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ミニ小説 プラスティック・ラブ(竹内まりや)

貴方がこの手紙を解読する日は来るのでしょうか。
変にプライドの高い貴方の事だから、決して誰かに渡して翻訳してもらったりはしないわね。
そう考えると好き勝手にペンを走らせる事が出来るわ。

いつだったか、私があの人と電話しているのを聞いて、日本語ってサムライみたいって言ったわね。なんて陳腐な表現だと思ったわ。
普段どれだけ映画理論や愛の詩について語っていたって、結局貴方も青い20代なのよ。

貴方の言葉の中で的を得ていた事と言えば、人生なんて所詮ゲームに過ぎないって事と、私は冷たい籠から出ようとしない臆病者って事。

貴方がわたしの代わりに投げ捨ててくれた指輪、今ごろ川の底で錆びてるでしょうね。
その時の、月の下でキラキラしている貴方の瞳の光だけ覚えておきます。私には、それだけでいいの。貴方の言う通り、私は臆病者だから。

どうか私の事は早く忘れて。
あなたはどうか、自分の人生を生きて。
ニースで見た朝の海のように、あなたにはとてつもなく広大な、明るい未来が開けているのよ。

あなたがいつか歳をとった時、いつか知り合った日本女性の肌と髪は心を狂わすほど美しかったという事を、孫にでも話して聞かせてやんなさい。

短いゲームの中で貴方と会えてよかった。心から愛しています。