水曜日の本棚#8 本当はちがうんだ日記の日記

歌人・穂村弘のエッセイが好きで何冊か持っているのだけど、そういえばごくごく身近なひと、同じように本好きな友人にも、彼の本が好きだと言ったことがない。だって難しいのだ、説明するのが。何がどうおもしろいのかをわたしの言葉で伝えようとすると、途端にその魅力がなくなってしまう。彼の文章それ自体のリズムや鮮度、味や手触りがあるからこそ、なのだろう。

わたしはお風呂に本を持って入ることも多いのだが、これはそんな「お風呂のお供」によく選ぶ1冊。とりあえず愉快な気分になりたい、頭を使いたくない、そんなときに手が伸びる(ちなみに、同じような理由で、三谷幸喜や宮田珠巳、奥田英朗のエッセイも重宝している)。

日常を見るときの網の目が、細かいんだろうな。その網の目のかたちも、独特。だけど、自分にとっては実は近しいかたちで、だから共感しながら読んでいる。

支払いのときに手が滑ってお金を落とすことがある。それが転がってレジの下に入ってしまう。そんなとき、私はそれを「なかったこと」にしてしまう。店員さんが気づいて、あら、という顔をしても、私は能面のように無表情のままである。いいんです、いいんです、気にしないでください、と心のなかで必死に唱える。  (中略)世の中には無数の手順と不測の事態にまみれて二十代で会社を興す人間だっているのに、四十歳の自分はお釣りを小銭入れにしまえないとは、いつの間にこんなに差が開いたのだろう。
本当は違うんだ日記「現実圧」より

こんなのわからないひとにとっては何それ、という話だろう。でもわたしにはめちゃめちゃわかる。そういえばいつのまにか普通に小銭を探せる人間になっていたけど、昔はそうじゃなかった。自意識強すぎたんだよなぁ。

他にも「一家言あるひとが恐ろしい」とか「『ね』の未来」とか、ごくごく小さな、でも、なぜか悔しい感じの「あぁぁ、わかるーーー」が積み重なっている1冊です。


#日記 #読書 #エッセイ #本 #穂村弘


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