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激レアの経済小説家はひたすらユニークな人生を行く

三度目の最終選考。
会社を辞めてから2度目の挑戦である。

私は全部違う出版社の違う賞に応募している。
なぜこんなにあれこれ浮遊するのか。
それは私が所属するジャンルがないからだ。
何人かの編集者から言われたことがある。
「どの本棚に入れたらいいのかわからないんですよ」
そうだ……小説にはカテゴリーがある。
ミステリー小説、ファンタジー小説、ホラー小説、恋愛小説などなど。
結局私は経済小説というカテゴリーを選んだ。

さて、選考会。受賞作を選ぶとき、高杉良先生と幸田真音先生の意見はよく対立していたらしい。でも、私の小説で初めて意見が一致したとのことで、他の、佐高信先生や安土敏先生も喜んで賛成したとのこと。私はやっと自分の作品を気に入ってくれる方たちに出会えたのである。
その後の読者レビューには「これ?恋愛小説?」とか「ミステリー?」とか投稿している人が散見されて苦笑した。要するに盛沢山なのだが、高杉良先は「立派な経済小説だよ」と太鼓判を押してくれた。気に入ってもらってよかった(感涙)

最終選考の日、私は日本にいた。
アフリカのザンビアで開発調査を行っていたが、再委託調査の結果が出るまで1か月間だけ日本に戻るようにスケジュールを組んでいた。もちろん、小説の最終選考があるとは誰にも言っていないし、プロジェクトの流れからしても、一度日本に戻るというのは理にかなっていた。
日本にいるときは成果主義のテレワークなので、近くのジムで汗を流すことにした。落ち着かなくて、家にはいられなかった。同居の母にも何も話していなかった。そして、自転車を漕いでいるときに携帯電話が鳴った。
「すぐにパレスホテルに来れますか?」
それを聞いたとき、よかったー、日本にいて……ザンビアだったら駆けつけられない、と汗をぬぐった。
急いで着替えて、選考委員の先生方が待つホテルに向かった。先生方にご挨拶して、自己紹介をした。応募原稿を読むとき、選考委員に著者の肩書は一切知らされていない。だから、私が国際開発コンサルタントだと名乗ったときは、かなり驚かれたようである。こんな小柄な女性がアフリカへ?ってな感じだ。ステレオタイプ的に言えば、過酷な現場に女性が行くことが驚きなのである。私がODAの仕事を始めた頃は、業界団体の方にすら「えっ、女性が海外出張ですか?」とあきれられた。でも、今や途上国に国際協力で出かけるのは女性の方が多いくらいだ。アフリカでも大勢の女性が活動している。
「新聞社の様子が非常にリアルに描かれていたので、そっちの関係者かと思いました」
と言う方もいらっしゃった。

インドンネシアを舞台にした「ロロ・ジョングランの歌声」は第一回城山三郎小説大賞を受賞した。とにかく、感無量だった。何よりも、尊敬する城山三郎先生の名前の賞である。こんな光栄なことはない。

でも、私のミスマッチはこの先も長く続き、苦労することになる。
クリエーターにとってユニークは誉め言葉かもしれない。でも、ユニークであるがゆえに、共感者に出会えないことも多い。まず、経済小説を読む女性が少ないという事実。かつて亡父は「山崎豊子には男性のライターがついているのではないかという噂がある」と根も葉もないことを言っていた。愛読していたくせに、女性だと思えなかったらしい。昔の男性には、女性が社会経済を語ることは信じがたかったのだろう。(今でも?)
小説の舞台が海外であることもユニークだ。
私が書くのは日本の人たちが知らない現場で、書く意味は知らない現場を疑似体験して感じてもらいたい、考えてもらいたい、という意図を含んでいる。誰でも書ける現場ではない。でも、それは身近ではなく、興味を持ちにくい。銀行が舞台であれば、銀行員は山ほどいるし、日本人の誰もが銀行口座を持っている。でも、国際社会に興味のある人は少ないし、それをテーマにした本に手を伸ばしてもらうことは至難の業だ。

でも、私は私にしか書けない小説を書く。
本当はおこがましくて、こんなこと言うのは気恥ずかしい。使命感とか正義とかをひけらかすのはどうかと思うが、小説を書くことは私に与えられた役割だと思っている。社会の混沌を描きたい。正義とも悪とも言えない社会の難しさを問いかけたい。

と、今日はここまでにしておこう。

下記は受賞作の文庫版です。恋愛、ミステリーありの経済小説で、NHKラジオドラマにもなりました。ぜひ読んでみてください。

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*)ノートの写真は、私がこれまで撮ってきたものです。

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