変なものはたくさんあって、モザイクなしを見ようと思えば普通に誰でも見れるのに、国内で無修正に出た女優は見せしめ逮捕で実名報道とか絶対おかしいし、成人した男女の動画投稿で逮捕っていうのも完全に被害者なき犯罪で、稼ぎすぎた人を見せしめに逮捕したようにしか思えない。

まあ、もっと酷かっただろういろんな規制を変えることに関しては一定の功績があるんだろうな。

そして、莫大な借金を抱えてホームレスになって、そこから完済して今また『全裸監督』で復活した点は、すごいよね。嫌いだけど。

村西嫌いを連発してますが、『全裸監督』が面白いことは強調したい。

あと、大沢佑香時代から大ファンの晶エリーさんがクレジットされてるんだけど気づけなくて悔しいのでもう1回探してみよう。


★NANASE★






この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?