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伝えなければ届かない患者の声。自身の活動を通して患者の声を届けていきたい

"患者中心の医療"
この言葉はだいぶ浸透してきたように思われますが、まだまだ十分とはいえない状況があります。

自分の経験を活かし、患者の声を届けるにはどうしたらいいのかーー
こう感じたことがある方もいるのではないでしょうか。

そんな「伝えなければ分からない患者さんの声」を届けるために、"患者だからできる" 
さまざまな活動をしているのが清水さんです。

患者の声を届けるために幅広い活動をされている清水さんに、詳しくお話を伺いました。

本インタビューは3編にわたってお届けしています。
(1)35歳で見つかった肺がん「ネガティブなイメージだった、抗がん剤の治療に挑もうとしたきっかけ」
(2)がんの告知前後で大切なのは「確かな相談先を知っておくこと」
(3)伝えなければ届かない患者の声。自身の活動を通して届けていきたい←今回はココ

※本記事は、がん経験者の体験談です。治療法や副作用などには個人差があります。医療情報につきましては、主治医やかかりつけの病院へご相談してください。

同じ病気の人達が集まれる場に、自分自身が出会えたら

ーー現在の活動と、患者会を立ち上げた経緯について教えていただけますか。

2018年の日本臨床腫瘍学会に参加させてもらったときに、がん患者仲間と会場で出会い「じゃあ、ご飯でも食べましょうか」と、いろんながん患者さんと集まってその日に食事をしました。

食事をしたメンバーに「ROS1ポジティブ♪」という遺伝子異常の患者会をされている方がいらっしゃったんですね。そのときに、私自身がHER2という遺伝子の異常が分かっていて。乳がんや胃がんの患者さんだったらHER2の患者さんはいっぱいいたんですけど、肺がん患者でHER2の遺伝子って希少遺伝子の部類で全体の2〜3%だったんですね。

自分の周りにも患者会の方に聞いても、HER2の肺がん患者の方って全然いなくて。
同じ病気の人達が集まれる場に、自分自身が出会えたらいいなという想いもあって。どのくらい人が集まるか分からないけど、とりあえず声をあげてみようと、ブログで発信してHER2に特化した患者会を立ち上げました。

清水さんが立ち上げた患者会『肺がんHER2「HERHER」』のウェブサイト


立ち上げてみたら「実は私もHER2で」とポロポロ声をかけてもらえました。ブログをずっと見てくれていた方も「伝えていなかったんだけど、実は自分もHER2です。患者会を立ち上げるなら加わって話したいです」と、少しずつ輪が広がっていきました。

私が運営する患者会は、HER2という遺伝子の異常で集まっている患者会で、全国からメンバーが集まり、オンライン上でつながりあっています。名前や顔出しをしたくない方もいるので、Facebookの非公開グループを使ってやり取りをしています。

入会希望があって、承認しているメンバーが30名ほど。活動内容は「こういう治験が走っていて」など、HER2の臨床試験の情報や臨床試験の結果の情報共有がメインです。
自分自身もそういう治療につながる情報が欲しかったですし、他のメンバーにも情報をキャッチしたら教えてほしいという気持ちが強かったので。

ーー声の障害マークやキャンサー名刺についても教えていただけますか。

もともと私はデザインの仕事、クリエイティブなことをやってきた経験があります。

手術で左側の反回神経を切って声が出にくくなって、今は会話できるくらいのボリュームは出るようになっていますが、手術が終わったときは声がかすかすで聞き取りづらく、会話を通して意思疎通ができなかった経験があります。見た目では分からなかったと思いますが、しんどい思いをして悩んでいました。

どうにかして「自分は声が出にくいんですよ」と意思表示できるものや、人とコミュニケーションするためのツールがあるといいなと思い、声の障害のマークというものを提案しました。

声の障害マーク


また、今はコロナでオンラインで直接人と会うことが少なくなっていますが、当時はセミナーや学会も現地開催でした。

“がん患者の清水佳佑さん”として参加しているときに、会社の名刺を渡すのも変だし、患者としての自分で、挨拶やその後もつながれるようなツールがあったらいいなと思い、キャンサー名刺というものを作りました。

がん患者同士でやり取りするときに、どんな情報を名刺に入れたらいいか、ブログでつながりのあるがん患者の仲間と一緒に考えて作りました。
人によって名刺に入れたい情報も違って、個人情報なので住所は入れたくないという人もいれば、治療歴も簡単に入れてあとで確かめられた方がいいねとか。ある程度のフォーマットを用意していて、入れる方は住所や電話番号、あとは個人で伝えたい治療のこととか、自己紹介メッセージとか、ある程度の文字数に合わせた枠を設けています。

コロナ禍でほとんどがオンラインになっているので、名刺の出番が少なくなっていますが、オンラインで必要な自己紹介のフォーマットみたいなものがあってもいいなと思います。

キャンサー名刺

患者の声を、届けるために

ーー全国がん患者団体連合会(全がん連)のPPI委員会に参加されたきっかけを教えていただけますか。

「今度全がん連でPPI(Patient and Public Involvement)委員会というのが立ち上がるから、興味あれば全がん連に入って参加しませんか」とお誘いがあり、2年前から全がん連に入ってPPI委員会に参加することになりました。

参考:
一般社団法人 全国がん患者団体連合会(全がん連)
研究への患者・市民参画(PPI)

2018年に国立がん研究センターが主催する患者・市民パネルという活動に参加しているときに、ワークショップの中でPPIの話題がありました。

PPIとは、医療分野の研究や開発に対して、患者の声を取り入れていこうという概念です。私自身、治療しながらいろんなところに患者の声が届いていないと目の当たりにして、何か積極的にできることはないかなと考えていました。そのような思いもあり、PPI委員会に参加することにしました。

参考:患者・市民パネル|国立がん研究センター

PPI自体が始まったばかりのところもあって、委員会の中でも「そもそも、PPIってなんだろう」というところから話し合ったり、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)から発信されたPPIのガイドブックの読み解きをして感想をシェアしたりして、お互いに理解を深めながらやっています。まだ成熟しているものではなくて、探りながらみんなで話し合って前に進めている状況です。

参考:
患者・市民参画(PPI)ガイドブック 
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構

委員会のメンバーは、全がん連の理事の方であったり、全がん連に入っている患者会の代表の方などです。がん患者さん、経験者、ご家族、看護師の方と共に活動しています。

ーーなかなか患者の声が届かないと感じられる部分があったということですが、どのような場面で声が届いていないと感じられましたか。

治験のプロトコルについて、製薬会社さんとの意見交換会に参加したことがあります。
治験の計画に対して患者の意見を求められた際「治験のこの期間に副作用があるのに、検査に行くの大変だよね」など、経験したときに負担が大きいと感じたところがありましたが、その部分について治験計画書の中で配慮がなかったりしました。

参考:治験とは|SMT

薬の開発や治験を計画する側がどれだけ考えても、分からないところは多くあって、自分が感じたことをちゃんと伝えないと、開発している人も分からないことがあるんだと実感しました。
今も治験の同意説明文書を見てモヤモヤすることや、もっとこうした方がいいんじゃないかと感じることがあります。治療を経験する中で、矛盾点や改善してほしいポイントを感じています。

また、患者会をやっていると、他の患者さんからも「こういう風にしてほしい」といった声を日常的に聞きます。医師、看護師、製薬会社などに対して、伝えなければ分からない患者さんの声は、たくさんあると思います。特にこの1〜2年はそういったところに積極的に参加していますが、お互い知らなかったことを話し合って、うまくギャップを埋めていく必要があると感じています。

いろいろな方との交流や治療の体験を通して、そういったギャップに少しずつ気づき始めて、気づいたことをアウトプットしたら反応があって、アップデートを繰り返しているような感じですかね。
4〜5年前、自分で患者会を立ち上げたときは、正直こんな風にしようとは思っていませんでした。課題についてもどう行動に移したらいいかも分かっていなかったのですが、いろいろな方と話をしていく中で行動につなげていっています。


少しずつ広がる、患者の声を届ける機会

これまでの活動を通して出会った方のお誘いで、製薬企業の意見交換会に参加したときに、患者と連携して活動している部署の方とつながりました。その方がDIAの運営もされている方で「今度DIAで臨床試験のことを話すプログラムがあるので、お話してもらえませんか」と依頼があり「患者から見た臨床試験とは」というテーマで発表させてもらいました。

■ DIAとは?
規制当局・企業・アカデミア・患者さんとの間の立場を超えた情報交換やディスカッションができる場を提供する。また医薬品、医療機器、再生医療製品をはじめとする医療用製品の研究開発、ライフサイクルマネジメントにおけるイノベーションの実現をサポートするために教育活動を行う。
参考:DIA Japan

DIAの中に患者と連携して仕事をしている方や興味がある方が集まる有志のコミュニティがあって、学会での講演がきっかけでお誘いいただき参加することにしました。

昨年だと年4回コミュニティが開催されて「患者さんとこういったことをやっていて、こんなことを考えたり悩んでいます」とか「どういった事例をやっています」など、話し合ったりしました。患者だけじゃなくて、企業や教育委機関、医療機関など様々な立場の方が参加して話し合っています。

ーー患者さんの声を届ける機会は、少しずつ増えていっているんですね。

企業内や医療機関など、いろんなところで患者の声を活かした開発が推進されているというのを聞いていると、想像以上に増えていると思います。2019年からどんどん加速していると感じているので、私が患者会を立ち上げたときから状況は変わってきているのかなと思います。

でも、そういうことは一部でしか発信されてないですし、普及もできていないと思います。まずは行動していることを、世の中にアウトプットして、どんどん広めていくことが必要になってくると思います。

ーー2019年を機に変わったというのは、何か理由があったのでしょうか。

AMEDさんのPPIガイドブックが出たというのも、大きかったのではないでしょうか。それ以前にがん対策基本法の中で、がん患者の声を開発に取り入れていこうというのが追加されたことも影響しているのかなと思います。

ーー最後に治療開始前や治療中の方へメッセージをいただけますか。

不安な状況のときって、自分で情報を調べたりして迷うと思うんですけど、思っている以上に周りには助けてくれる人がたくさんいます。

家族だったり、医師、看護師、相談員、知人、治療していく中ではがん患者の仲間もできて。
そういった方々と話をする中で悩みを解決できたり、生きる希望や勇気をもらえたりもしています。なので、あまり自分でため込みすぎず、いろんな方に甘えられる部分は甘えてしまって、知りたいことや聞きたいことはどんどん聞いていくことが必要だと思います。

治療の選択も、自分自身が納得するのが一番大事なので、悩んだときは納得いくまで医師の方と話し合ってほしいと思います。それでも困ったときは、周りに仲間がいるので不安な気持ちは打ち明けて、できるだけ笑いながら穏やかな生活をしてほしいと思っています。

私自身も治療をしながらですけど、自身の経験を活かしながら活動して、医療研究や開発に役立てたらいいな、いろんな方と一緒に進んでいけたらと思っています。


清水さん、貴重なお話を聞かせていただき、
ありがとうございました!

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