『River of No Return』(小説)

 あなたの声が聞こえて、あなたの声が聞こえなくなって、そうだ、そういえばあなたは様子を見てくると言って、サンダルを履いてテントから出ていったのだった。と思って、私は傘をささずに川岸に走った。雨が降って、川の体積は増えていた。濁って底の見えない水の塊がたてる鈍い音はおどろおどろしく私に警告した。これ以上近寄ったらお前を殺すぞ。
 動いていく水の膨張が終わらない。一本の細い腕が明滅を繰り返す光景。が、視線のずっと奥にある。水面から出ては濁流に飲まれる。水面から出ては濁流に飲まれる。水面から出ては濁流に飲まれる。視界の端から端に流れていく。腕、と私は思う。腕が消えた、と私は怖がる。溺れてしまった。あなたが溺れた。

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小説

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