怪獣と抜け殻

夏の終わり。
セミの抜け殻を見つけた。

帰って娘に見せてあげよう。興味持つかな？
そう思って持って帰った。

それが、びびる！びびる！

ほほーう。意外。

その頃、冷蔵庫を頻繁にあけるし、欲しそうな物は届かない所に隠してもイスを持ってきて登って取ったり、（何度も落ちて泣いてるくせに）
怒ったところで見てなかったらまた開けるし、冷蔵庫のドアポケットごと外れて修復不可能になったりと、怪獣っぷりを発揮してくれていた娘。

待てよ。

考えてみたら、ドアポケットって無い方がシンプルでいいよね。
調味料とか入れっぱなしで期限切れしてたりとかするじゃん？
あったらどうしても使うけど、無かったら入れるもの選ぶし、整理するじゃん。
もはや無い方がいいんじゃない？
ほら、隅とか掃除大変だし。
なんでみんなドアポケットなんて使うのかしらねー。

そうだ。シンプル　イズ　ベスト

これからスマートライフの始まりなんだ。

…

じゃ、ドアポケットのない冷蔵庫を探して買うのか？

そんなわけない

そんなのスマートライフでもなんでもない。
便利だからあるに決まってる。
不便でしょうがない！牛乳置きたい。

これは私と、怪獣の戦い。
このままでは2代目冷蔵庫もドアポケットがなくなるのは時間の問題。

どう戦略をたてるか。

無理矢理止めたところでね、
またやるの。

ついて歩いてあげればいいんだけどね、
ずっとは無理なの。

いくらでも食べさせてあげたいけどね、
太るの。

冷蔵庫なにか挟んだまま閉めるからね、
ピーピーうるさいの。

たまーに閉めてって言って閉めてくれることもあるんだけどね、
なんか挟んでるままだからね、勢いよく閉めたら閉める前より開いてるの。

今までも、何度となく繰り広げられてきた戦いは私の全敗。

ドアロックを購入。
冷蔵庫は当たり前のように開き、ロックは一発で破壊。吹き飛ぶ。冷蔵庫に残る粘着シールの跡が無残だ。
敗因:怪獣の怪力をなめていた。

養生テープを貼る。
ドアロックよりはマシだけど気休めだ。
彼女はテープを剥がすなんて回りくどいことはしない。
直球勝負。開けるのみ。
敗因:養生テープでは怪力には勝てない。
利点:養生テープは跡が残らないのと次から次へ貼れるので時間稼ぎには使える。

それからというもの、養生テープ頼り。
スマートインテリアとは程遠い。
溢れ出る生活感。
家庭には無い現場感。

そこへ救世主！
蝉よ！孵化してくれてありがとう！

こんなリアルな芸術作品を惜しげもなく提供してくれる懐の深さ。
うるさいとか言って悪かったです。
どんどん鳴いて下さい。

難攻不落。越えられない壁。もうドアポケットは諦めるしかないのかと思ってたけど、
私、やっぱりまだ諦めたくない！

怪獣さんにも弱点があった！

これで平穏な日々が送れる…。

冷蔵庫の上に置いてみた。

気づいてないから開ける。

ダメだ。失敗。

冷蔵庫の中へ入れてみる。

気になるから開ける。何度も開けられたら意味がない。そして閉めない。

今度はここにいるよーとしっかりアピールして冷蔵庫の上の落ちそうなところに置いてみる。

びびるー！
気にするー！
開けようとするけどやめるー！

勝利だ。
私は勝った。
自分の力で（せみ）

束の間の勝利に酔いしれるも、いつの間にか姿を消していく抜け殻。
こわいはずなのにどうやって…？

そしてどこへ？

次の日から、

家の植木、
駐車場から職場へ歩く道、
私は木という木に常にアンテナを張り巡らせ、
セミの抜け殻をくまなく探す。

勝者は不審者に