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小説を書くためにお金を貯めろ(!?)

「これ以上小説を書くことをお勧めしません」
そう編集者に小説家失格を宣告され、10年近く小説を書くことをしなかった私。
その私が、なぜまた小説を書き始めたのか。

答えは簡単だ。
結局私は書くことをやめられなかったのだ。

私が従事していた国際協力の仕事とは、主に開発調査と言われるものだった。若いうちは、開発案のプロポーザルを書き続けた。プロポーザルを読んだ先輩社員は「松村さんのプロポーザルを読んでいると、できる気持ちになってくる」と言われた。「小説みたいに惹きこまれる」とも言われた。この未来は明るい、プロジェクトは成功して社会はよくなる、と思わせるのが、人々を動かすための企画書だった。
そして、キャリアを積んでからは現場に飛んで、調査、分析、提言を報告書にまとめた。同時に、提言したプロジェクト案を実践し、評価して、また報告を書いた。でも、報告書は、徐々に換骨奪胎になった。クライアントには「事実関係のみ書いてください」と言われた。私情を挟まず、事実だけを並べて分析することを求められ、現場で頑張る人々の夢や希望や……、そんなことは書けなかった。電気や道路や水を求めている人々の声は統計処理の数値になり、私は淡々とその分析評価を書き続けた。人々の声を、数字に置き換えた。

「松村さんは、何でも数字で評価して、人間がわかっていないっ!」

そう言い放ったのは、入社して間もない、大学院を修了したばかりの部下だった。
クライアントの希望に合わせて、人々の生きざまをどうやって数値化するかを考え続けていた私には、衝撃的な批判の刃だった。彼女には、出張先のマレーシアで「どんな小説を読むのか?」と聞かれたことがあった。その時私は「小説は読まないよ」と答えた。それを聞いた彼女は、ちょっと軽蔑したような表情をした。彼女はよく待ち時間に文庫本を読んでいたので、小説を読まない私を、別次元の人間と決めつけたのであろう。統計分析ばかりする、人間知らずのトンチンカンだった。

小説を読まないのは、小説を書きたくなるし、書かない自分を認めるのがつらかったからだ。

当時は、まだブログを書く人は少なかったが、実は、私はこっそりミクシィでブログを書いていた。
仕事の内容は伏せていたけれど、どの国にいるかは明かしていて、写真も載せていた。年間に半年は海外で仕事。インドネシア、カンボジア、フィリピン、マレーシア、ネパール、パキスタン、パレスチナ、ザンビアなどなど、日々の生活の出来事や感じたことを書き続けていた。書くことが辞められないのだ。いつの間にか読む人も増えていき、書くことが楽しみになっていた。

そして、部下から投げつけられた一言に衝撃を受けた私は、人間を描くことにもう一度挑戦したいと考えるようになった。

さて、それから私が始めたことは何か。
そう簡単に小説で食っていけるとは思えない。
どうする?
とにかく、まずは貯金だ!
超現実的です(苦笑)

勝負したいとき、勝負できるようにするにはどうしたらいいか。
仕事をクビになっても小説で食べて行けるようになるまでは年月がかかる。まずはお金が必要だと思った。3回の新人賞落選を経験していた私は、選考にとてつもなく時間がかかることを知っていた。半年掛かりで書いた400字詰め原稿用紙500枚の作品を、さらに評価するのに半年はかかる。結果を待つのも大変。そして、落選したら、また一年がかり。お金がなければ夢を叶えようとする努力すらできないのだと考えた。

なんとも夢のない発想。

でも、たぶん、これは、発展途上国で貧困削減に取り組んできた国際開発コンサルタントだからこその現実感だったのだろうと思う。先立つものがないとできないことがある。ないなりの工夫はできるが、あればもっとできるのに、と思うことが無数にあった。
で、少なくとも、小説を書く時間を得るためには、生活費をキープしなくてはと考えた。そして、「じり貧でも10年くらい食べていける貯金」が目標になった。小説家デビュー10カ年計画、というやつである。


と、今日はここまでにしようかな。
明日は、会社を辞める決心をした話を書きます。
励みになるので、ぜひぜひサポートをお願いします。

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