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初めての男友だちを彼氏にしてしまった、大学1年の5月

「あの頃に戻りたいって時期、あります?」


老人ホームの厨房での仕事。私が隣の部屋でおやつの盛り付けをしているとき、真ん中のテーブルでお昼ご飯の盛り付けをするパートさんたちがこんな話をしていた。

別に戻る必要なんてないことは前提で。
それでも私は、もし戻れるとしたら大学1年生の5月に戻りたい。


私は大学に入学して間もなく、同じ学科で同級生の彼氏ができた。

半年で別れたが、あのとき付き合っていなければ今頃、いちばん仲が良い男友だちになっていただろうと今でも思う。

8年前の4月、私は県内の4年制大学に入学した。

入学式の次の日のオリエンテーションで、体育館に並んだパイプ椅子に座る新入生たちに、壇上の教授がこう呼びかける。


「じゃあみなさん席を立って、奇数列の人は後ろを向いてください。向かい合った人と自己紹介をしましょう」


私は前から2列目だった。みんなに倣って起立して、前に座る男性がこちらを向くのを待つ。程なく、先ほどまで私に背を向けて座っていた男性と向かい合った。

長身で細身。色白で細い顔に切れ長の目。まるで犬のような優しい見た目通り、彼は穏やかにのんびりと話し始めた。高校で女子校だった私は、同年代の男性とちゃんと話せるか不安だったが、とても新鮮で楽しかった。


そして、彼が気になった


特別「イケメン!」というわけではないけれど、体育館を出た後もあの顔が印象に残った。もう一度話したい。LINEくらい交換しておけばよかった。

オリエンテーション後、学科ごとに教室で履修の説明があった。学籍番号順に100名ほど。

どこにいるんだろう。初めて座るだだっ広い教室で私は、ずっと彼を目で探していた。


結局その日、彼との再会は叶わなかった。

オリエンテーションから2日後、仲良くなった女子グループを抜けて1人でサークル見学に行こうとしたとき、たまたま彼に再会した。

「あっ!」彼も1人でいたため思わず声をかけた。向こうも覚えてくれていたようで、簡単に立ち話する。

「サークル見学行くの?」「うん、ボーリングサークル気になってて」「そうなんだ、私も行くけど一緒に行く?」

そんな流れで一緒にサークル見学に行くことになった


そこからの展開は怒涛だった。見学終わりに食堂で一緒に昼食をとり、LINEを交換し、学科のグループLINEに招待してもらった。

家に帰ってから早速、LINEのやり取りを重ねる。初めての男友だちとのLINEは、刺激的でとても楽しかった。

丸一日悩んでデートに誘い、出会って3週間後に上野の国立科学博物館に行った。

中学時代も彼氏はいたが、デートといえば地元のお祭りくらい。男性と2人きりで都内に行くなんて初めて

緊張しすぎて、駅前のマルイでお昼に食べたパエリアのエビを床に落とす珍行動をしても、彼は「エビ美味しいのにもったいない〜」と笑っていた。

彼から告白されたのは、入学して2ヶ月目の5月下旬。この日は彼の家でゲームする予定だった。

出会ってから1ヶ月で家にあがるなんて、展開が早すぎる。もちろん一人暮らしの男性の家に2人きりなんて、生まれて初めての経験。

その日は本当にゲームをしただけだったが、ゲームを終えて一息ついたところで彼は床に顔を埋めるように寝そべった。


「エビアンさんって……彼氏いる?」「いないよ」「付き合って……」


こいつ、恥ずかしくて顔隠しているのか?!可愛いすぎないか!!!


断る理由がない。「いいよ」と承諾すると、「やったあ……」と言ってそのまま彼は眠ってしまった。


とはいうものの、帰りのバスで私は迷っていた。


確かに彼のことは好きだけれど、初めてできた「男友だち」に浮かれているだけかもしれない。

「恋愛」として見れるかは微妙。

1年間このままだったら来年のGWあたりに私から告白しよう、とぼんやり決めていた中で先手を取られてしまい、どうすればいいのかわからなかった。「やっぱり……」と後からLINEで断ろうとも思った。

けれど、断ることで彼との関係に亀裂ができるのは、もっと嫌だった。

付き合って数ヶ月は毎日LINEしたり毎月デートに行ったりしていたが、だんだん楽しくなくなってきた。

付き合いが妥協になってきたというか。それでも私は自分から別れようと言えず、結局最後の決断も彼にさせた。


それから8年。卒業式のときに一度喋って写真は撮ったものの、彼は今どこで何をしているのかわからない。

あんなに仲良くなった男友だちを彼氏にしてしまったせいで、別れて関係を無にしてしまった。

一体どこで間違えたんだろう。私は告白を断ればよかったのか?デートに誘わなければよかった?もっと話したいと思わなければよかった?

そもそも、男友だちでい続けることが無理だったのか?


あの頃に戻れたとしても、やっぱり私はまた同じことを繰り返してしまう気がしてならない。

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