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パブのお姉ちゃん

ホーチミンの安宿で仲良くなったSくん。
私たちと同じような、バックパッカー旅人かと思いきや、実は隣国カンボジアにて、歌を歌って生活しているという。

そんなSくんを辿って訪れたプノンペン。
彼と彼のバンド仲間たちが至る所を案内してくれたお陰で、とても充実した滞在期間であった。
その中でも特に印象的だったこと。

出会いは彼らのバンドが演奏しているバー。
「今日演奏するからおいでよ」
と誘われるまま、開店と同時に店内へ。
バーカウンターがメインのそこには
女の子のスタッフしかいなかった。
怪訝な顔をされながら、女2人の私たちに生ビールを注いでくれたお姉ちゃん。
「俺たちの友達だよ。世界一周中なんだって!」
とSくんが紹介してくれると、少し表情が柔らかくなった。
夜が更けるにつれ、多くなるスタッフのお姉ちゃんとお客たち。
よく観察すると、そこは普通のバーではあるものの、ターゲットは外国人男性客の、いわゆる売春パブであった。
お客は現地で働く人もいれば、観光客もいたが、年齢層は高めでみんなお金を持ってそうな人たちだった。

カウンターに開店から居座り続けていた私たちは、スタッフのお姉ちゃん何人かと仲良くなった。
最初こそ警戒されていたが、年齢が近かったこともあり、お互い辿々しい英語で会話した。
聞くとみんな出身はプノンペンでなく、聞いたことがない地方出身。
お金を稼ぐためにプノンペンに来た
と。
もっと知りたい!仲良くなりたい!と思う度に
馴染みのお客さんに指名されていなくなっての繰り返し。
そんな中、白髪でボテっと太った欧米のおじさんが、私たちと仲良くなったお姉ちゃんをお持ち帰りすることに。
お客さんはもちろん、お姉ちゃんも大喜びしていた。
周りのスタッフはやるじゃん!みたいな雰囲気で。
お姉ちゃんは私たちに軽く別れを告げ、
ママにお金を手渡し終わったおじさんとバーを後にした。

売春の瞬間を目撃してしまった。
それは想像以上にとっても自然な接客であった。
もっと悲しい雰囲気で去ってくのかと思っていた。
お姉ちゃんが喜んでいた理由は聞いていない。
もしかしたら、羽振りの良いお客さんだったのかもしれないし、ただ単に酔っ払ってテンションが上がってただけかもしれない。
それでも私が彼女達を色眼鏡で見ていたことに気付かされた。
お姉ちゃんの真意は今でも分からないままだが、彼女たちは間違いなくその時を生きていた。

時は過ぎ去りその3年後。
私は再びプノンペンを訪れる。
あれからずっとプノンペンに住み続けているSくんの風貌はすっかりカンボジア人。
彼はもっと大きなバーのマネージャーになっていた。
彼の休みと私の滞在期間が合わず、仕事終わりに飲みに連れて行ってもらうことに。
深夜1時すぎだったろうか。
まだギリギリ営業してるはずだから
と馴染みのパブへ。
3年前のバーを彷彿させるような所だった。
(きっとどこの売春パブも似たような造りなんだろう)
深夜ということもあって、お姉ちゃんたちはお客さんと盛り上がっていた。
Sくんはかなり馴染みのようで、みんなに笑顔で迎えられ、慕われていた。
私はまたカウンターに座り、他のお客さんやお姉ちゃんたちとお喋り。
日本人の女子はやはり珍しいのか、ここではいろんな質問をされた。
会話に花を咲かせていると、ママが手をたたき始めた。
どうやら閉店らしい。
外に出ろという合図。
私も帰ろうと席を立ち、周りを見渡すがSくんの姿が見当たらない。
Sくんのバイクで連れてきてもらったので、ここがどこか分からない。
見知らぬ土地の真夜中に、女1人はさすがにダメだと一気に不安になる。

他のお姉ちゃんが、彼は近くに買い物へ行ったと教えてくれた。
「すぐ戻るから私たちと一緒においで。私たち今からご飯だから。」
とお姉ちゃんたちが私の手を引く。
私も一人でいるよりはマシだろうと考え、
お姉ちゃんたちと一緒に通りを抜けた。
そしてたどり着いた食堂の席につく。

きっと私がかなり不安そうな顔をしてたのだろう、
お姉ちゃんが
「大丈夫よ。私たちが付いてるから。Sはすぐに戻ってくるし場所もわかってるわ。」
と手を優しく握って微笑む。
さっきまでお客さんと大騒ぎしてたけど
実はそんなに酔っ払ってなかったんや、このお姉ちゃん。
プロだなぁ。そして優しいなぁ。
「オークン(ありがとう)」
せめてクメール語でお礼を言わなきゃと感動していると、
Sくんがバイクに乗って帰ってきた!

「ごめん!お店閉まること忘れてた!みんなに差し入れ!」
これまた優しいSくんは、スタッフたちへの差し入れを買いに行っていたらしい。

その後、みんなで何ご飯かわからない食事を取り、世が明ける少し前に、Sくんが宿まで無事送り届けてくれた。

Sくんには当時、プノンペンのディープなことを沢山教えてもらった。
エイズにかかりながら、カツラを被って売春目的で彼のバーに出入りするお姉ちゃん
私が訪れたような売春パブを経営する人たち
置屋の客引きの仕事など
普通に観光していたら知らなかったプノンペンの側面であった。
そんな事実と私が出会ったお姉ちゃんたち。

ネガティブなイメージで語られがちなことであるし、
それが実はみんな笑顔だったよ!というひっくり返しキャンペーンをするつもりもない。
きっとみんな悩んで葛藤して毎日精一杯生きている。
それでも見ず知らずの観光客である私に
無条件に手を差し伸べてくれたお姉ちゃんたちを私は忘れない。
彼女たちも1人の人間で、たしかにそこに生きていた。

自分の目で見た世界だけを信じたい。
そう強く思った学生最後の旅であった。

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