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利益を出すということ #2

発展途上国で貧困問題のODAプロジェクトをやっていると、基本的な考え方で衝突することがたびたびあった。貧困削減分野で働く人の多くが、利益を搾取だと思っていて、利益を出している企業を巻き込もうとする開発コンサルタントを奇異の目で見るのだ。私はそのたびに、持続性とは何かについて熱弁をふるったが、なかなか理解されなかった。ODA最盛期の1990年代から2000年ごろのことである。

ODA業界には、ハード・コンサルタントとソフト・コンサルタントという分け方があった。ハードは建設コンサルタントで、電力や道路などのインフラ工事を行うエンジニアである。もともと日本のODAはハードが主流だ。だが、1980年代になると、ソフト・コンサルタントの重要性が唱えられ、社会福祉や教育分野のコンサルタントが増えてきた。私はソフト・コンサルタントに属するが、経営学という切り口だったので、怪訝な目で見られていた。国際協力業界には、当時、「民間企業は搾取をする」という考え方にあふれていたのだ。そして、経営学を学んだ者がODAに関わることは非常に少なかった。

農村開発のプロジェクトでも、「流通業者は搾取する」という考えが主流だった。農民から安く買い叩いて、市場で高値販売している。3倍、4倍の価格で売られている農産物に「搾取だ!」と憤る人が多かった。私は輸送費や途中のロスや売れ残るリスクを考慮しなくてはいけないと説明し、流通業者側の考えを代弁することも多かった。流通業者の意見を訊くと、長年買い付けてあげたのに、市場価格が少し上がると、すぐに高値購入する別の業者に鞍替えしてしまう農民は信じられない、と言う。互いに不信感があった。
農協はどうか。残念ながら、モンゴルやカンボジアでは長年の社会主義の記憶あって「農協」という言葉にアレルギーを持っていた。マレーシアやエチオピアでは農協が作られていたが、経理や財務ができる人材が少なく、不透明な経営が問題だった。

私は、民間企業はリスクを取る成功報酬として利益が必要なのだと説いた。利益がなくては持続可能性が担保できない、と力説した。会計業務ができる人材の育成が急務で、金勘定は生きるために必要だと訴えた。多勢に無勢で、結構討ち死にばかりだったが、ヨーロッパからソーシャル・ビジネスなどが提唱され始めると、少しずつ本当の意味の「持続可能性」は、無償援助ではなく、利益を出す企業活動であることが理解されるようになった。

生産者も流通業者も消費者も喜べるウィン・ウィン・ウィンの関係。正直なところ、ODAで実施するのは制約が多すぎて難しかった。基本、ODAでは儲けてはいけないからだ(苦笑)。でも、パイロットプロジェクトを通して、各プレーヤーの信頼関係が最も重要だということは伝えられたのではないだろうか。
最近では、日本のNPOや企業も、発展途上国のビジネスに投資をするようになった。企業活動が活発化することで、地域の人々に雇用をもたらし、生活を安定することができるし、企業が利益を追求することは社会貢献につながっている。
途上国ビジネスはリスクが大きいので大変だし、新型コロナの影響で、苦境に立たされている企業も多い。力になれることは少ないが、一人ひとりができることをしていけば、活路は開けると信じたい。そして、その動きが見えているところがある。

株式市場で、先週は22000円を付けた。一時は急落した株式市場が、今、買い戻しに動いている。株式市場は息を吹き返した。
株式投資を「ギャンブル」と言う人もいるが、私は違うと思っている。今こそ、多少でも余裕資金がある人は、企業に投資して欲しいと思う。株を買うことは、「頑張れ企業」ということだ。資金を必要とする企業を応援することだ。IT産業や医療関連銘柄が伸びているということは、それを応援する声が届いているということ。社会は捨てたもんじゃない。

新型コロナの感染で大変なエッセンシャルワーカーの方たちや飲食・観光業を応援する意味でも、株式投資やクラウド・ファンディングの動きを注視していたい。


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