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【19歳、旅の回顧録】エジプト/スラム街のぬるいコーラ
2017年、当時19歳だった私がエジプトのカイロに行ったとき、目的といえばピラミッドとミイラだけだった。2つの目的を達成し、さてどうしたものか、と宿でコシャリ*を食べながら過ごしていたとき、「じゃあ、スラム街を案内するよ」と同じ宿の住人に声をかけてもらった。
さっそく外に出て、トゥクトゥクを捕まえる。ジリジリと肌を焼くような陽射しから逃れてホッとしたのも束の間、排気ガスと砂埃でよどんだ空気の中を無理やり駆け抜けてゆく。
思い返せば、カイロに到着してから爽やかな瞬間はなかったように思う。早朝はマイクを通して大音量で流れるお祈りの声から始まり、待ちに出ればすぐにキスをしてこようとする男に出くわす。
あいかわらず、砂を含んだ風はチクチクと痛い。
目的地の少し手前で降りた私たちは、歩きながら事前に注意事項を伝えられた。
「写真は撮らないで」
「離れずに歩いて」
「時計はしまって」
「危ないので、落ちているもの、置いてあるものに触らないで」。
ほんのちょっぴり観光気分で浮ついていた心は萎み、目的地に到着する頃には気持ちが引き締まっていた。
ツンっと鼻を突く匂い。
その場所で住民は文字通りゴミとともに暮らしていた。聞くとカイロ市内で回収されたゴミを分別し、生活費にしているのだという。
「私が捨てたコシャリの容器もここに行き着いているのだろうか」
ねっとりとした暑さと空気の中、そんなことを思いながらゴミを踏んでさらに奥へと進む。
そんな時、案内人の友人だというおじさんが、
「クーラーボックスに氷がなかったからぬるいけど、ちょっとはマシになるだろ」と言って少年のような笑顔でコーラを差し出してきた。コーラはぬるかったし、そこも相変わらず異臭が漂っていた。
けれど、私は幸せだった。幸せかどうかは自分が決めたらいいと、笑顔のその人から教わった気がしたから。
実際のところ、簡単に折り合いをつけれないこともあるだろう。
圧倒的な理不尽もあるだろう。
でもどんな環境の中でも、自分の心だけは自分のものだ。
エジプトは、爽やかさはないけれど生きるエネルギーに満ちた、そんな町だと思う。
忘れたくない、忘れられない、エジプトでの19歳の記憶。
*エジプトの国民食。ご飯にパスタ、マカロニ、豆を加え、フライドオニオンとトマトソースをかけ、ごちゃ混ぜにした料理。
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