自転車を買うように中古車を買ってみた


話が前後してしまうが、短大に入る前に中古車を購入した。短大へ通うのに車が必要だったからだ。公共の交通機関に頼っていては通学に2時間以上かかってしまう。

アメリカの町は原則として車を運転することを前提にして設計されている。もちろん路線バスは走っているけれど本数は少ないし時間も不正確だ。電車にいたっては大都市の一部しか走っていない。なので車がないと行動範囲が極端に限られてしまう。

車を買う前はリンダの家から語学学校までバスを2つ乗り継いで通っていた。バスの乗り換えは電車の駅でまわりはいわゆるゲトーといわれる超治安の悪い地域だった。乗り換えのバスを待っていると毎日のように物乞いが寄ってきてペニー(日本円で1円)をくれとせびる。リンダから物乞いには絶対にお金を渡さないようにと言われていた。国から十分な補償が出ているのだからお金を渡す必要はないという考えだった。

ゲトーの駅から乗り換えのバスは一気に坂道を上がっていく。坂を上がるにしたがってゲトーっぽさはなくなってふつうの住宅地、そして語学学校のあるエリアはかなり高級住宅地になる。その違いはもう残酷なくらい一目瞭然だった。

バスに乗る人たちは基本的に低所得者か車の運転ができないティーンだった。ゲトーの地域ではブラックのティーンたちがどっと乗り込んでくる。バスで通学することで社会の様々な層の人たちの姿を垣間見ることができた。留学生としては努力しない限りはたぶん付き合うことがない層の人たちだったと思う。それくらいアメリカの社会はクラス分けされている。

アメリカで車を買うのは自転車を買うみたいに簡単だった。個人売買も盛んで、ローカルの情報誌には車を売りたい人または買いたい人の広告がひっきりなしに掲載される(今はすべてオンラインだと思う)。中古車業者から買うよりも安価に購入できるので多くの人は個人売買で中古車を買う。

ルームメートのベスに手伝ってもらって中古車探しを始めた。情報誌や新聞の個人売買のコラムで予算にあった車を見つけて持ち主に連絡する。試乗の日時を決めて現地に向かい試乗させてもらう。そこで気に入ったらお金を支払ってそのまま買った車を運転して家に帰ることができる。いくつかよさそうなのを見つけて、ベスの運転する車で試乗に出かけて行った。

いくつか試乗したあとに乗ったトヨタのセリカという車がいい感じだった。試乗した走りも良いし変な音もしなかったし、走行距離も比較的低かった。車の詳しいことはよくわからないけれど、コンディションはなかなか良さそうな感じだ。素人だから車に欠陥があってもわからないところがリスクだった。中古車業者から買えばある程度の保証期間がついてくるのだがその分価格が上がってしまう。

この車ならいいかも、という直感を信じるという不確かな方法で決めてしまった。確か当時の日本円で50万円くらいだったと思う。現金で支払って、車の登録証明書をもらって購買終了だ。車庫証明とか車検証明とかも必要ないのでふつうにお買い物するみたいに車を買うことができる。

めでたく車のオーナーとなり、そのまま家まで運転して帰った。自分の車を所有するのは初めてだった。日本では両親の車かもと夫の車、妹と同居していたときは妹の車を運転していた。考えてみれば私の日本での生活は人に頼ってばかりだった。

車を購入したあとは、運転免許やナンバープレートを発行してくれるDMV(Department of Mortar Vehicle)という日本の運転免許試験場と運輸局がまざったみたいな州政府の機関へ行って所持者が変わったことを報告するだけだ。車の登録証明書を持っていくと新しい登録証明を発行してくれる。ナンバープレートは同じ州に住んでいる限りはそのままで変更しない。確か車両保険に入っている証明書も一緒に提出しなければならないはずだ。

私のアメリカ生活は中古車を購入したことによって劇的に改善された。それはもうものすごく行動範囲が広がり経験する幅が大きくなったのだ。

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